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それぞれの見たもの

 モニターには相変わらず外の景色が映っていたが時間が経ったからか自然にブラックアウトした。

 おそらく通信が途切れているからもう声を出してもいいのだが、俺もヒロキも互いの呼吸音すら聞こえないほどに息を潜めている。


 朝からどこか非現実味のあるやり取りはインターホンに映る男の顔を覗く辺りが最高潮だと思っていた。けれど顔は見れずじまいで、その代わりにやってきた現実のメリハリボディに俺たちは言葉を失った。普段なら別の意味で、だろうけど今回は違う。今回だけは違う。


「まるで──車のワイパーみたいに」

 そう、まさにそれだった。揺れるメリハリボディが画面を横切るのに合わせて、男は端から消えていってお隣さんが通過した後は景色しかなかった。だけどその直前──


「ああ、でもあの顔は、誰なんだ?」

 男がメリハリワイパーで消えていく中、その顔を少しずつ上げていった。そして鼻が半分消えたあたり、つまり顔半分が俺と画面越しに向かい合った。顔に大きな傷のある、醜い顔はどこかで──


「え?おま……顔なんか見えてないぞ?」

 ヒロキは生気を失った顔色で呟く。5%の赤色はとっくに無くなっている。きっとほとんど溢した俺も同じ色をしているか、もっと青いかもしれない。だって、俺は見たんだから。


「いや、こう──顔をゆっくりあげてた、だろ?」

 俺の問いかけにヒロキは小さく顔を横に振って、身震いした。

「いや、あの顔の後ろを通るお隣さんで男は消えたけど、同時にお隣さんの服も消えてた」

「おい、お前の記憶と交換しろ」


 果たしてどちらの見たのが正しかったのか。というよりお互いにそれしか見てないのになんであいつは顔面蒼白だったんだよ。

 ヒロキの見たものに俺は緊張から解き放たれてもう一度2人してモニターを確認したが外には長閑な朝の光景しかなかった。思い切って玄関を開けてもみたが、何もなかった。外では子どもたちが元気に遊んでいる。


「で、どんなだった?」

 部屋の中に戻り冷蔵庫から今度は9%のあいつを取り出して飲み直す。

「何が?」

「お隣さんだよ。とぼけるつもりじゃないだろうな」

 ヒロキはさっぱり分からないと言った顔だったが、思い出したのか、また一瞬だけ暗い顔をしてみせたのち

「そりゃもう、バインバインよ」

「くっそおおお」

 とりあえずは一気にあおって2人して昼間っからやってるダメ大人たちの溜まり場へと繰り出していった。

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