純情男子ストーカー
続きましてのテスト投稿です。高也サイド。
最初に言っておく。
俺はあんまり口が上手くない。
だけど、ハレの日に千佳に捧げる想いだけは微塵も曲解されたくないんだ。
覚え書に注釈つけながら思い出してゆくが、後で誰か上手く纏めてくれ。
後でお礼と、ああ、今日の酒は俺が奢るから。
ちなみにムービーの放映時間長くとも10分程度らしいぞ。
カット編集よろしく頼む。(録音スタート)
早生まれの千佳は、幼稚園の時クラスがずっと一緒で、倒けつ転びつみんなの後を追ってくるマスコット的存在だった。
皆の妹的、いや現実の兄弟より愛嬌のある、いわば“癒し”か。
「チカはかわいいなぁ…」と率直につぶやいたら
「タカヤのほうがもっとずっとかぁいッ!」
と力説され”照れる感情”を覚えたのが、千佳を意識した最初の時だった。
小学生になると「学校では、相手に敬意と尊重を込めてお互い苗字に君、さん付けで」と先生に指導され、これまでの友達と微妙にギクシャクになった。
なんかモヤッとした俺は他クラスの千佳の所に行ってはワザと名前呼び捨てで呼びだし、千佳も習慣から俺を名前で呼び返した。
先生に注意されようが「千佳は千佳だしいいんだ」「高也は高也だよ?」とやっては“千佳はかわいい妹ポジだからね〜”という態で同じ幼稚園だった女子達に庇われ。
クラス内では誰しも儀礼的な呼び合いが普通になっていったんだけれども、この時の俺の「モヤッと感」は今思えば独占欲の表れでもあったんだと思う。
「千佳は(将来俺の苗字になっても)千佳だし(だからこのままの呼び方で)いいんだ」
とも注釈できる。
…一方の千佳は、この頃単に俺の苗字が読めず覚えてなかったのをただ誤魔化しただけらしい。
とにかく先生に何を言われようが俺はクラスが離れてしまった千佳にこれ以上距離感を持たれたくなかったし「千佳と1番仲良さげな男子」の座を誰にも譲るつもりもなく、意地で通した特別呼びの優越感に一人ほくそ笑んでいた。
6年間同じクラスになれなかったのはそういうズルい気持ちを見透かされたのかと先生や神様をやや恨みもしたが。
中学校に上がり、祈りが通じたのか6年ぶりに同じクラスになれた。
メガネをかけ始め一見大人しい印象になった千佳に何故か「江堂くん」と苗字で呼ばれ焦って「高也でいいよ今更!」と訂正を入れた。中学で苗字呼び縛りもなくなったというのに。
「そうだね…変だよね?」と小声で千佳は言ったが、周りに誰もいない時くらいしか、千佳は俺を名前で呼んでくれず、極端に話しかけてくれなくなった。代わりに千佳からの不可思議な視線は感じていて。でも目が合うと、逸らされる。
何?このこそばゆさ。
これはモシカシテあの千佳がイワユル俺を意識しはじめてくれ…イヤイヤあの千佳だぞ?まだだ自惚れるな…俺ェ!そうカタコト脳で逡巡する日々だったことを覚えている。
だから遠いのイヤだコッチこないかなー来たらナデクリまわして…ああ変な意味じゃなくただ触れた…っっイヤ、それは置いとくとして。
「好き!!!」
と言われた瞬間、達成感で心の拳を振り上げた。
千佳は相変わらず後先考えずというか、自分の発言にビックリしてそっからどうしたらいいかわからない感じで。それが逆に千佳の率直な気持ちだと感じ嬉しかったから、こっちから一も二もなく付き合いを申し込んだ。
ちなみに中2でまたクラスが離れ、千佳といれる数少ない機会を狙っていた時期でもあり。偶然2人きりな訳じゃなく、いっそこっちから告白しようと思っていて…先越された感じだった。でも、その幸せは長く続かなかった。
〜(思い出しトーン落ち)〜
…何がいけなかったんだろう?…、って。
そりゃ「珍獣」ってからかったかもしれないけれど、千佳の見た目もキャラもツボすぎて。こんな子が自分しか見てないという事実。わざと目を合わせず様子をうかがってるとこっちをチラチラ見、ただ嬉しそうにして照れて満足げ。こんなの、レアじゃなくて何?それでいて両思いとか、どんな僥倖?
