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ぼくらのまちの地区公民館

 家から歩いて10分。

 さほど離れていない場所に、昭君達の目的地はあった。

 『地区公民館』……何の変哲も無い、新しい綺麗めなビルである。

 地域住民の習い事やサークル活動の場として提供されていることもあり、明るく活気に満ちた雰囲気のエントランスは居心地が良い。壁の掲示板には色とりどりのチラシやポスターが貼られていて賑やかだ。

 そこに気軽に足を踏み入れる、五人。

 昭君と、忍者ジュニアと、天狗っ娘と、魔法少女(変身前)と、悪組織の幹部(宇宙人)である。

 傍目には何の変哲も無い少年少女(ただし一名は覆面)にしか見えないが、その身の上を欠片でも知っていれば混沌(カオス)この上ない組み合わせである。

「ここに来るのも久しぶりでござるな」

「そう? 地域清掃の時とか、来る機会はそこそこあるけど」

「拙者の住んでいるあたりは清掃区分で言うなら地区外でござる」

「僕は妹と週に二回ほど来ますよ。お習字教室で」

 和気藹々と進む彼ら。

 明ちゃんは隣を歩く萬美ちゃんに微笑みかける。

「ここがね、私達の住んでる地区の公民館。災害が起きた時とか、ここに避難するの。集会室とかで習い事も開いててね。ええと、あと……お兄ちゃん、一番に公民館に来たけど、なんで私が公民館の説明してるの?」

「ん?」

「お兄ちゃんが公民館からって言ったんだよ。何か理由があったんじゃないの?」

「そうだね。だから図書室に行こうか」

「え?」

 公民館に足を踏み入れて、一カ所ずつ公民館内の案内を進める、訳では無く。

 昭君は何故かまっすぐに公民館の1階奥にある図書室へと向かっている。

 昭君が行くからと他の面々もついて行っていたが、何故に最初に向かう先が図書室なのか。

 その意図に最初に気づいたのは、羽恒君だった。

 向かう先が図書室だと気づき、微笑みながらもハッとした顔をする。

「まさか、昭おにいさん……彼女を、あそこに?」

「え、羽恒君? その反応はなに?」

「明、さくま(仮名)、今から僕の言う本を探してくれない? 羽恒は僕が指示しなくても大丈夫だね」

「ということは、やはり」

「え、え、えっ?なに?なに?羽恒君、お兄ちゃんの考えてることわかるの?」

「さくま(仮名)ー、まずは『0番』の棚から『世界の美しい図書館』って本を探して」

「コレでござるか、昭殿ー?」

「うん、それを上下ひっくり返してから本棚の奥にぐぐいって押し込んで」

「ぐぐい?」

「一回押し込んで棚の奥に当たったら、一拍おいてからまた押し込んで」

「おおう。確かに棚の奥に当たったのに、更に奥が!?」

「え、どういうこと」

「明、次は『3番』棚にある『人魚の伝説』をぐぐいっと」

「え、あ、これ? うわ、本当に二段階押し込める……どうなってるのこれ」

「昭おにいさん、次は『8番』の『現代語訳マザーグース』ですよね」

「そう。その次はさくま(仮名)、『5番』の『趣味の園芸・闇深き毒性植物の業』」

「これでござるなー」

「待って、なんでそんな本があるの。誰の選書なの。何を育てる気なの、何を」

 昭君と、羽恒君。

 二人の少年が指定する本を次々とひっくり返しては二段階押し込む。

 その作業を繰り返すこと、八回。

 八冊目の本を棚の奥に押し込んだとき。


 ……どこかで、金属音が響いた。


「さ、それじゃあ行こうか」

「え、今までの作業何だったの!?」

「次は医務室の方ですね」

「羽恒君はなにを知ってるの!?」

 物知り顔の昭君と羽恒君。

 何も考えておらず、ただ感心するさくま(仮名)君。

 混乱する二人の和風少女、明ちゃんと萬美ちゃん。

 連れられるまま、辿り着いたのは医務室……の中にある、備品庫。

「あぁらー、こんにちは皆さんー」

 医務室には優しそうなお姉さんがいた。

 もちっとした白い肌、幸せと包容力を無限に詰め込んだような、素敵な巨乳のお姉さんだ。

 彼女は昭君達を知っているようでにこにこと手を振っている。

 会釈をした後、昭君は彼女の見ている前で遠慮無く備品室のドアに手をかける。

「え、お、お兄ちゃん!?」

「そこ、無断で開けて良いんですか?」

 疑問に満ちた少女達の前で、開かれる備品庫のガラス扉。

 そこには消毒用アルコールやら包帯やらといった、医務室に必要なあれこれが詰められた棚があるはず……なのだが。

 

 何故かそこには、銀色に光るメタリックで未来的な扉があった。

 扉のガラス越しに見えていた薬品棚はどこ行ったのか。


「と、扉の中に更に扉!? 人里にはこんな無駄な建築様式が!?」

「いや、これどう見ても一般的な設備じゃ無いから……ていうかなんなのこの扉! 前にここ開いてるとこ見たことあるけど、こんな異質なデザインの扉なんて無かったよね!?」

