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「あぐ……は、ぐっ……」
ざっと周りを確認し、いるのは十数人と言ったところかしら。あちらこちらから呻き声が上がっている。万年木の森であるから、日はあまり差し込まず薄暗い。そこに怨嗟のような呻き声を上げる人々が転がる。まるで地獄絵図のようね。それに家財道具かしら、縄や布が巻き付けられたものがあちらこちらに散乱している。もしかして、引っ越しか何かでこちらまで来たのかしら。それとも何かから逃げるために?
「……ほぅ……て、…く、れ」
私がいるのが去っていかないことに気づいた青年がそう声を上げる。もしかして、この方、放っておいてくれとでも言いました?
「残念ながら、見逃すことなどできるはずがないじゃない」
「な……に、を」
「ここは我が家の土地よ。領民の安全を守るのも私の役目でもあるの」
「そ、でも……捨て」
「はぁ、それにこの状態ではまともにお話すらできないわね」
人間に触れられるのは嫌でしょうが我慢なさいと彼の羽へと触れる。それだけで、彼の中の呪いか毒が無効化されたのが確認できる。そうね、これは確かに判断がしずらいわ。なんというか、呪いに近い毒ね。
「体力もないでしょうから、回復薬を飲みなさい」
何人いるかまでは把握してなかったから数名分しかないけれど、彼らの毒さえ取り除けて仕舞えば、どうとでもなる。ピコンとレベルアップのような音が頭の中に響く。そして、私の目の前に文字が現れた。
『熟知アップ:範囲無毒化が可能になりました』
まるでゲームね。いえ、乙女ゲームなのだから、ゲームで間違いないのだけど。それにしても熟知が上がるとこういう感じに出るのかしら。後でお父様に確認しておいた方がいいわね。下手に熟知を上げて宙を見つめることがあったら、おかしい娘になってしまうもの。すでに十分おかしな娘ではあるてしょうけど。
それにしても、範囲無毒化、ね。いちいち触れなくていいから、楽になるのかしら。でも、どうやってこれ使うの?
「範囲、土釜内、無毒化、とかかしら」
ポツリと呟くと地面が光り、再度ピコンピコンと音が頭に響いた。
『熟知アップ:スキルの使用選択が可能になりました』
『熟知アップ:毒、呪いの可視が可能になりました』
『熟知アップ:毒の抽出が可能になりました』
まだ、ピコンピコンと鳴ってるわ。でも、特典的なものは先程のを含め文字になった四点のようね。一気にレベルが上がってしまったから、大体どのぐらい熟知が上がったのかわからないわね。これに関してもお父様に要相談ね。
「……なにが、どうなって」
そうよね、突然体を蝕んでいたナニかが消え失せたらそうなるわよね。他の方たちも動けず困惑をしているみたい。
「あ、赤ちゃん!!」
バッと立ち上がった女性はそう言うとふらりふらりと歩き、近くに転がったお包みを抱きかかえる。
「あ、ああ、いきて、いきて」
「回復薬が効くかどうかはわかりませんがどうぞ。貴女も飲んでください」
女性の反応を見て、赤子が危険な状態であることを把握した私はすぐさま回復薬を差し出した。勿論、母親であろう彼女にも。ただ、彼女には自分が飲むというのは考えられなかったのだろっ、赤子に一生懸命に瓶を傾けていた。
「けぷんっ」
軽く咳をしたかと思うともういらないとばかりに小さな翼が瓶を押しのける。
「あうあうあー」
大きく泣き始めた赤子に女性は安心したのかへなへなと座り込み、赤子と一緒に泣き始めてしまった。
「娘」
あらあらどうしましょうと考えていると後ろから声をかけられた。振り返ってみるとあの青年が立っていた。
「……感謝、する」
「あら、私は私のするべきをしたまで、それだけよ。ただ、そうね、貴方達のこうなった、なってしまった原因は聞かせてもらうわ」
「ああ」
「ひとまず、まだろくに動けないでしょうから、ちょっと待って頂戴」
すぐに応援を呼んでくるからと言う前にお嬢、おじょーと声が聞こえた。それから、複数人の声も。
「私が動く必要はないみたいね」
やってきたのはフォルジュにルヴェール、それからお父様が寄越してくれらしい騎士たち。フォルジュは毒の反応が無くなってすぐに動いてくれたようね。助かるわ。
それから、騎士たちの助けも借り、天の民たちを我が商会へ連れ帰った。家財道具は集めて倉庫に保管させてもらい、まず何よりも彼らの体調を整えることにした。大事なことだもの。
「土の民に森の民。貴女様は一体」
「何者も何も普通の人間よ」
私の傍であっちに行ったりこっちに行ったりとするフォルジュとルヴェールを見て、青年は私を不思議そうに見るけど、何も不思議なことはないわ。私自身、普通の人間なんだもの。ただ、フォルジュは私の答えに苦笑いを浮かべていたけど。
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