学校からの距離順で遠慮されて「家までなんて送らなくていいッ」と千佳に全力拒否されても、家の手伝いしている俺を眺めつつ店に居るだけで嬉しそうだから、こんな逢瀬でも千佳はいいのかと思ってて。
気の利いたことも言えなかったけれど、千佳は見るからに幸せそうで。ただこのままだとカッコつかないから今まで貰ってなかったバイト代親に請求して夏休みは絶対デート計画して…千佳にちゃんと「実は前から俺も好きだった」と花火をバックにでも言えるようになるって…浮かれた夢ばっかりみてた。
それがたった2ヶ月で破局とは、まさに天国と地獄。
「もう好きでいるのダメみたい」
その一文が今も心をえぐってくる。
「好きだ」と伝える前に「飽きられたんだ」と。
これ以嫌われたくなく最後までカッコつけてものわかりのいいフリをした。
結局千佳とろくなデートも出来なかった。ソコソコ忙しい自分んちの家業も恨めしい。
せめて前みたいにと思ってもその後千佳との接点は驚くほど無くなって、中学最後の俺に残されたのは誰しも持っている卒業アルバムだけ。
アルバムの中の千佳の写真ばかり写メって編集したスマホ眺めて「我ながらキモッ」って突っ込んだ。無駄に泣けて。卒業式後の赤い目をからかう兄貴がウザくてマジ殴りたくなった。
ああ実際兄貴ボコったわ。未だかつてないほどの狂気に取り憑かれて。
ヤツのせいってわかったのが高校生になって大分経ってからだけど。
きっかけは風呂上がりに兄貴が「これお前の好きな子?」と開きっぱなしの俺のスマホを勝手に覗いたからだ。ヤツには知られたくなかったのに。
「…元カノ」
「へえっ!いたんだ。結構可愛いじゃん。どんな子?」
「見たまんまだよ、ちっこいメガネっ子。」
千佳がどんな風にかわいかったかなんて、節操ナシの奴に興味もたれたくもない。
「ちっこいメガネっ子かー、え?ちょっと待って、…一体いつ付き合ってたんだ?」
「中2の初め頃。もういいだろ思い出したくもない。風呂空いたんだから入れよ。」
兄貴からスマホを取り上げて自分の部屋に引っ込んだ。思い出しくもないのは最後のやり取りだけで、本当は片時たりとも忘れたくなかった。元カノなんて未練たらしくスマホに残しておくべきじゃないのに。
遠慮がちにドアがノックされ開ければ予想通りまたクソ兄貴だった。
「あの…さ、その子、一時期よく店に来てた子?お前に話かけてた?」
「しつこいな関係ないだろ」
ひとの元カノにまで興味持つなよ彼女持ちのクセに。
「いや…さぁ…もし…そうなら…。」
「何?」
「俺、謝らなきゃいけないかなって…その子に…。」
「何で?」
兄貴の言い訳が耳を通り越し脳に到達した途端、ぶち殴ってた。我も忘れて。
「誰がオメーのストーカーだって?!」「お前だって迷惑そうにしてたじゃん!」「そんなわけあるかぁ!!!!」
あの時眉を顰めていたのは千佳に「すまない」と思ってただけだ。いつもいつも。
取っ組み合いしながら千佳の最後の言葉を思い出す。「もう好きでいるのダメみたい」って…「もう俺を好きじゃなくなった」って意味だとばかり…。
家族に見咎められたと思ったからか?追い払われたと感じたのか?バカな兄貴のせいで?
