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キバチとギーを伴い、男爵区へと向かう。
本来、これが領であれば男爵領と呼ぶべきところだけど、公爵領の一区であることからこのように爵位区、もしくは名称区と呼ぶ。まぁ、公爵領が広大であることと国が個々の領を統制できてないからなのだけど。そもそも、昔の国がやりすぎたのよ。多くの人に名誉爵として爵位と土地を与えた。さらに領を細かく配分しすぎた。時が経つと管理できてない土地も増えてきて、自然とそれは近くの領へ吸収統合された。これは名誉爵だったことも大きいわよね。で、現在領を持っている貴族は昔から脈絡と受け継がれてきた家が多い。もしくは一部土地を国に返上した為、空いた土地にうまく滑り込めた家。それ以外の他の貴族は職務持ちもしくは領の一区を任されている形になるらしい。昔は親族や兄弟に爵位を分け、分家として区を任せることもあったらしいけど、それはそれで悪事が横行したとか。
「この男爵区は他所から入れた人なのね」
「はい、そうでございます。現在では区管理をする場合は他所から人を入れることが条件に含まれております」
四区あるとすれば、大元である本区は公爵が他三区は親族と他貴族でとなる形。あえて他人を入れて抑制させる目的であるらしいけど、癒着されたらそれまでなのよね。ちなみに国への提出は区個人ではなく、領として提出するため、区から集めたデータを領主が取りまとめ、報告となる。
おさらいとばかりにギーと男爵の情報についてすり合わせを行う。就任当初は問題のない人物であったけれど、ここ最近、報告書と現実が乖離しているらしい。今回はついでにこの調査も含まれるわね。お父様は現在も王都にて当主会談的な行事に参加されているらしい。体調を心配する手紙がこの間届いていた。
そして、到着した男爵区。一見普通ね。どこにでもある町だわ。ただ、至る所にガラス製の器などが飾られている。まぁ、これが特産でもあるから当然ね。
「こっちだ」
「キバチ、どうにも怪しい路地であるようですが?」
「この奥にそいつの小屋がある」
薄暗い路地を抜けていくと突然響いた怒声。私を庇うようにキバチとギーが前に出る。けれど、何かが起こるわけでもなく、路地は静まる。
「慎重に行きましょう」
「ええ」
ギーの言葉に頷き、周りを気にしながら進むと座り込んだ人がいた。呆然と虚空を見つめるその人。ボロボロの布を纏っていることもあってか、印象としてドブ色としか認識できなかった。
キバチにあの子? と目を向ければ、肯定が返ってきた。
「こんにちわ、少しよろしくて?」
聞こえた声にその子が私に目を向ける。深い闇のような目ね。
「貴方のお名前を伺ってもよろしいかしら」
「……罪人」
ポツリと呟かれたのは呼び名とされている名前。探していた人物であることは間違いないみたい。でも、私が聞きたいのはその名ではない。
「違うわ。それは貴方の名前ではないでしょう」
「なまえ、ちがう? わからない」
とりあえず、立ち上がらせて、別のところで話をしようと彼の手を伸ばす。彼は不思議そうにその手を見つめ、己の手を伸ばす。
手が触れた瞬間、パキンと何かがちぎれたような割れたようなそんな音。そして、その音による一番の変化は目の前にあった。ドブ色の中から現れる白緑の髪にスフェーンような不思議な煌めきを持つ目。そう、どこに隠れてたのと問いたくなるほどの美しい青年が目の前に現れていた。私の手を取り、スクッと立ち上がった彼は結構身長もあった。そんな彼は呆然としたのち、私の顔を見る。
「なまえ」
「えぇ、罪人ではない本当の貴方の名前が知りたいわ」
「つけて」
「へ?」
「なまえ、すきなの、いい」
言葉自体不自由だったのか、そういう彼。これはどういうこと? 私に名前をつけて欲しいと言っているのかしら。いえ、確かに「つけて」と言っているのだからそういうことよね。でも、確認は必要ね。
彼に私に名前をつけて欲しいのかと尋ねれば、目を輝かせ、期待するような眼差しを私に向ける。
「お嬢様、そういうことのようです。名前がないというのであれば、雇用主としてつけて差し上げたらよろしいのでは?」
「ええ、そうね。彼が望むのなら、話も進まないし、そうする方がいいわね」
うーんとと考える。適当な名前はつけられない。でも、と彼と出会うことになったきっかけが思い浮かぶ。
「ルヴェール、そう、ルヴェールがいいわね。これが貴方の名前よ」
どうかしら、と尋ねる前に彼の答えはパッと花やいだ表情にすぐわかった。
「ルヴェール、ルヴェール」
名前を覚えるように呟くルヴェールはとてもその名が気に入ったようだった。
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