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「すまない、私では役に立たなかった」
集落をでた理由は話せても、そうなった詳細は話せなかった、情報を持ってなかったことに族長は酷く落ち込む。確かに、“穢れ”というものがどういうものかわからなかったわね。
「それは重症者が完治した際にでも伺えば良い。ちなみにローズ、何かわかることはあったか?」
解毒した時に何を感じたというのが正解かしら。えぇ、まぁ、感じたものはあったわね。
「おそらく、彼らの体を蝕んでいたのは毒でしょう」
「毒? それはありえない」
「普通の毒ならば、ありえないでしょう。けれど、あれは呪いに近いものだったわ」
本来の毒ならば、受けたものだけで完結される。まぁ、それを食べたものも毒を受けるというのはあるけれど。それをイメージするのであれば、ありえないと言いたくなる気持ちもわかる。でも、無毒化した私が感じたのは確かに毒であるということ。
「おそらく、毒を受けたものが新たな毒を生成する。故に世話をしてくれた方にも毒が移ったのでしょう」
「人から人に移す毒か。呪いと考えたほうがいいのではないか?」
「いえ、これは毒とした方がわかりやすいのです。この毒というのは人から人だけではないのです。今回、いち早く気づいた理由は土が毒素に侵されたためでした」
「なるほど、土の民だな」
「はい、彼が気づき、土釜であの一帯を隔離していなければ、いずれは地下水に到達。我々の口に入り、毒はさらに広がったことでしょう。そのため、生成された毒は土にも染み込む性質もあると仮定できます。つまり、呪いに近い毒なのです」
「まさか、薔薇の娘が見逃せないと言ったのは」
「えぇ、貴方方があのままあの状態だった場合、我が領民たちにも被害が及ぶの」
「なんてことだ。私たちはそんなつもりは」
「勿論、わかってるわ。貴方は自分たち一族以外の被害を減らそうと思って、私に去れと言ったって」
移る穢れだとわかってしまった以上、もう誰かも巻き込みたくなかった。自分たちが死んで、そこで終わりにしようとした。
「族長、一つ尋ねるが良いかね?」
「はい、何なりと」
「君のところのご老人たちは“穢れ”のことを知っているようだったが、君はどうだね?」
「幼い頃から、気をつけるべきことであるというのは伝えられていた。けれど、私が生まれてからその事例を聞いたことはなかった」
「つまり、ご老人たちの若き頃にはその“穢れ”の存在があったが、君たちの世代には現れていなかったということか」
ふむ、と考え込むお父様。確かにご老人たちは“穢れ”がどんなものであれ、存在することは知っていた。けれど、それは自分たちの身が危険に晒されると知っているだけに過ぎない。
「……物語だと、よくありきたりなのは生物兵器を作ろうとしていたというあたりかしら」
移る毒を作るために彼らが被害に遭ったとしたら、到底許せる所業ではないわね。
「ローズ」
「はい、何でしょう、お父様」
「お前が想像するその生物兵器とはどんなものだ?」
「え、声に出てましたの? 気にしなくても」
「構わない。一意見として聞いている」
「……そうですわね、毒を自在に扱う毒人間とかでしょうか。またはその極致まで至らずとも毒を撒き散らすための道具として使用されるかと。適当なところに置いておけば毒が溶け出し、水を侵し、毒を広げることになるので、それが自国の人間でなければ、なお敵の目は欺けれるでしょう」
最悪なことに利用されそうになっていたことに族長は顔を青くする。責任感のある彼だもの当然ね。私の意見を聞き、お父様は過去に一度、戦争の中で移る毒が使用された事例があるといった。そして、それから族長に元の集落の場所を尋ねる。ただ、彼らは地名がわからない。どこの国でどの場所だとわからないそう。だけど、飛んだ方角は太陽の位置や星の位置を見て、わかるという。そこから、星学の専門家を呼び、彼らが来た方角を特定する。
「当たっては欲しくなかったが、ほぼ間違いなかろう。この件については黙するように。陛下には私から直接伝えておこう。行きたくはないのだがな」
お父様は大きな溜息を吐くとあとはお前の好きにしなさいと言って出ていかれた。あとは私の好きにとはどういうことなのかしら。
「とりあえずは体調が万全になるまではここにいてもらって構わないわ。その後のことはまたその時にでも話し合いましょう」
「恩情、感謝する」
後日、私たち商会と彼ら天の民の間で話し合いが行われた。結果、決まったのは万年木の森への移住。そして、我が商会での働き手になってくれるということだった。勿論、一部には回復したから元の集落の方へと戻るという方達もいた。そうだとしても、私としては万々歳すぎるんだけど、いいのかしら。
「貴女には大恩がある。遠慮なく使ってくれるといい」
「遠慮なくは使わせてもらうわ。でも、ちゃんと給金も休暇も与えるわ。無償の労働はさせないから」
これは絶対に外せないわと言えば、彼らは貴女が思うままにと拱手した。
「お嬢が天の民を手中に納めたぞ」
「うーん、つぎ、海の民?」
「ガッハッハ、ありそうだの」
「ないわよ! そんなにホイホイ幻獣種が出てきてどうするのよ!? 私、もうお腹いっぱいだわ」
ここまで、読んでいただきありがとうございます。
次回から時系列的には元に戻るかと思う。
多分、お父様が城に行くとヴィルジールって陛下自ら出迎えそうですね。いや、あの人はやる。やって、宰相とかに回収されるんだ。だから、来たくなかったんだとはお父様談。
王家主催のとある夜会
「ヴィルジールがいない」
「ジラルディエール嬢がいない」
今年も、今年こそは来るだろうと思っていたのに目的の人物ではなく、息子であり兄であるグラシアンとその妻であり母であるエグランティーヌの登場に思いっきり落胆する陛下とその息子。その姿にグラシアンはプルプルと震える唇をしっかり引き締め、口上を述べる。それに対し、陛下はあーうん、はいはい、と適当。妻である妃に脇腹を抓られるもその態度は変わらなかった。
「陛下が悪いわね」
「構わないわ。想像できたことだもの。ただ、殿下に関しては予想外だったわ」
こそりと言葉を交わす妃とエグランティーヌ。古くからの友人であるから、その辺の内情も理解していた。
「それで、公爵とご令嬢が来れない理由は?」
「ちょっとした問題が領地であったらしいわ」
「あぁ、だから、あの噂なのね」
「えぇ、そうみたい。でも、実際は違うのよ」
「もう理解したつもりよ。もしかしたら、そういうスキルでも持ってるんではないの?」
「どうなのかしら、わからないわ」
会場に流れていた噂はローズモンドがとんでもないことを領地でしでかした。それは公爵に愛想を尽かされる程のこと。人々の前には出せないと閉じ込めるために公爵自らローズモンドについての対応をしているのだろうと。実際はどちらも仕事と後始末に忙殺されていただけであるが、それを知るのは家族と国王一家と関係者ぐらいであった。
「ちょ、エル、落ち込みすぎ!!! いや、わかってるけどな! 頑張っておめかししたもんな、お前」
会場の隅では一人の侍従が笑い過ぎて過呼吸を起こしかけていたとかいないとか。