「千佳、チカ。俺を嫌いにならないで。」
せめてもの願いは最後に届かなかったのだろうか。
やるせな過ぎて取っ組み合いしながら号泣してた。物音で親がすっ飛んできたがバカ兄貴を自室から叩き出し籠って一人頭を冷やす。
これ以上、嫌われたくないとアッサリ引いたのは自分だった。
店で千佳をたびたび挙動不審にさせたのも、素直に好意を表せなかった自分のせい。
あの後接点が無くなったのは、千佳の性格からすれば苦手意識で避けられていたのかもしれない。「ストーカー」の濡れ衣を着せられた千佳に、恐怖を与えたまんま放置した。
もう時間が経ち過ぎて謝るすべもツテも、なく。ツテを辿ったところで既に別の男がいるかもしれないかわいい千佳に昔の彼氏もどきの泣き言なんて迷惑でしかないだろう。「昔の彼氏」。そんな立ち位置にもう絶望するしか、なく。
原因を作った軽率兄貴には「絶対許さない」と宣言し数ヶ月口もきかなかった。
しばらく経ってたまたまうちがTVに取り上げられて兄貴がてんてこまいになって俺に泣きついて。
仕方なくブツクサと手伝っていたら、肩を小突く母さんの指さす方向に信じられないものを見た。
見間違いじゃない。記憶より綺麗になっているけれど…千佳だ。
ソワソワとうちの店の行列に並んで…いる?
ガラス越しの千佳を見つけた途端、弾けるように持ち場を離れその手を掴んだ。
うちに用があるなら並ばずともいい。兄のかつての非礼をむしろ真っ先に謝りたい。
今、千佳を逃したくない。
欲しいパンなんでも揃えるから食べている間だけでもどっか行かないよう見張って…と、目も合わせずズンズンと裏口に引っ張っていき…千佳を、怯えさせ泣かせてしまった。
諸々全ての申し訳なさ加減にとにかく放っておけないが、久々の目の前の千佳が可愛すぎて…つい、手を出し…いや、構いたくなる。
相変わらず遠慮がちで、ちっちゃくてキョドッてテンパって。安定の小動物っぷりで。
警戒を解くにもまず餌付けか、と。
だが、「パンいっぱい買いにきた」と言っていた割に、パンの山にほとんど手をつけていない。心配で俺がしゃがんで覗き込むと、俯きがちの千佳がギュッと目を瞑って一瞬で首まで赤くした。
つられて照れくさくなる。
久々訪ねてきた目的は…もしかして、「俺」、の顔が見たかったから、とか、か?
恨んでないの?ねえ千佳、今でも俺のこと、好き?
試しにワザと俺が気付かぬフリで店の方に戻ると、遠慮を忘れ昔のようにポーッとこっち見てる。何に興奮したか口抑えたり拳握りしめたり十字切って祈ったり…いや俺、神様じゃないんだけど。懐かしくてかゆくなるような千佳の熱視線に脳が沸騰する。
俺が様子見に戻ってくるたびにヒュッと顔を赤らめ、千佳はまた目を逸らす。
決めた。もうこれ以上、目を逸らさせてやるもんか。
今度は俺が勇気を出す番だ。
過去の贖罪は贖罪として、またここからスタートできたら、と。
「気軽に取材受けた兄貴の自業自得だ俺には関係ない」とすがるヤツを振り払うと間髪入れず母さんが「千佳ちゃんお構いもせずごめんねぇ。お母さんによろしくね。」と千佳にお土産パンを持たせ。更に俺に「アンタちゃんと送るのよ。家まで。」と裏口から出て行くよう指示してくれた。
母の後押しもあり俺は千佳が絶対に逃げないようにと手を繋いだ。千佳は焦って真っ赤になっているが親兄弟の前だろうと今更なりふり構ってなどいられない。
千佳に触れた指先から、あの時もずっと堂々とこうしたかったんだって俺は実感した。
もう絶対間違わない。
それからは千佳を家族ぐるみで囲い込んでうちでバイトをさせ、毎日のように一緒に過ごした。千佳はだんだん俺と(千佳に対し異様に腰の低くなった兄貴とも)目線を合わせられるようになり、やがて子供の頃のように屈託なく笑ってくれるようになって。
だから変わらぬ愛を込め、俺たちは夫婦の誓いをたてる。
俺と千佳は、これからもずっと一緒だ。
