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完璧な猫化へは無理だったと語るのは床に正座したユルリッシュだ。それゆえに猫耳と尻尾、猫語の中途半端な魔法になったらしく、魔法陣そのものを無かったことにするために消したらしい。まぁ、消しきれていなかったがゆえにこの惨状は出来上がってしまったのだけど。
魔導猫じゃらしと戯れるエルキュール様。それを横目に私はユルリッシュに確認をする。
「ひとまず、話は後日ね。ちなみに解除される時間は」
「大体設定時間は六時間から八時間くらいだから、寝て起きたら解除されてるはず」
「イニャス様、恐らくエルキュール様のスキルは修復系。今回初めての発動だったのか無意識で許可をした可能性があるわ」
何せ、私もそうだったもの。まぁ、私の場合は触れたもの自動無効化だった訳なのだけど。無害といえば無害なもので判明してくれて助かったといえばそう言えるでしょ。
「救いなのは今この状況が防音状態ということね。いかにこのエルキュール様を馬車に詰め込んで屋敷に帰るかが問題だわ。屋敷に帰ったら帰ったでお父様には報告しないといけないでしょうけど」
まだなんとかできる範囲にいるはずよ。考えなさい私。でも、どうしても人目はついてしまうわ。しょうがないといえばしょうがないものね、そういう作りにしてるだから。
「キバチを使うしかないわね」
思いついたのはそれしかなかった。キバチにエルキュール様を馬車まで運んでもらう方法。馬車の中は影だし、もしかしたら一番の安牌かもしれないわ。
とりあえず、許可どりはまだだけどキバチに特別給与が発生したのは確定ね。
「ユルリッシュ、緊急連絡用の魔法陣は」
「えっと、確か、この辺に……あ、足が、痺れる」
ユルリッシュは正座だったこともあって足が痺れたらしい。そんなユルリッシュを尻目に彼が指差したあたりを探すけれど、見つからない。
「ねぇ、ないのだけど、ねぇ、ねぇ」
「『ねぇ』の、たびに、足を、やめて! どっかに、ある、から」
ねぇねぇねぇと言いながらユルリッシュの足を突けば、泣き出した。もう立派なおじ様がこんなことで泣かないのよ。エルキュール様のお世話をしてるイニャス様がドン引きしてるけど、それもしょうがないわよね。
「ドン引きしてるのは、ロゼの行為にだと思われ」
呻きながらユルリッシュがそういうと何が琴線に触れたのかエルキュール様が飛んできて、ユルリッシュの足を攻撃し始めた。弱点だと判断したのかにゃにゃにゃと言いながらもそれはもう執拗に。
「あぁあああ、なんでぇえええ」
私以上の刺激にユルリッシュは沈んだ。まだ攻撃しようとするエルキュール様はイニャス様が頑張って回収していた。拐取されたエルキュール様はしゃーとイニャス様に抑えられながらもユルリッシュを威嚇してるのだけど。えぇ、ほんと、ユルリッシュじゃないけど、なんでなのかしらね。
床に倒れ込んで悶絶するユルリッシュをよそに私は探す。緊急連絡用の魔法陣を。
そして、見つけたのは紙の束の中。えぇ、指を差したところにも作成した魔法陣を収めているところにもなく、乱雑に置かれた紙の束の中だったわ。恐らく、作成した際に後で退けようと適当に置いたのでしょうね。えぇ、兄さんのやりそうなことだわ。
「今度、緊急連絡用の魔法陣を入れる専用のケースを持ってくるわね」
絶対にここに入れろよとばかりに笑顔で告げれば、涙目でコクコクと頷かれた。よほど、足の痺れは酷かったのね。まぁ、この世界の人間はそういう耐性ないものね。わかるわ。私も少し特訓しておいた方がいいかしら?
いや、特訓したところでいつ活躍するのよって話になるわね。貴族の令嬢が地べたに座らせられるなんてことそうあるものじゃないもの。
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
今回はキリが良かったのでここまで。後一話で百話到達。いや、実質はこれが百話なのですが、ほんとブクマ、評価、いいね、ありがとうございます。励みになってます!!まさか、ここまで続けられるとは思ってもみなかった。我が道を進んでいるだけになってますが、嬉しくも楽しく思ってます。まだまだ続きますがお付き合いいただけると幸いです。
とある未来の話
「ロジェ、正座」
「…………」
「せーいーざー」
「もう、そんなに言わなくてもわかってるわよ」
地べたに座り向き合い、夫に怒られる妻の姿があったとかなかったとか。







