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「契約、ありがとうございます」
「かまわない。こちらもいい買い物をさせてもらった」
「それで」
「わかっている。以前からの商会からは希望者への購入として買わせてもらう。私は肌も荒れるし、利用したくないがな。それから、『999本の薔薇』の名は出さずにおこう。しかし、本当に出さなくて良いのか?」
「はい、問題ありません。対応、感謝いたします」
確か攻略対象者の一人の商会は王家御用達だったはずだし、下手に追い出してストーリーがズレるのは阻止したいもの。勿論、我が商会の名前を出さないのはただ単に今は有名になりすぎるのを防ぐためでもある。
「ご用があれば、私なり、我が母なりに声をおかけいただければ」
「あい、わかった。遠慮なく声をかけさせてもらおう」
遠慮はしていただきたいなぁ。口には出せないけれど。
商談は成立。お母様からの贈り物という形で商品を納入することとなった。まさか、妃殿下に気に入られてしまうとは思いもよらなかったけれど、肌荒れは女性にとって大敵だもの、仕方がないわ。
見送りは妃殿下自身がしてくださるらしく、私は妃殿下の話に耳を傾けながら、後について歩く。
「え、ジラルディエール嬢!? なんで、まだ、城に??」
「おぉ、イニャスか、ちょうどよい。後であのバカを私の部屋に連れてこい」
「うぇっ、妃殿下、いらっしゃったのですね。いや、え、それより、どういうことで??」
私の姿に驚いたのは確か殿下の侍従の方。金糸の髪にアクアマリンのような蒼い目がとても印象的でよく覚えてる。王子と聞かれて思い浮かべそうな容姿ではあるけど、なんだか喋ると残念な人の気配がするわ。そんな驚く侍従を気にすることなく妃殿下は丁度いいと笑う。なるほど、イニャス様と言うのね。
「なに、茶会のあとに私とも茶会をしてたのだよ。わざわざ、再度呼ぶのもかわいそうだろう?」
「いや、それならば、そうと」
「いえば、あのバカも混ざるだろ。女同士の話だ。男はいらん」
「あ、はい」
もはや、殿下の呼び方がバカなのだけど。しかも、イニャス様も訂正されないし。貴方の主人ではなくて?
「それでは、殿下を妃殿下の部屋に案内したら良いので?」
「あぁ、そうだ。私は先に彼女を馬車まで送ってくる。先に部屋で待っていても構わんぞ」
「自分がジラルディエール嬢を送って、妃殿下かそのまま殿下のところに行くとか」
「なぜ?」
「いえ、ただ単純に思っただけであります。失礼します!」
逃げるようにピャッといなくなったイニャス様。まぁ、彼が提案した気持ちもわかるわ。私も思うもの。なぜ、妃殿下に案内されてるのだろうって。そこは普通使用人の役目ではと。他の方達が何も言わないから私も何も言えなかったのだけど。
「あの、先程の方は」
「あぁ、ヤツな。イニャス・ギルメット。エルの侍従だ。本来はエルの諌め役であり、導き手であるはずなのだがな。どうにも彼奴はエルに甘くてな。ただ、エルもエルで懐いてもおるし、信頼しておるしで今更変更させるのも可哀想でな」
そのままにしておると妃殿下。イニャス様と呼ぶよりはギルメット様と呼ぶ方が良さそうね。
「エルと共にいるのであれば、関わることが増えよう」
「そうですね」
ただ、未来の殿下の隣に彼はいなかった。その上、殿下の側には侍従は控えていなかった。同年の側近はいたけれど。なぜかしら。それにギルメット様はーー。
「ローズ、と呼んでも良いか? エギィから愛称で聞かされていてな、それで音が耳に残っているのだ」
「えぇ、かまいませんわ。むしろ、妃殿下からそう呼ばれるのは光栄でございます」
「ありがとう、ローズ。それで、もしかして、あのバカだけでなくイニャスも君を考え込ませるようなことをやったのかな?」
「いえ、いえいえ、とんでもございません。本日、初めて私に声をかけられたので」
「そう、それならば良い。何かあったら、遠慮なくいうといい」
ギルメット様と別れてから思考に陥っていた私。唐突に何を思ったかそんな提案をされ、私の思考は切断された。そして、何事もなかったかのように馬車まで案内され、見送られてしまった。妃殿下が自身が見送りをされるのはどうかと尋ねてしまったが、それに妃殿下は今更かと笑い、騎士をしていた頃の名残だ気にするなとおっしゃっていた。そういえば、騎士を多く輩出する伯爵家のご出身でしたね。妃殿下、騎士をされてたのに何故王妃になったのだろう。お母様なら、その辺知ってそうね。私の思考は気付けば妃殿下に塗りつぶされた。
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明日はエルキュール視点