欄外に「だからどうした?」という感じの構想メモや設定注釈、削った文章などをつらつら載せる癖がありますが、基本「設定は一切無視しても話が通じて気楽に読める内容にしたい」といつも思っています。
覚え書として欄外はネタバらし要素もあるかもしれませんので、欄外読み飛ばし推奨です。もしも読み返す機会があるようでしたら舞台裏や書き手の脳内妄想の参照をお好みで。
<例>
〜毎度スルー推奨の余談〜
成長した高也は千佳といる時以外は無駄に笑わない話さない、一見クールな美丈夫。
話下手に加え背が高く怖そうなので「みんなのアイドル」と脳内で称しているのは笑いかけてもらえる千佳のみ。
趣味は表向き部活、裏で千佳の鑑賞orホームセンターのペットコーナー鑑賞。デカイ図体で小動物が好き。将来の夢と希望は食品取扱以外の仕事に就き千佳もペットも身近に置いて心ゆくまで可愛がり倒すこと(意志は強く目標は達成した模様)。
見た目でモテないわけではないが放課後付き合いも悪く高校で女子のつけ入る隙なく。
千佳との元サヤで大学でのお誘いも「”婚約者”いるんで」とバッサリ(プロポーズまだ)。
他のバイトもしていたがなるべく早く家に帰って千佳目当ての客を威嚇、千佳を送迎するのが日課。
千佳の判官贔屓はともかく実際は兄の方が一見愛想のいいアイドルタイプなので、店の常連には兄のファンの方が多い。兄は彼女が途切れたためしなし。
が、多分本心はパン作りが一番で仕事が恋人。ある意味一途で弟とそっくり。
将来の嫁も店の利を第一に考えたい(「だから吟味中」と言い訳)。
自分はモテるとわかっててやってそうな接客の胡散臭さと第一印象のアレで千佳にとっては長らく敬遠対象。
高也に促され千佳に謝罪し三顧の礼でもって店バイトにスカウト、一応和解(ただし高也がヤキモチを焼くため必要以上近寄らず)。
高也用撒き餌のつもりの千佳が意外と卒なく仕事をこなし(高也のそばではテンパっていただけ)、早々常連さんに可愛がられ始めたので内心驚き「自分の采配」として自画自賛。
高也とその母は「千佳が可愛いんだから当然」と見ている。
この間江堂家お父さんは空気ですが黙々とパン作りをする職人気質な人。
高也の性格はおそらくお父さん譲り。
昔の同級生達は高也の気持ちは察していたので、中学まで(どっちにも)ライバルはいなかった(高也怖し)。中学での2人のギクシャクもまさか付き合ってすぐ別れてるとは思われず、進展遅そうだし思春期で意識しすぎてんのかな?と生温かく見守られた。
二人の恋はさながら寡黙な騎士と深窓の姫君の純愛物語のようだった、と。
久々の仲間内ニュースが2人の結婚(高也の就職と同時)でも「予想はついていた」と特別な驚きはなかった…はず。
結婚式のムービー作成引き受けた面子のみ高也と千佳のイメージ崩壊に身悶え、苦心しほのぼのに仕立て上げ…式場にて灰と化す。
ストーカー話に差し掛かった途端、高也の殺気で兄が自主的に公開再土下座。兄も灰化。
A「酔った高也の一人語りノーカット版、ひどかったよなぁ…なんかいい感じに仕上げたオレらの編集スキルすごくね?」
B「ほどんど私の功績でしょ?鉄仮面の下の執着、引くレベルだったわ…見る目変わるわ“飼い主”より“捕食者”って感じ。でも今日の千佳可愛くてきれいねぇホント癒しだわ千佳〜逃げるなら今よ〜…無理だろうけどっ」
C「(最終調整で徹夜)めし…うまっ…かゆっ…ねむッ…………………」
大学時代は早く家に帰って千佳目当ての客を蹴散らし仕事上がり家まで千佳を送っていくのが高也の日課だった。千佳は高也に毎日会えるだけで幸せだったが土日もそんなルーティンばかりの現状に不満だった高也が「結婚」目標に掲げだし他バイトでも稼ぎ早々に目標額突破。就職も決め千佳にプロポーズ。
「家は四六時中家族の目ェあるわ俺ンちから千佳の家まで連れ込む施設もないわで…うん、長かった…」