34 side:Another
天の民の生活は主に狩猟や採取で構成されている。体の弱いものやまだ幼いものたちは集落に残り、織り物を作ったり、家事を行ったりと分担して行なっている。
問題が起こった日も当然そのように過ごしていた。なんの変わりもない日常のはずだった。そうであるはずだった。その日はたまたま、若い族長と数人の若者は用事があって別の一族と共にいた。
「二の族族長、お前たちは穢れを持ち込んだ」
「何? 何のことだ」
年若い族長であるから言われのないことを告げられることはあった。今回もそうであろうと正直思った。けれど、そうではなかった。まるで連行されるかのように自分たちの一族に連れて行かれるとそこには苦しみ呻く一族のものたち。
「森で穢れに侵された。それなのにそのまま帰ってきた」
「穢れは移る。穢れは受け入れられぬ」
口々に老鳥たちがぐちぐちと文句を垂れる。採取を狩猟をしてきてくれるものたちがいるからこそ、老いてもなお生きていられるといのにそれすらも忘れたかと族長は怒りを覚える。
「二の族族長、決断せよ」
彼らを捨てるか、それとも彼らと共にこの集落を去るか。一の族、三の族、四の族とそれぞれの族長に迫られる。
「……うぅ、あ……ぞ、く、ちょ」
助けて欲しいと訴えられ、若い族長はそれを捨てることなどできなかった。
「時間をくれ」
「時間はない、即刻決めよ」
「去るための時間を寄越せ。残りたいものたちは他の一族に身を寄せよ。共に行こうとするものたちは家財を纏めよ」
再三迫る言葉に若き族長は苛立ちをぶつけるように告げる。それに二の族は慌ただしくなる。残るものは多く、共に行こうとするものは当然多くはなかった。
「それがお前の決断か。青いな」
「青くても構わない。一族を、妻を捨てることなど、できないのだから」
一の族族長にそう言われても、若き族長の判断は変わらなかった。苦しんでいる一族の中に自分の妻がいた。彼女を捨てることなど、目にした時にできないとわかっていた。一の族族長とは二言三言言葉を交わしていると出ていくものたちの準備ができたらしい。
「それでは、一の族族長、他一族の皆様方、達者で」
「あぁ、お前たちこそ、達者でな。いつか、また会えることを夢想しよう」
またなどないだろうにと思いながらも、若き族長は苦しむ一族を乗せた布をしっかりと掴み、空へと飛び立つ。それが合図となり、他の同行者たちも家財道具や家族を包んだ布を掴み、飛び立った。
何とかなる。そう思っていた。そう思っていたけれど、現実というのは厳しくも残酷なものだった。
きっかけは苦しむものたちを世話してくれていたものが同じように苦しみ出したから。“穢れは移る”。老鳥たちの言っていた通りだったのか。それを聞いて、集落へと戻ると声を上げるものもいた。
「好きにするといい」
族長が言えるのはそれだけだった。どんどんと一族は減った。勿論、死者は出ていない。ただ、集落へと戻ったものが多かったのだ。
「ぞ、くぅ、ちょ……、おい、と、ぶ」
健全者も少なくなり、家財道具も捨てざるを得なくなってきた。安全な場所までせめてと考えていたが、それも無理になる。族長であるからと青年は多くの者たちと家財道具も運んだ。その姿に触発されたのか苦しんでいた者たちが苦しみながらも空へと戻ってきた。そして、複数人で合わせて道具も人も運ぶ。
どこまで移動したかわからない。ただひたすらに彼らは飛んだ。飛んで飛んで、巨木の立ち並ぶ森へと入り、通り抜ける途中でぷつんと糸が切れた。限界だった。族長もまた旅の中で穢れに侵されていた。気づかなかった、否気づかないふりをしていた。少しでも一族の皆が希望を持てるようにと。
巨木の枝に衝撃が吸収されたのか、地面に落ちた時には落ち葉がクッションとなった。けれど、彼らはそこから動けなかった。蝕んでいるものが身体中を侵す。苦しみだけに支配されてしまった。あぁ、苦しみながら死ぬのだなと希望などひとかけらも抱くこともなくなった。
「けれど、我々は薔薇の娘に助けられた」
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