24 side:Heracle
「『何かを言いたげに口をはくはくしてるエル様、可愛すぎか』、『頑張ってるエル様をよしよし撫で撫でしたい』だって」
「頼む、読むな」
なんで、大事な預言らしいものの横にメモ書きで書き殴るのか。しかも、彼女の欲望全開と言っていいほど自由に書かれている。それを読まれたら、その対象だろう俺は恥ずかしくてたまらない。
「いやー、これ見る限りめっちゃ好かれてるよな。ほんと、なんで婚約解消したいのって聞きたいわ」
「死にたくない、から、なんだろ」
「そういや、横の文字が気になって本来のところ全然読めてねぇわ」
「読めよ、本題だぞ」
「一連の流れ的なのは読んだって。ヒロインって子が攻略対象者と恋愛をするって感じだろ」
その恋愛の過程で様々な壁にぶつかり、乗り越えていくというのが大前提。ただ、上手くいかないとバッドエンドらしい。どちらかが死ぬもしくは結局結ばれないという感じのようだ。
「うーん、まあ、とりあえず、一人ずつ見てくか。一応、エルに言われた人物は全員確認をとってきてるし」
「ああ」
二人で紙を覗き込み、名前を確認する。
『エルキュール・ヴェルディエ』
これは俺のことだろう。その名前の下には王太子と書かれている。
「……そ、王太子になれるのか」
ポツリと呟かれた言葉はどこかホッとしたような、でも落胆したような不思議な響きをしていた。そして、そのイニャスの表情もいつものイニャスじゃないような。
「イニャス」
思わず名前をいえば、いやーこれがほんとならめでたいねといつものように笑う。いや、いつものように笑っているように見えた。
「まぁ、父上の子は俺一人だからな」
「確かにそうだな。それはさておいて、えーと、なになに、『ヤンデレ王子』、『バッドエンド生産機』、ヤンデレってなによ? それにバッドエンド生産機って」
俺の言葉にイニャスは話題を変えるように紙を覗き込み、読む。ただ、印象を書き殴ったような言葉に首を傾げる。そして、婚約者である悪役令嬢を嫌気してるだとか書いてあった。悪役令嬢。悪役とは確か物語上の敵役だったか。それが彼女だというのか。
「ヒロインとやらとの出会いは校舎で迷ってるのを見つけて、え、そのまま案内すんの?」
「普通は警備のものに任せて終わりだな」
「だよなー。で、以後はエルの行くところ行くところで出会う。うん、これ、ストーキングされてね?」
やだー、この子怖いというイニャス。正直、俺もどうかと思う。しかも、そんな彼女に心寄せていくだなんて考えられない。
「しかも、エルだけでなく、エルの側近らしい奴らにも粉かけてるんだろ、尻軽も尻軽じゃん」
ないわーといいながら、紙に書かれている人物たちのルートとやらを見ていく。バッドエンドやハッピーエンドと書いてある最後の方はあまり詳細には書かれてはいない。ただ、詳細に書かれてるのはジラルディエール嬢の死に方。
ヒロインを排除しようとしたために婚約破棄の上、絞首刑。パターン違いで火炙り。また別のパターンでは婚約破棄まではそのままで国外追放や修道院へ強制入信。道中で騎士に襲われる、ないしは賊に襲われる、事故に遭うなど。
「こりゃあ、解消してくれって言うわ」
「…………俺じゃない」
「まぁ、そうだろうけど、ジラルディエール嬢からしたら、これもまたエルなんだろ」
しょうがないさとトントンと紙面を指で叩く。
「ただ、これでわかった。彼女が解消を急ぐ理由が」
「学園が始まればエルはヒロインとやらに心を寄せる。更には自分が殺される可能性が大」
「あぁ、それから、自分に向けられない俺への恋情に身を焦がしたくないから」
嫉妬に狂いたくないと言うのもあるかもしれない。ただ、彼女の対応は正当ではないけれど、当然のことだ。なにせ、この中の彼女は王太子の婚約者。王太子に邪な思いを持って近づくものを排除することは彼女の義務であるはずだから。
ほんの少しだけ羨ましく思う。彼女にこれだけ思いを寄せられる紙の中の俺が。あぁ、違うな。彼女は俺を思って、慕ってくれている。でも、それを押し込んで表に出してないだけ。どうすれば、それを表に出させることができるだろうか。
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
明日も引き続きエルキュール視点ですが、明日の分に関しては攻略対象者の名前立場などの確認的な部分が多くなるかと。
学園前にはおさらいのように登場人物を書き出しておきたいですね。







