マジカル美少女エメラルド☆キッス
今回ちょっと短めです。
最近投稿が全然進んでいなくて、大変申し訳ないです……。
鮮やかな星柄の子猫が、明らかに喋った。
そんな想定外の事態を前にして、
「しゃ、喋った!? 猫が喋ったよ、お兄ちゃんー!!」
明ちゃんは昭君の腕に縋りついて盛大に驚いていた。
しかしそこは流石の昭君。
安定のスルー能力の高さで一切動じていない。
自分にしがみつく妹を前に、昭君が一つ頷いて言うことには。
「うちにも同じようなのいるよね」
「同じような!? ハッ……しゃべる猫……源氏!?」
明ちゃんの脳裏に過ぎる、猫耳男の影。
だけど昭君からは、即座に訂正が入った。
「そっちじゃなくて」
「え、もしかして清和……?」
昭君が目の前の子猫を指して、三倉家の愉快なペット・清和と似たような存在だという。
言葉の意味を、脳内で租借して。
意味をよくよく考えて。
明ちゃんは兄に縋っていた手を放し、強気な表情で猫と対峙した。
警戒心と、警戒心と、濃密な警戒心をたっぷりと込めて。
「亜由美ちゃんから離れなさい、この変態ー!!」
「と、唐突になんだその濡れ衣は!? いきなり名誉を棄損されたぞ!」
明ちゃんの理解は、完全に斜めの方向に飛んでいた。
どうやら栗鼠と同類と言われて、考え及んだのが性癖の方だったらしい。
明ちゃんの目は完全に、性犯罪者を蔑む生理的嫌悪の眼差しだった。
小学生女児に蔑む目で見られるとか、大変貴重な体験ですね。
相手が(見た目は)子猫ともなると、珍しさも極まる事態だ。
「な、なんで碌に接したことも無い子供にそんな目で見られないといけないのか――!?」
そして子猫は全開で混乱していた。
全ては同類の普段の行いが悪かったせいである。
「だって、清和の同類なんでしょ!? つまり、十二歳以下の女の子が一番かわいい時期だから、何とかそのタイミングで女子の年齢を止められないものか……とか頭のおかしいことで真剣に頭を悩ませて一時間とか無駄に過ごしちゃう変態なんでしょう!?」
「なんだその変態は!! はっ? 私をそんな変態と同類、だと!? なんたる侮辱!!」
「亜由美ちゃん、その妖怪から離れて! そいつは女の子の敵よ!」
「あ、明ちゃん……っ」
「とんだとばっちりで私達まで一緒くたに貶されてるわね……それ、気配からして日本の妖怪じゃないのに」
「正確には妖怪じゃなく、妖精だよね」
「え、妖精……?」
それ以外の、一体なんだと思っていたのか。
本当に、妖怪だと思っていたのだろうか。
兄が口にした『妖精』の一言に、明ちゃんの動きがぴたりと止まった。
ああ、そういえば。
あの下種栗鼠も、妖精って触れ込みだったっけ……今になって思いだす、栗鼠の正体。
しかし、それにしても。
「なっなぜそれを!?」
昭君が改めて告げた子猫の正体に、子猫の動揺が著しい。
だが動じているのは正体バラされた子猫と明ちゃんくらいだった。
「えっなんでみんな驚かないの?」
「驚いてほしいんですか、明ちゃん。しかし僕は……前から知っていましたからね。その猫の生体パターンも精神の波長も、猫とは異なりますから。(一度解剖してみようか検討していたんですけれどね)」
「ん? いま、何かボソッと言った?」
「いえ? 僕、なぁんにも言っていませんよ?」
「明殿、明殿! 拙者は驚いてござるよ!」
「その割には平然としているように見えるよ、さくま(仮名)お兄ちゃん!?」
「前例があり申すから!」
「ぜ、前例?」
「是。あからさまな柄のおかしい小動物系マスコットは、高確率で喋りだすんでござるよ!」
「どこの魔界の知識なの、それ……?」
「今までにプレイしたことのあるゲームで良く見られる傾向でござる!」
「普段どんなゲームしてるの、さくま(仮名)お兄ちゃん!」
「む、拙者のしているゲームでござるか? そう、それは時に可憐な乙女の皮を被った策略家となり、人心掌握を推し進めたり、激動の運命に翻弄される娘御の視点から世界を取り巻く動乱に切り込んでいったりと……」
「えっと、本当にどんなゲーム……?」
「うら若き乙女の視点を主軸に、男心を翻弄しつつ掌握していくゲームでござる」
「何その邪悪な感じがするゲーム!?」
※乙女ゲームです。
RPG系統のゲームばっかり普段している兄を見て、ゲームとはなんぞやと学んだ明ちゃん。
彼女の知らない世界が、そこにはある。
周囲に混沌を撒き散らし、彼らの暴走と困惑は加速する。
そんな中、正体を言い当てられた子猫が混乱から落ち着くや否や、ぐっと口を食いしばった。
罰を受けるのを待つ、小さな子供のように。
「く……っまさか、正体を知られてしまう、とは……どうして、どこで知ったんだ。亜由美が、魔法少女エメラルド☆キッスだという事を!」
「「「え?」」」
苦しい気持ちが強く込められた、血を吐くような子猫の叫びに。
だけど返ってきたのは、思いがけないことを聞いたと戸惑う子供達の瞳。
そんな中から代表するように、きょとんと小首を傾げて忍者ジュニアが口を開いた。
「昭殿は、猫殿の名前と、猫殿のことを妖精とは申したでござるが……亜由美殿の事は、特に何も口にしてなかったでござるよ?」
「……!!?」
子猫の小さなお口が、ぱっかりと開いて。
やっちまったな、と誰かが小さく呟いた。