「おー凄いでござるなぁ。どんな仕掛けでござろうか」

 驚き、戸惑う少女達。

 そんな中にあって、平然と扉を開ける昭君。

 メタリックな扉を開けた先には、何故か備品棚で……ではなく白い空間が続いていた。

「どういうこと!?」

「棚は、棚はどこに消えたの!?」

「はて、ここの壁の向こうにこんな廊下が入るような空間がござったろうか」

 昭君は躊躇いなく、白い空間に踏み込んでいく。

「なんで一切の躊躇が無いの、お兄ちゃーん!?」

 広がる謎空間、メタリックな扉から進んで5m程の所にはシンプルな白木のカウンター。

 そして医務室にいたはずの巨乳お姉さん……幸枝さんがいた。

「え、なんで!?」

「あれ、さっき同じ人が……」

「こんにちは、幸枝さんB」

「「幸枝さんB!!?」」

 今日も昭君は平然としすぎだと思われます。

 混乱する少女達の反応もどこ吹く風。

 幸枝さんBと呼ばれた女性は、折り目正しく頭を下げてこう言った。


「ようこそ皆様、『人外コミュニティセンター』へ」


 昭君達のご町内に潜む、謎の施設がお目見えした。

「萬美、ここが人外コミュニティセンター」

「いや、なにそれ。何その施設」

「ふふ。この町に住む人外の互助を目的とするセンターですよ。会員登録しておけば、いざという時の助け合い支援を受けることができますし、人間の中にいて困ったことがあれば相談にも乗ってもらえます」

「羽恒くぅん!? なんで平然と受け入れて……っていうか詳しいね!?」

「ほほう、人里にはこのような施設があったの……じじ様も仰ってくだされば良いのに」

「萬美ちゃん!?」

 幼馴染みの正体を知らない明ちゃん。

 隣を歩いていた天狗っ娘の正体を知らない明ちゃん。

 人外との関わり自体は兄よりも接点多め(多分)な筈の明ちゃんだけど、どうやらこの『人外コミュニティセンター』の存在は今初めて知ったらしい。

 明ちゃんは知らないが、魔法少女(きみ)のお付きの妖精栗鼠公(マスコットキャラ)もこのコミュニティセンターの名簿に登録している。

「ほほほほほ、初めてのお客様ですわね。パンフレットをどうぞ。会員登録をなさいますかー? 記入用紙はそちらの台にございますので、記入が終わったらカウンターにおいでください」

「いやいやその前にこの人は何なの、幸枝さんBって何なの。さっき医務室にいたお姉さんは!?」

「その人は幸枝さんA」

「だからAとかBとかって何なの、お兄ちゃーん!」

「明殿は今日もお元気でござるなー。名前の通り、明るいよい子でござるな!」

「いや、なんていうかあの、明さん、さっきから驚いてばっかりのような。えっと、この町にずっと住んでらっしゃったんですよね。皆さん、この公民館のこともご存じだったんじゃ……」

「拙者の家はこの地区外でござるからなー。拙者はこの公民館のことはよく知らぬでござるから、素直にびっくりでござる。拙者が見るに、この場で『じんがいこみゅにてぃせんたあ』?のことを知っていたのは昭殿と羽恒殿だけのようでござるな」

「お兄ちゃんも羽恒君も、なんで知ってるの……?」

 妹の疑問を深めるだけ深め一カ所目のご町内案内は終わった。


「さ、萬美の会員登録が終わったら次は駒沢文具店に行くよ」

「次は文具店か……この流れで、文具店か」

「駒沢文具店って、私たちもよく利用してるお店だよね。通学路の途中にある。あそこに……え、あそこにどんな秘密があるっていうの。お、お兄ちゃん、心の準備が欲しいの……どんな理由があって駒沢文具店に行くのか、お、教えてちょうだい。どうして駒沢文具店に行くの」

「駒沢文具店には……」

「こ、駒沢文具店には?」

「学校指定の学用品が売ってあるんだよ。体操服とか名札とか」

「まさかの普通の理由!! え、今更普通のご近所案内にシフトチェンジ!?」

「あと他に、吸血鬼避けのミストスプレーとかスカイフィッシュ用の防御ネットとか」

「色々売ってますよね。僕も駒沢文具店で定期的に買いますよ、ガスマスク用のフィルターとか」

「何を売ってるの駒沢文具てぇぇぇえん!」

「なんと、駒沢文具店にそんな商品が……しかしそのラインナップ、店頭で見た覚えがないでござるな?」

 首を傾げる、さくま(仮名)君。

 この機会に今まで知らなかった領域のアイテムを見てみようとわくわくだ。

 人間社会で一般的な商品とは、何か……そのあたりの常識がない天狗っ娘も何がおかしいのかわかっていない蕃美ちゃんは首を傾げるのみ。

 そんな彼らを連れて、昭君は近くにある小学生達御用達の人気店……駒沢文具店に向かった。




幸枝さん(A&B)

 昭君達の町に住む、いつも優しげニコニコ笑顔の巨乳お姉さん。年齢不詳。

 地区公民館の受付や医務室に出没する。

 その正体は魔女狩りを避けて東へと旅した果てに日本へと到達した、とある錬金術師の造り出した人造人間(ホムンクルス)である。

 姿形は錬金術師の亡妻をモデルにしているとのことだが、お亡くなりになった実際の奥様より若干バストサイズが大きく、ウエストが細い……が、多分他意は無い。

 亡き妻へのイメージが先行して、実際のサイズを超えてしまっただけである。多分。

 ちなみにその錬金術師は某男子校に在籍している某錬金術師の師匠だという。その縁で、師匠亡き後に残された幸枝達のメンテナンスは男子校の錬金術師が行っている。

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[気になる点] 例の錬金術師さんは三倉父と300年の付き合い…師匠さん、何年前の人? 何年物のホムンクルス?
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