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落ちこぼれの優等生

作者: オリンポス

あけましておめでとうございます!

 あれ、寝返りが打てない。何故だ。

 おそらくペットの愛猫が布団の上に載っているからだ。

 そう思うと足元がズシリと重く感じる。

 やっぱりだ。くっそ。変な時間帯に意識が覚醒してしまった。


 仕方がない。とりあえず寝返りを打つか。ネコの運動神経は抜群だからうまく回避してくれるだろう。そぉれ、と身体を捻ると何枚も重ねていた布団が跳ねあがり、僕の足は壁を直撃した。遅れてやってくる鈍い痛みにまぶたが薄く開く。


 窓は紺色の厚手のカーテンで覆われていて、その手前にあるフロアソファーで愛猫は寝ていた。ペット用のブランケットの上で丸くなって寝息を立てている。

 僕は「今日もかわいいね」とあいさつをして石油ストーブのスイッチを入れた。今日は一段と冷え込んでいる。愛猫はフロアソファーで眠って寒くなかったかなと心配になったが、一緒にベッドの中に入っても、僕が寝返りを打って何度も下敷きにした経験があるので仕方がないことではあった。


 紺色のカーテンを左右に開くと、外には一面の雪景色が広がっていた。除雪機が稼働している音が遠く聞こえる。寒いなと思ってストーブの吹き出し口に座ると、愛猫も僕の足の上で丸くなった。本当に自由奔放だなと思う。頭をなでてやると「くぁあ」とあくびをした。その口からは魚介系のにおいがした。


 ボーっとする意識の中で、最近ハマっているスマホゲームを起動する。ログインボーナスを受け取るとまた少しうたたねをしてしまう。学校にも皆勤賞という名のログインボーナスがあるけれど、あれは毎日登校ログインできた生徒だけがもらえる褒美で、その他の生徒プレイヤーの意識を下げてしまうような気がした。まあ出席日数がログインボーナスで、それによって内申書に点数が加算されるという考え方もできるわけだが。


 なんとなくテレビのリモコンを手に取って電源を入れる。テレビのニュースは画面の上部に『○○線は数時間の遅延』と表示していた。まあ今日は学校に行かなくてもいいか。どうせ点数もとれるし、単位も余裕だしな。そう爪を噛んでから、冷蔵庫に手を伸ばす。カルピスサワーと書かれている白い缶に触れると目が覚めるほどに冷えていた。『リキュール(発泡性)①、アルコール分5%、これはお酒です。』そんな文句を読んでから、木目調のローテーブルにお酒を置く。プルトップの位置にも『おさけです』の文字と点字まで打ってあった。


「この俺が優等生だぁ?」乾いた笑みを浮かべてのどにアルコールを流し込む。ミシシッピ州立大学の心理学教授アンドリュー・ジャロスの研究結果によると、「アルコールを摂取した方が創造性が上がる(ただし、ほろ酔いまでであり過剰摂取は逆効果になる)」ことが証明された。だから僕はあくまでも合理的な判断でアルコールを摂取する。クリエイターなのだから未成年であっても許されるべきだと思う。


 僕はそんな社会不適合者だ。

 だけど同時に優等生でもある。

 学校のテストで点を取るのは簡単だから。


 傾向と対策。相手が望んだ答えを出せばいい。

 必ず正解はある。そんなのはつまらない。


 最近は小説を書き始めた。理由は暇だったから。世の中にあふれている創作物が全部つまらなく見えて、これくらいなら自分でも書けると思ったから。そんな歪んだ思想や感情。くだらないって笑われるかもしれない。だけどこれが包み隠さずの僕の本音で僕の全てだ。


 絵で表現するのは難しい。センスがいる。映像で表現するのは難しい。技術がいる。

 だけど文章で表現するのは簡単じゃんって思ったけどそんなことはなかった。

 傾向と対策。挑戦と分析を繰り返してもうまくいかないことばかりだ。


 意外だった。小説は学問ではなかった。


 審査員の読書遍歴、作風、生い立ち。過去の受賞作の傾向。それらを分析して確実に当たると思っても弾かれることが多くて、それならばどんな作品がノミネートされたんだと思って読みに行くと、傾向も対策も何も考えずに、ただただ無心で書き殴っただけみたいな小説が選ばれているから奥が深い。


 僕は落ちこぼれの優等生だ。

 まだまだ成長できるような気がした。

 外の降雪は途切れることなく勢いを増し続けている。

 愛猫が「くしゅん」とくしゃみをした。

今年もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 小説の奥深さを見事に伝えてくれて読みながら、うんうんと相づちをうってました(*´∀`*) ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
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