27 side:Heracle
それはイニャスに見せなかったメモの片隅に書いてあった。
『ローズモンド・ジラルディエール』
ジラルディエール公爵家の令嬢。今作の悪役令嬢で死に役。彼女がやり過ぎたのが原因でもあるけれど、ただただ殿下を一途に愛した哀れな子。私は彼女のように死にたくはない。
「大人びた子がいい」
いつだったか、俺が言った言葉を紙上の彼女は聞いていたらしい。だから、背伸びをして大人っぽい化粧をと頼んで似合っていない厚化粧をして、少しでも大人っぽく見せようと露出の高い格好をして好かれようとした。適当に答えたと思われる「いいんじゃない」という言葉を信じて、ずっとその格好を続けた彼女。疑問に思ったことも一度や二度じゃないだろう。でも、褒められたからそうであり続けたいときっと彼女は思ってしまった。
「紙上の俺も馬鹿だが、今の俺も馬鹿だな」
どちらにしろ、彼女を知ろうと思わなかったのだから。彼女が婚約解消を申し出なければ、父上にそれを差し止められなければ、きっと彼女を知ろうなんて気にもならなかった。けれど、今は知れば知るほど彼女のことがわからなくなる。でも、ある意味で沼にハマってしまった感覚もある。
ソファに体を沈め、思考する。
そもそも、彼女だってあの厚化粧だとかドレスは好みじゃないだろ。ただただ、俺に嫌われるためだけにやってるはずだ。だって、普段の彼女はあんな格好をしてなかったんだ。間違いない。
「どうしたものか」
できれば、普段の彼女がいい。ただ、それを言って仕舞えばなぜ知ってるのかと疑問を持たれかねない。彼女のことだから、すぐに影の存在に気づきそうなものだが。それに何より日常を警戒されたくない。うん、よくない。
ジラルディエール嬢がデビュタント時体調不良だったことも考慮して余分にお茶会までの時間を取ったのだが、その間に聞こえてきたのは彼女の悪評。やれ、男を買っただの、父親である公爵に泣きついて、自領の男爵を更迭させただのと色々と聞こえてきた。ただ、影の調査では不当に扱われていた技師を商会で雇った。男爵の不正を調査し、その報告を受けた公爵によって更迭されたというのが事実。まぁ、その噂を鵜呑みにして父上に奏上した貴族もいたが。結局は男爵の不正を知って、取り下げていた。
「……父上はジラルディエール公爵が大好きすぎて、評価が甘いとかって聞くんだが」
「まぁ、それは間違ってないだろうな。あの方の大好き具合気持ち悪いぐらいなんで。だいぶ前に『これ、ヴィルジールに似合う! 絶対に似合う! よし、贈ろう』とか言って、杖を贈ってたみたいだし。王妃殿下への贈り物は近くにあったものを適当にだとかなんとか」
「父上……」
「まぁ、王妃殿下もわかりきったことと全く動じなかったらしいけど」
なるほど、父上のジラルディエール公爵への噂はおおよそ真実ということか。そういえば、あの時も「ヴィルジールが来る」と小躍りをしてた気が。いや、俺は何も見なかった。知らない。覚えてない。そんなことはなかった。
「さて、そろそろお茶会の時間では?」
「ん、ああ、そうだな。行くとしよう」
久々のお茶会。いつもの場所に向かえば、すでに彼女は座っていた。そして、俺が来たのがわかるとスッと立ち上がり丁寧なカーテシーをする。
「ご機嫌麗しゅうございます、殿下。先日の夜会では欠席となり、大変申し訳ございませんでした」
「いや、公爵から体調不良だというのを聞いていたから問題ない。君の体調が戻ったようで何よりだ」
普通に声を返したつもりだったのに、彼女はきょとんと驚いたように目を丸くしていた。彼女が熱に魘されていた時のことを覚えてないようだったから、俺も忘れたことにして対応したつもりだったんだが。
「なんだ?」
「いいえ、なんでもございませんわ。それよりも、解消の方はどうなりました?」
「特に進展はない。あぁ、でも、個人的には今の君を好ましく思い始めてる」
「はい?」
素直に好ましく思っていると告げると呆然としているジラルディエール嬢。厚化粧のはずなのに俺の目には彼女の素顔が見える気がした。うん、悪くない。
「僭越ながら申し上げますが医者にかかったほうがよろしいのでは?」
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
私事ではありますがTwitterの方にエルキュールのイメージイラストを掲載してます。みてみんを使って掲載も考えたんですが、容量が大きかったようで←
俺の確認不足ですな。尚、イラストはアトリモコ様という素晴らしい方に描いていただきました。ほんと、凄いからみんなに見てほしい。
うん、なんとか掲載できないか考えてみます。







