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「来年は夜会に出れるか?」
久しぶりの茶会。開口第一声がそれ。
「わかりかねますわ。だって、来年何が起こるかわかりませんもの」
今年だってまさか天の民の到来に毒治療、移住と忙しくなったのだから。移住となれば、仕事の斡旋もしなければいけないし、我が領地のルールも覚えてもらわないとならない。お父様に任された以上、しっかりとやりたかったわけだし。とはいえ、私とて出れるものなら出たかったわ。今年は私が普通のドレスを着るようになったからとお母様がとっても張り切ってたわけだし。結局、作ったはいいけれど、着なかったけれど。来年に回すのは無理ね。きっとサイズが合わなくなるもの。とすれば、サイズが合う令嬢にーー。
「……貸衣装、もしくは格安での販売。可能ではあるわね。貴族といえ、困窮していれば新しいドレスや礼服は易々と作れるわけではないし。有用かもしれないわ」
帰ったら、ナタンたちと相談してみましょう。お母様を通してもいいかもしれないわね。そんなことを考えているとジーッと突き刺さるような視線。目を上げれば、バチリと殿下と目が合う。
「なんで、そんな微笑ましそうに見るのです」
「いや、君が楽しそうだなと思って」
ニコニコと微笑まれる殿下。私、貴方に何かしたかしら? そんなに気に入られるようなことはしてないはずなのだけど。
「君が楽しそうのはいいけど、あまり公爵の仕事を増やすようなことはどうかと思うよ。それに女性が仕事や勉学に励むというのは好ましくない」
「あら、左様でございますか。では、そのお言葉を王妃殿下にも言って差し上げるとよろしいかと」
「……いや、母上は」
「私と同じ女性ですわ」
「うん」
しょぼんとされてしまったわ。可愛らしい。いや、カチンときて言ってしまったけど本当のことでしょ。私よりも王妃殿下は仕事をされてるし、未だに日々勉学に励んでおられる。王妃だから許される。そんなバカなことはないでしょ。まぁ、彼からしたらおバカな方が都合がいいのかもしれないけど。私個人としては脳内お花畑を演じなくていい上に、勉学に励めば嫌われるとわかっただけ良しとしましょう。
「殿下、これだけは言っておきます」
「なに」
「学ぶということに男も女も関係ありません。勿論、年齢も。本人のやる気があれば良いのです。周りの理解があればなお環境は整うでしょうが。仕事に関しても同様です。まぁ、それもまた得手不得手はあるでしょうけど」
それだけいうと私は沈黙した。何度か殿下から話しかけられたが、答えなかった。しょんぼりとした殿下にすごく心が痛めつけられるけど、しっかりとわかってもらわないといけないもの。そして、お茶会の最後まで私は喋らなかった。
「それでは、失礼致します」
「ジラルディエール嬢」
「……また後日」
呼び止められてしまったけど、私は殿下を一瞥してそう呟いて、足早にその場を後にした。
使用人の後について馬車へと向かっていると、腕を組んで壁に凭れている方がいた。なんと、勇ましいことか。若かりし頃は女傑と名を馳せただけあるかもしれない。ただ、使用人の方にも何も言われたかったため、私は素知らぬ顔でその方の前を通り過ぎようとしたのだが声をかけられた。
「偶然ね」
いえ、貴女待っておられましたよね。
「ご挨拶がーー」
「不要よ。さ、行こう」
拒否権がない。いや、なんとなくわかってはおりましたけれど。
「あのまま放っておいたら、貴女、帰っただろう」
「まぁ、お手紙は頂戴しておりましたが、明確な日時は記載されておりませんでしたので」
「えぇ、書かなかったからね。どうせ、城に来るのだからその時で構わないだろうと思ったし、下手に貴女を呼び出してたら、突撃されるだろうし」
突撃? 一体誰に? お母様とかかしら。
「貴女の婚約者に」
「あー、なるほど。いえ、待ってください。そのようなことはないかと。そもそも貴女様の息子ではございませんか」
「えぇ、私の息子だな。アレ、自覚がないだけで日々陛下に似てきてるのだが」
ケロリとめんどくさいという妃殿下。いえ、ほんと、貴女様も認められましたが、貴女様の息子でしょうに。そうしている間にどこかの一室へと通された。ずらっと並ぶメイドたちに落ち着いていながらも気品あふれる内装。貴賓室ではないだろうけど、一体ここは。いや、想像したくもないのだけど。
「ようこそ、私の部屋へ。歓迎しよう」
妃殿下の部屋に通されてしまった。いいのだろうかと入らずにいるとすぐに妃殿下にお母様の許可はもらっていると言われてしまう。
「失礼致します」
「自分の部屋のように思ってもらってかまわないぞ」
「無茶を言わないでくださいまし」
ふふふと笑う妃殿下。ふと思い返せば、妃殿下は私と殿下の結婚に反対されてたのではなかったか。
「言っておくけど、私が貴女とエルキュールの婚約解消を推していたのは貴女があまりにも無理をしていたからだ。ほぼほぼ自然体に落ち着いた今はどちらでもいい。まぁ、貴女みたいな子が義娘になってくれるのなら嬉しいことこの上ない」
解消がだいぶ、難易度が上がってしまってるわね。陛下自身は解消に反対であるし、殿下もその様子がここ最近見られない。妃殿下に関してはどちらでもと言いつつも王族としての立場を取られるだろうから、我が家だけの意見では到底覆せそうにないわね。
「お言葉ですが、私は殿下の好みから外れてるかと思いますが」
「おや、どうして?」
今までのこと、今日のことを話してみれば、妃殿下は笑顔。えぇ、笑顔。目が笑っていない。
「そう、そうか。何を遠回しなことをしておるのだ、あのバカは」
ちょっと、聞いてはいけない言葉が聞こえた気がするわ。後でこってり絞っておくわとの言葉をいただいたが、嫌われてるのならそのまま解消をしてくれればいいのだけど。でも、妃殿下はそのつもりはなさそうね。
「まぁ、バカな息子のことは置いておくとしてね、これについてなんだが」
ことりとテーブルに置かれたのは我が商会で取り扱っている化粧品。これ、提供したのお母様では???
「買わせてもらおう」
「……立ち上がったばかりの商会ですよ?」
「勿論、知っている。ただ、優れたものを提供してくれるのなら、古かろうが新しかろうが関係あるまい」
ニッと笑った妃殿下に私は居住まいを整え、商談へと意識を切り替えた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
王妃様は男勝りです。むしろ、じゃないと王の手綱は握れないだろうと言われたから。社交の場では女性らしい口調を意識してるけれど、自分の縄張りともなれば普段のものになる。
一応の予定として次話はローズ、その次はエルキュール視点になるかと。王妃様、息子を叩きのめす。







