23 side:Heracle
少し過去に遡ります。大体、ジラルディエール家突撃事件ぐらい。
持って帰ってしまった。返すタイミングがなかった、見つけられなかったんだ。
ジラルディエール公爵邸には一泊させてもらった。イニャスがとてもじゃないが、帰れる状態じゃないだろうと執事が言ったからだ。イニャスが休息をとらなかったのが悪いと思う一方で無理をさせた自覚があったから、その辺は問題はなかった。ただ、宿泊しても、紙の束を返すタイミングは見つからなかったんだ。招かざる客人である俺が勝手に屋敷内を彷徨くわけにもいかなかったから、そりゃそうだろう。その結果、紙の束は今も俺の手の中にある。
「エル、何度見つめてもそれがジラルディエール嬢の元に帰るわけではないし、お前が窃盗したという事実は変わらないからな」
「窃盗じゃ、ない。気になる言葉があったから、つい」
彼女が言った言葉が書いてなかったら、俺は手を出さなかった。でも、書いてあったから、気になったんだ。あと、執事の来るタイミングが悪かった。もう少し後でよかったんだ。
「あのね、まだ若いとはいえ、男女を一緒の部屋に入れておくのは外聞が悪いの。ほんとは俺も一緒に行ければよかったんだけど」
「いや、それはいい、大丈夫だ」
「……なぁ、ほんと、何があった? あの時、顔真っ赤にして戻ってきてたし、なんかあったろ」
「ない、ないったらない!」
あんなことイニャスの目の前でしてたら、絶対にニヤニヤしながら揶揄われるに決まってる。絶対に知られるわけにはいかない。たとえ、それがその時顔を真っ赤にしてたと言われてもだ。
「いやいや、あっただろ。ほら、言ってみ? 陛下には黙ってるからさ」
「人形の服を剥いてたやつに言いたくない」
「待て待て待て、いや、それは違う。ほんとに違う!」
「水も飲まず、用意してもらった食事にも手をつけず、人形の服を剥いてただろ」
「言い方、ねぇ、言い方酷くない?? 俺、エルの育て方間違えちゃった?」
「イニャスに育てられた覚えないんだが」
大袈裟に天を仰ぐイニャス。でも、どんなに嘆こうとも人形の服を剥いてた事実は変わらない。俺の手の中にある紙と同じように。
「いやだってさ、あれは、ズルいだろ。ぽてっとしたボディなのに服の着せ替えもできるとか、おかしくない? あんなのどこにも売ってないぞ?」
「あー、それな、執事に聞いたら、ジラルディエール嬢のお手製らしい」
「作らせたとかじゃなくて、お手製? え、お手製? あれが?」
サロンに案内される最中に執事に机の上にあった人形について尋ねれば、軽く答えてもらえた。「お嬢様のお手製でございます」と。うん、俺も驚いた。まるで人間の服を作るように型紙から作り上げられたあの人形と服。令嬢のお手製というのにも驚きだが、実は屋敷のあちこちにあったらしい。公爵の留守中に何かあった時のために片付けたらしいのだけど、たまたましまい忘れたものがイニャスの目の前にあったようだ。
「ちなみに鋭意商品化を目指しているらしい」
「あーね、確かに、小さい子とか喜びそうだな」
屋敷の中で尋ねてみれば、存外それを求めるのは小さな子ばかりではないらしい。あの時、ちょうど担当してくれたメイドはジラルディエール嬢に頼んで、ジラルディエール家全員分を作ってもらったらしい。普通、仕えるべき主人に頼むかとも思ったけど、曰く試作ということでもあったらしい。他にも劇団の俳優や職場の人間など幅広く作ってるとか。服も着せ替えができるとのことで型紙をもらって自作してるとか聞いてもない情報を教えてくれた。機密、ではないのか、それはと思ったのも一度や二度ではない。
「にしても、彼女のスキルか何かなのかねぇ」
「スキルだとしたら、これはどう説明する?」
紙の束を差し出せば、それなとイニャスは苦笑いを浮かべる。
「遊戯と題してるけど、実際にここに書かれた人物は存在してるし、未来予知と見てもおかしくない部分もあるんだよなぁ」
一定期間の分しかないけれど、何通りかの分岐もあり、明らかに未来を示しているそれ。確かに予知スキルを持つ人物は存在している。けれど、これほどまでに事細かなことまではわからない。基本的に時期はわからないが大災害が来る可能性がわかる、もしくはちょっと先の未来がわかる程度だ。
「彼女はこの未来を怖がっている」
「んー、みたいだな。ちょいちょいメモ書きみたいに死にたくないって書いてるし」
一通り目を通してみたけど、なんでそうなるのか、全くわからない。それに考えている最中に飛び込んでくる無意識に書いてると思う彼女のメモ書きにちょいちょい躓く。
「『小さいエル様可愛い』、『お菓子を頬張ってたエル様、マジで天使。お目目キラキラしてた』だって」
「頼む、読むな」
ここまで、読んでいただきありがとうございます。 もしよければ、☆評価をしていただければ、幸いです。







