救世主はまだ来ない
異世界召喚もの。
……………おや? なにやら召喚されたモノが?
よくあるナーロッパと呼ばれる、剣と魔法の中世ヨーロッパ風世界。
その世界にある、とある国は困難に直面していた。
緑豊かな大農業国とまで言われていた以前の面影は無く、ただただ痩せ細ってしまった大地があるだけの、野菜や穀物といった食料を自給できない貧農国へと成り下がっていた。
その原因は、魔王と呼ばれる強大な敵と戦うために編成した連合軍へと、せっせと農作物を作り送り続けていたから。
その国は大農業国と呼ばれていただけあって、食料自給率は300%すら軽く超えていた。
その余剰分を連合軍への支援割り当てとして差し出せと。 そんな話になった。
それをはねのけた大農業国。
無料で差し出せば国は成り立たぬ。 外貨が得られぬ、儲からぬ。
連合軍に参加している各国から渋い顔をされたものの、その主張は正しいものであり、相場より少し高い金額での有償提供と決まった。
これに気を良くした大農業国は、特大案件が来て作れば作っただけ売れる書き入れ時だと判断。
国内に向けて、食料の大増産令を施行した。
戦争が長引き、国の上層部は笑いが止まらなかった。
予想が大当たりで、どれだけ食料を生産しても売れ残らない。
売れる売れる。
国が豊かになり、戦時だからと他の国で生活苦になって流れてきた民も受け入れ、さらに生産量を増やす。
それが全部売れる。 バカ売れする。
最高にハイってやつだ。
大農業国全体が、ハッピーに包まれた。
――――が、世の中こんな無茶をすれば、反動があるものだ。
結果、大地へ無理を強いて、荒れた土地でも育つ野菜さえ育てられぬ、痩せ細った土地になってしまった。
国の1部には、砂漠と呼ばれる無毛の大地の象徴みたいな存在が確認され、滅びの足音さえ響いている。
今まで稼いだお金に物を言う言わせて、食料を輸入してなんとか凌ぐしかない現在。
世界的に戦争の影響で食料の値段が上がっている現在で、そんな遠くない未来に国が破産するのが視えてしまった元大農業国。
これはマズい。
あの食糧を売るだけで大金がガッポガッポ手に入っていた時代が2度と来ないのはイヤだ。
あの頃に今すぐ戻って、そのままお手軽におハイソな生活でガハハとしていたい。
今更、真面目に新しい産業を見付けて育ててなんて、やっていられない。
彼らは、思い切ってとある手段に出た。
連合軍のツテを使い、沢山の魔法使いを集めたのだ。
それで行った事は……。
異世界召喚
つまり、もうこの世界で大地をどうにかする知識も手段も無いので、それらを今すぐパパパッとどうにかしてくれる都合のいい者を喚び寄せられないものか。
そう思って、一種の賭けに出たのだ。
〜〜〜〜〜〜
「いでよ、我が国の救世主となるものよーー!!!」
なんとも複雑な魔法陣が描かれ、召喚の間として荘厳な雰囲気が出るよう整えられた場で、その叫びと共に眩い光が荒れ狂う。
あまりの眩しさに、全ての者が目を瞑った。
「………………どうだ?」
光が収まった頃、だれかの声が小さく聞こえる。
小さいが、だれも言葉を発していなかった召喚の間に居た全員の耳に届いたその声を皮切りに、居合わせた者たちの緊張は最高潮に達し、いくつかの場所から唾を飲む音という返事があった。
完全に光は収まった。
そう判断した人達がゆっくり瞼を開けると、そこには――――
「――――誰も居ないじゃねぇか!!!!」
その言葉通り、魔法陣の上にヒトは誰もいなかった。
「いや、ヒトは居ないけど、何かあるぞっ!」
起動させる前に魔法陣の上には何も無かったのに、代わりにいくつか小さいナニカが落ちていた。
「鑑定魔法が使える魔法使い、鑑定をはやく!」
等と慌てた様子で叫んでいるが、離れて見ていた者たちにはとても馴染みのある物なので、大体の予想はついていて部分的に呆れている。
「救世主を求めた異世界召喚で現れた植物だ! 何か特別なモノかも知れん! 慎重になっ!」
そう、植物。
数年と言う少し前までよく見ていたモノ。
それを、オッカナビックリしながら鑑定している様子は、もはや漫才である。
「鑑定できました!」
「よーし、結果を教えてくれ!!」
なんて迫真の様子でやり取りをされても……と思ってしまう。
「まず、危険な有毒植物は無いとご報告いたします!!」
「よし、次だ!」
このやり取りだって、20歩と離れていない場所で叫び合っている。
「どの植物も生命力が強いとあります!」
「そうか!」
「名前は、シロツメクサ ドクダミ カタバミ タケノコ ミント ビワ……の苗木 と言うそうです!!」
音の響きから、なんか、凄い植物……っぽい。
ドクダミなんて、毒って言葉が付いているのに、無毒だと言われていて混乱してしまう位に凄い。
次々に告げられる植物たちの名前に、沸く観客。
さあ、次の情報を教えてくれ! そんな空気が出来上がった後。
「………………以上です!!」
「そうか! ………………………は?」
「鑑定魔法で読み取れたのは、以上です!」
終わった。
終わってしまった。
それによって沈んでしまう空気。
「情報はもうないのか!?」
「はい!」
それでも。
それでもそれを受け入れられず、聞き返す者がいる。
「特別な効能を持つ植物は無いのか!?」
「ありませぇんっ!!」
残酷な返事。
彼らは召喚直後から効果の出る、カンフル剤みたいな人材を求めていたのにコレで、そのコレも特別なモノではないと知り失望。
それでようやく、ここにいる者達は全員が諦めたのか、冷え切った空気になった。
「焼き捨てろっ!!」
「はっ!!」
これによって植物は廃棄された。
そして改めて召喚を。
そんな流れになるのは当然だが、以降は何故か異世界召喚自体が行えなくなっていた。
召喚の儀式に参加した魔法使いたちは揃って「何か大いなる力に妨害されていると感じる」と言って、2度と儀式に参加してくれる者はいなくなった。
それでもこの国は異世界召喚にこだわり続け、いつまでも救世主の到来を待ち望んでいたらしい。
この後、この国の大地は国が滅びるまで回復することはなく「大地を酷使すると国が滅びる」と言う教訓を周辺国に遺す事になったと言う。
ほとんどの植物が、植えたら爆発的に広がるヤベーブツですね。
その分、生命力がドン引きするほど強いので、緑化するのに最適。
シロツメクサ……クローバーは土壌改良(回復)に良いそうで。 畑にコレを植えれば良かった。
これらが召喚陣から現れたのは、その世界の神の慈悲。
そもそもの召喚の儀式自体、神に助けを乞い願う仕組みのモノ。
ひるがえって、神の意思を示すモノ。
これらを使って緑地を広げて、また緑豊かな土地に戻す手助けをしたつもりだった。
が、それを無碍にされたので、怒った神の力で妨害。 召喚は以降不可能になりました。