万年筆
西暦2300年、僕の彼女は頭がいい。
だけど好奇心が旺盛だ。
だから昨日、旅行に出かけてしまった。
最愛の人がいないと退屈だけど、最近隣の家のおばあちゃんが大変らしいので
そうも言ってられない。
二ヶ月ほど前から意識不明で入院しているらしいのだ。
三か月前にあったばかりのおばあちゃん。
僕はそのおばあちゃんと特別親しい訳ではないけど、どこか懐かしい感じがして
嫌いではなかった。
だからおばあちゃんには元気でいてほしい。
そう思っていたけど、結局一週間後に亡くなってしまった。
葬式が終わり、あれこれも終わり、僕の元に一本の万年筆が届けられた。
それは古びたもので、見るからに年代物であった。
だけど書けなかった。
何故だろうと僕は思った。
書けない事ではない。それは単にペン先がつぶれていたからだ。
だけど、何故、書けない万年筆を僕に送ったのだろうか。
思い出の品だから。貴重なものだから。
前者はなぜ僕に送るのか分からないし、後者は鑑定によって否定された。
どうしてだろう。
そう思って手でくるくると回しているとそれに見覚えがあることに気が付く。
ああ…そうか。
これを僕に渡したおばあちゃんの親戚の人によると、これは僕の誕生日プレゼントらしい。
僕の誕生日は二週間前、ああ、それならば十分に間に合った。
だけど親戚の人は忙しさに追われ、それを忘れていたらしい。
僕の彼女は頭がいい、だけど、運はないのだ。
昔も、今も。
僕は自ら命を絶とうと、使えそうなものを探し、ふと手に持つ万年筆に目を止めた。
これならば喉を掻っ切れるだろうか。
そういえば僕は何故万年筆を送ったのだろう。
ああそうだ、彼女は手紙を書きたいと言ったのだ。
手紙。
手紙。
手紙。
飛び出した。
なにも見えなかった。
何処へ行けばいいかも分からなかった。
だけど僕の足は自然と思い出の場所へと向かった。
それからはかたっぱしに掘り進めて、なんとか一ヶ月で見つかった。
手紙には三か月前まで宛名はなかった。
そして全ての手紙に涙で濡れた跡があった。
僕は…。