ハヴアコーヒーブレイク
18時。今日はノー残業デー。私はこれから、ゆったりと時間を過ごす予定だ。
「さーさきさん。これから皆で、飲みに行くんですけど、佐々木さんもどうですか?」
「私は、いいや。皆で楽しんで」
「えーっ。佐々木さん、いつも来てくれないじゃないですか。俺、先輩たちから、文句言われるんですよー」
「ごめんね、高梨くん。私はこれから、コーヒーブレイクを楽しみたいの」
「そうですか? それなら、仕方ないですね。そういう時間は、大事ですし」
高梨くんは、話のわかる後輩。こんな後輩を持てて、私は嬉しい限りだ。
「それじゃあ、お疲れ様でした」
会社を出て、スーパーに寄る。と行きたいところだけど、その前に。
タイムセールは19時から。それまで、会社近くの小さな公園へ。
「今日は、まだ、来てないか」
この公園は、都会の中にある、小さな公園。子どもたちが遊ぶとしても、この時間は遅すぎる。
だからといって、中学生も高校生も来るような、公園でもない。
街灯に照らされたベンチの片隅に座り、空を見上げる。
都会の明るさは、星を隠してしまい、観ることが出来ない。
「今日は、見えましたか?」
「今日も、ダメみたい。せっかく晴れているのに……」
私が公園に来ると、いつも公園にやって来るのは、同じ部署の同期。七瀬くん。
「七瀬くんは、飲みに行かなかったの?」
「僕は、下戸なので。佐々木さんは、誘われました?」
「誘われたよ。でも、ここに来たくて、断った」
「この公園、落ち着きますよね」
七瀬くんも、この公園が好きらしい。お互い入社してから、平日は毎日ここに来ている。
「今日のコーヒー、ホットで良いですか?」
「うん。ありがとう」
毎日、交互に缶コーヒーを買ってきて、他愛の無い会話をするのが、私たちの日常。
キャップを開けると、ほろ苦く香しい香りが、漂ってくる。
「まだ、誰にも言ってないんですけど」
「なあに?」
「結婚することに、なりました」
一口飲んだ微糖のコーヒーは、何だかいつもより、苦く感じられた。
「再来月、式を挙げる予定です」
同僚の結婚の話は、何度も聞いて、何度も祝福の気持ちでいたのに。
七瀬くんの口から語られる、その話だけは、聞きたくなかった。
だけど、だけどね。
「おめでとうございます。末長くお幸せに」