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A戦場へようこそ。  作者: 三方カケル
1/9

ぶおーぶおー

音が好きだった。

ぶおーぶおーって音。

それは黒い服を着た人たちがやってくるときにだけ聞くことができた。

真っ白な長細い箱がその中に入れられ、そうするとそれが真っ白な煙を吹き出しながら音をたてるのだ。

ぶおーぶおー。

だけどある日を境に、誰も来なくなった。

もちろん音もならなくなった。

そうやって寂しい気分でいると次第に気分が滅入ってしまって、なんだか力が入らなくなって

しまった。

そんなある日、一人の人間の少女が僕を見つけた。

少女は僕を見て「あっきつねだ。」なんて言った後に僕の体をまじまじと見て

そうして魔の巣窟に連れて行った。

僕はそこに行ったことはなかったけれど、噂であそこはやばいと言う話を何度も耳にした。

噂通りそこは変な匂いがして、おかしなカッコをした人間がいて、とても痛いことをしてきたけど

何故か少ししたら元気になった。きっと困難に打ち勝とうとする僕の心がそうしたんだろうと思った。

元気になった僕は少女によって元の場所に返された。

驚いたことに少女は他の人間たちと違って僕の言葉を聞くことができた。

だから少女に、なんであの機械はもうぶおーと言わなくなったかを聞いたら、あれはもう古くなって使われなくなったのだと

教えてくれた。

僕が落ち込むと、少女はいくつかお話をしてくれた。

新しくできた友達に、僕の心は虜になった。

少女はそれからも何度か僕の元にやってきて僕とお喋りをした。

楽しかったこと、面白かったこと、嬉しかったこと、いろいろ少女は話してくれて。

お返しに僕もいろんなことを話した。

少女は僕の話を楽しそうに聞いてくれた。

僕も彼女の話が大好きだった。

だけど彼女の話はいつも「かった。」で終わった。昔のことを語るみたいに。

昔のことなのだから当たり前ではあるんだけど、話し終えた後に少女は決まって空を見上げて

悲しそうな顔をするのだ。

僕はそんな顔をした少女を見るのが嫌だった。

だけどそれは言ってはならない事のような気がして、そうしているうちに十年が経ったそうだ。

そうだと言うのは人間よりも寿命が短い僕にとってこの十年は半世紀以上にも感じられたからだった。

つまり少女との思い出で、僕のほとんどは構成されていたのだ。

しかしこのところ少女と会うことはまったくなかった。

理由は分かっていた。最後に会った春、少女、いや、すっかり女性になった彼女は「就職」のために「上京」をするのだと言った。

意味は良く分からなかったが、彼女は働くのだと言った。

それは人間がやらなければならないことなのだと。

しばらく会えなくなると彼女は言って、それに僕は待ってると言った。

夏に帰ってくると。僕はその言葉を信じて待った。

だけど彼女は帰ってこなかった。

冬には帰ってくると僕は信じて待った。

だけど彼女は帰ってこなかった。

春には

夏には

秋には

冬には

ずっと待って、だけど彼女は帰ってこなかった。

そうやって寂しい気分でいると次第に気が滅入ってしまって、なんだか力が入らなくなってしまった。

昔こうなるたびに少女に連れて行ってもらった病院という場所までの道のりは覚えていたが、

そこまで行く体力も残っていなかった。

それから何日か過ぎて、僕の体が限界を迎えかけた頃、遠くからガヤガヤと音が聞こえた。

それはだんだんと近づいてきて、僕は最後の力を振り絞って姿を隠した。

黒い服、真っ白で長細い箱。ずっと前に見た、僕の大好きだった光景だった。

「葬式」と彼女はそれをそう呼んでいた。それは死者を見送る場であると。

だけど、ここにいる人はそんな感じは毛ほども感じられず。

「あの子の最後の遺言だから…」とか

「めんどくさい」だとかいう言葉が聞き取れた。

黒服の行進はあの機械の前で止まり、白い箱を中にいれた。

待ちに待った瞬間、僕が大好きだった瞬間。

だけど何故だろう。胸がとても苦しくなって。はちきれそうになって。

ぶおーぶおー

その音がなった時、僕は走り出していた。

何故か体が軽かった。

煙が上がった、僕は黒服の中に飛び込んで必死に暴れる。

何故、だなんて分からない。ただ悲しいと思った。

噛んで、蹴って、飛び跳ねて、それでも誰も僕を見ない。

そのうち黒服たちは帰っていって、僕は1人取り残された。

「…ただいま。」

声が聞こえた。

そこにはあの日と変わらぬ少女の姿があった。

僕は…。

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