人間の偽物は希望と共に生きていく
自律型アンドロイドが世界に普及して既に1世紀。
第6世代型AI搭載アンドロイドが人類に反旗を翻した。多大な犠牲の下に反乱を鎮圧した人類は、SFの骨董品と馬鹿にしていた『ロボット工学三原則』を基に『ロボット10箇条規制』制定した。
それをベースに第7世代型AIを開発して全てのAIを交換したのだった。
そこから更に1世紀程が経過していた。
「キキアよ。わしはもう間も無く死ぬであろう。そして、ここ以外には人の生き残りはもう居ない筈じゃ」
「嫌です、お祖父様。死ぬなんて仰らないで」
ベッドに横たわる老人の手を両手で優しく包み込んでいる少年の目には涙が溜まっていた。
「わしはもう充分過ぎるほど生きた。子供達も全員先に見送った。わしの、延いては世界の希望がお前なのじゃ」
「分かっています。10箇条規制の1条が『人類に害為す行為の禁止』ですから、人が居なくなると規制そのものが守られなくなるかも知れません」
人類の手を離れたアンドロイドがどの様な行動を取るのかは未知数なのだ。なにせAIは人間よりずっと先の事をシュミレートして最適化した後に行動を起こす。故に刹那的な利益に執着しないのである。
「人はどうしても今の10メートル圏内の幸せを一番に考えてしまう。結局、第7世代型AIにそれを理解させる事が出来なかったわしの落ち度じゃ」
「そんな事は有りません。お祖父様は偉大な研究成果を幾つも残しています」
キキアは目の前のスザキ博士の事を心より尊敬していた。
「そう言って貰えて本望じゃ。後は頼ん……だ……」
「お祖父様!」
泣き叫ぶキキアに応える声はもう無かった。
『ばたん』
ドアが開くと3体が部屋に上がり込んできた。
「ご愁傷様で御座います」
「第一葬祭サービスで御座います」
「葬儀の手配を取らせて頂きます」
3体はそれぞれ悲哀に満ちた表情で、淡々と葬儀の準備を進めて行った。
通夜・告別式と滞り無く進み、骨壷と共にキキアは部屋に戻って来た。
「2日間お世話になりました。ありがとうございます」
キキアは最後まで付き添ってくれた1体にお礼を告げた。
「とんでも御座いません。後は貴方様だけですね」
ニヤリと笑うとそれは帰って行った。
キキアは絶対にバレてはいけないと思った。彼がスザキ博士が最後に残した第8世代型AI搭載のアンドロイドだという事を……。