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ルヴェールの気持ちが落ち着くと場所を少し移動する。その間、ルヴェールは私の手を握ったままだった。なんだか、まるで体は大人のに中は幼児のようなそんな印象を受ける。
「ここらで大丈夫じゃないか」
「えぇ、そうね」
彼の住んでいたらしい小屋から少し離れた場所。小屋の様子も窺えるし、ちょうど座れそうな段差もあるし、いい選択だわ。
「ルヴェール、聞いていいかしら?」
「なに?」
「ルヴェールはどうして、ここで働いてるの?」
接触して思ったのは引き抜こうという思いよりも、なぜこんな劣悪なところに彼がいるかということ。それに対し、ルヴェールは言葉途切れ途切れに話す。これが、彼の話し方なのかもしれないわね。
「ガラス、きらきら、すごい。みた、おこられた、おどろいた」
言葉のつながりはいまいち分からなかったけれど、彼はその時の様子を動作をつけて説明してくれるからなんとなく理解できる。
「『べんしょしろ!』いわれた」
どうやら、こういうことのようね。
ルヴェールはガラスに興味を持った。そして、ちょうどそこに工房の製品があった。手にとって見ていたら、出てきた工房の人間に怒られ、驚いてその製品を落として壊してしまった。それでその弁償ということで働かされている感じかしら。時期はいつからか本人が覚えてないみたいね。
「そいつがうろつき始めたのは二年くらい前かららしい」
キバチが調べていたらしい情報を渡してくる。そう、二年も前から。食事などは出してもらっていたらしいけど、キバチ曰く残飯のごった煮だそう。私は思わず大きな溜息をついてしまう。
その後も色々と質問し、確認をしていく。
「そう、ありがとうね。それで、これが最後の質問なのだけど、私ところで働いてくれないかしら」
「いい」
うんうんと頷くということは了承ということね。さて、となると彼を引き取るためにやることがあるわね。
「いかがいたします? 恐らく簡単に引き渡しには応じないのでは」
ギーのいうことは最もね。どうやらルヴェールが手慰みに作ったガラスが幻と呼ばれる製品らしい。工房の主人はそれを定期的に取りに来ているらしいから知らないわけがないわね。
「あら、やることなら簡単よ。お金を払ってやればいいわ」
商家の娘だからとふっかけてくるでしょうけど問題ないわ。優れた技師を得るためならば、端金よ。
「ただ、懸念があるとしたら私がそれなりのお金を持っていることを知って後々襲撃される可能性があるということね」
「おや、それは問題ありませんな。お嬢様についてきているの私めにキバチでございます。それに他にも影が数人ついております」
そこんじょそこらのゴロツキでは相手になりませんぞというギー。まぁ、そうね。逆に向こうが大怪我ね。
「で、結果としてどうするんだ?」
「そうね、さっさと用を済ませてしまいましょう」
出来るだけ人の目があるところがいいとルヴェールを連れて、正面から工房へと入る。
「おい、罪人! なんで、店に入ってきてやがる! テメェみたいな汚ねェ奴は入ってくんじゃねェ」
違うと言われても困るので周りからは以前までのルヴェールの姿が見えるように魔法をかけて、工房へと入れば、早速怒声が飛んできた。客人がいるのに怒鳴るなんてどういうつもりなのかしら。もしかして、ちゃんと管理をしてますっていうアピールなのかしら。全く、逆効果でしかないわね。
「よろしくて?」
「おや、これはこれは見目美しいお嬢ちゃん、すまないね、このゴミを捨ててくるでお待ちくださいね」
「あら、その必要はなくてよ。ちょうど、貴方のいうゴミをもらいたくて来たの」
「はい?」
身なりの整った子供に対し手をこまねきながらいう主人。いい顔しいね。そんな彼にルヴェールをもらうと言えば、言われた意味がわからなかったらしい固まった。
「捨てると言ってたし、私がもらっても問題ないでしょう」
「いやいや、それは、その、困るので」
「あら、でも先程捨てるとおっしゃていたでしょう」
「それは、その、言葉の綾でしてね。コイツはうちの商品を壊したので弁償のために働いてるんで」
「そうなの」
「ええ、そうなのです。ですので、返済もされないうちに連れて行かれるのは困るので」
「なら、私が払いましょう。いくら?」
「……あ、いや、その」
「いくらなのかしら?」
おずおずと呟かれた金額は明らかに工房の売店で売られているどの商品よりも高い値段だった。払えないだろうと言っているのは明らかだったけれど、残念ね。私はそこんじょそこらの娘ではないの。
「問題ないわね」
「はい、お嬢様。全額こちらの方にお渡ししたのでよろしいでしょうか」
「えぇ、そうして。その前に書面だけ残させてもらうわ。商人として口だけで完了したくないの」
「そうですね。では、ご用意いたしましょう」
ギーに向かって尋ねれば、すでに用意していたお金の入った取り出す。少し言われた金額よりも多めだけど、ルヴェールが自由になれる上に私のところで働いてもらえるのであれば安いものよ。紙とペンは用意していたけど、文面までは記入していない。ギーの合図でキバチが文具箱を取りに行く。
戻ってきたら、私は早速ペンの魔法を使い、二枚の紙に文字を記す。そして、今日の日付も忘れない。
罪人もといルヴェールの返済額十万オルを間違いなく受け取った。なお、この内には利子も含むこととする。
「領収書のようなものだから、深く考えないでちょうだい」
「は、はい。あの、お嬢ちゃん、申し訳ねェが俺ァ、文字が書けないんで、この紙だけちょうだいしやす」
「あら、大丈夫よ。このペンを握って線を引いてくれるだけでいいの。ペンが貴方の名前を読み取って記入してくれるわ」
簡単でしょうと言えば、観念したのか主人はペンを握り、横に一線。その線はすぐに変化し主人の名前になると紙に定着する。キバチに事前に主人の名前を確認してもらっているので、これで間違いないし、問題ない。問題がないことを確認すると一枚を控えとして彼に渡す。そして、私は後ろに下がり、ギーが前に出る。
「ではこちらを貴方にお渡しいたしますわね」
ギーから渡されたずっしり重い金袋に主人の鼻が膨らむ。どういう感情なのかしら。いえ、欲が膨らんだのかしらね、これは。
「それでは、私たちは失礼致しますわ。あぁ、そうそう、彼の生活スペースにあるものは全てそちらで処分していただいても大丈夫ですので。お邪魔致しましたわ」
さぁ、行くわよと私たちは工房を後にした。一応、キバチは影になってその場にとどまってもらったけど。
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あともう一話ぐらい技師の話が続きます。予定より文字数が増えた。なぜだろう。
とある公爵家親子
「ふむ、やはり、申請しておいてよかったな」
「何がでしょう」
「いや、何、とある男爵がな、少々問題があってだな」
「よかったということはそれがはっきりとしたということでしょうか」
「まぁ、そういうことだ。処断することができるようになるのもローズのおかげだな」
「あぁ、そういえば、手紙に『とうとう見つけました! これで勝つる』とありましたが、それが関係するのでしょうか? そもそも、ローズは何と戦っているのです?」
「恐らくは見つけたものが関わりがあったのだろうな。何と戦っているのだろうな。殿下ではないことは確かだろうが」
「殿下に対する想いとは無駄であろうに日々戦ってますがね。手慰みにぬいぐるみを作るんだったら、さっさとくっつけという話なんですよ」
「言ってやるな。そのおかげもあって領が潤っているのだからな。それにしても戻ったらローズと一緒に男爵区に行く必要が出てきたな」







