親子の再開
気づいたら「英雄」と呼ばれていた父親と、強制的に戦わされ「英雄」と呼ばれた娘、二人は「英雄」の名を欲した訳ではなかった。
荒野を埋め尽くす何十万もの武装した人々。
人々は剣を持ち、槍を持ち、弓を持ち、殺し合っている。
罵倒や悲鳴が飛び交う戦場に私もいた。
私を殺そうとする敵に日本刀を振りかざす。
殺すたび罪悪感に押し潰されそうになる。
もう100人以上殺した。
殺されるのでわないかと、不安や恐怖に襲われ続け、怪我するたびに歯を食いしばった。
何度も戦場から逃げたいと考えたが、ここから逃げれば国が滅ぼされより多くの人々が死ぬ事になる。
そう考えると逃げられなくなった。
戦いに勝利し、戦場になった荒野を見渡した。
茶色かった荒野は血で赤く染まり、どちらが勝ったか分からない数の敵と味方の死体が転がる。
まさに地獄の様な光景。
悲しむ暇もなく次の戦場へ向かった。
警備兵の朝は早い。
6時に起床し、朝食を取り、身なりを整える。
洗面所の鏡の前で服装を確認した。
鏡には、黒いスーツを着た、筋肉質の中年男が映る。
少し前までは軍服だったが昇進し、スーツでの行動が許された。
瞳は赤く輝きが無い。
ネクタイを締め直し家を出た。
「おはよう。早いな。」
「ああ、おはよう。」
隣の家の玄関には、黒のショートヘア、茶色の瞳を持つ白いエプロンを着けた少女、明花が落ち葉をはわいていた。
隣に住む少女達とは仲良くやっていて、よく助け合っている。
「ミカの部屋は2階か?」
「そうだか?どうした?」
「別に迷惑では無いが、一時頃まで明かりが付いてた。‥勉強は朝のが頭に入るからよく寝ろって伝えてくれ。」
「ああ、分かった。」
「行ってくる。」
「おう。」
警備兵中央支部と書かれた大きな看板、その下の扉をあけ中に入る。
中には机と椅子が向かい合って並んでいる。☓3
一番手前の自分の席に座る。
「おはよう。」
「ああ、おはよう。」
無表情のまま挨拶を返す。
隣の席に座っている赤髪に青い瞳がよく似合う美人は、俺のバディ、名は夕雨討、美人なのもあるが訳あってこいつの顔を見ると調子が狂わされる。
本人の希望で「夕」と読んでいる。
「おっ、お湯が湧いたみたいだね。お茶いる?」
「ああ頼む。」
数分後、夕雨討は2つのコップを持って来た。
そのうち一つを受け取る。
「これは‥」
見覚えがある。
コップには、麦茶でも紅茶でもない、緑の液体が入っていた。
一口飲み確信する。
程よい苦味と渋み、それらが口の中には広がりる。
「緑茶か?」
「お?分かるんだ!美味しい?」
「旨い。」
「良かった。」
夕雨討は笑みを浮かべた。
そ笑みを見て娘の次に大切な存在だった人物と重ねてしまう。
「また入れてくれないか?」
「良いよ。好きなの?」
「ああ」
緑茶を飲み終え、仕事に取り掛かる。
「散hっパトロールに行くか。」
部屋の窓から光が入り、ちょうど目のあたりに当たり目がさめた。
白いベッドから出て背伸びをする。
見たくない夢を見た。
ひたすら敵を殺し続ける悪夢。
忘れたい記憶が夢のせいで鮮明に思い出された。
考えたくない思いが頭をよぎる。
「私は英雄以前に人殺し‥か‥」
目を背けていた自分に、死んだ仲間や敵が「こっちを見ろ」と言っているかのように感じた。
「おーいミカ、あっ自分で起きたのか。飯出来たぞ。」
声で我に帰る。
エプロンを着けた明花が起こしに来てくれた。
「分かりました!」
「どうしたの?ボーとして。」
制服に着替えて何時ものように学校へ向かっていた。
道中一緒になった友人と何気ない会話をするのが朝の日課だ。
「いやなんでもないよ。それよりラン、今度、剣道の試合だよね?」
「そうだけど?」
「差し入れでも持っていこうか?」
「いいの?助かるよ。」
教室に入り自分の席に座るとちょうどチャイムがなった。
担任の先生が不機嫌そうに入室してくる。
この先生の名は白夜、黒髪に茶色い瞳を持つ男だ。
「魔王教会とか言うテロリスト共のせいで休校になった訳だが‥こんなかに外を出歩いてたバカがいると聞いた。」
教室の皆がこそこそ話し始めた。
中には「俺かもしれない」というこえもある。
「起こってねえから自分で出てこい。」
殺意むき出しでクラス中を睨みつける男を怒ってないとは、思えない。
誰も出る事はなく、教室が静まり返った。
「今から呼ぶやつ居残りな‥タナカ、ヤマザキ‥」
一通り読んだあと最後に「ミカ」と言った。
「私もですか?!」
「ああ、お前は道場に来い。」
「平和だねぇ。」
「ああ」
何時もの散p‥パトロールを終え再び本部へ戻った。
席に座り、書類に目を通す。
書類には魔王教会の残党と思われる男達の似顔絵が目に写った。
「まだ残ってるんだね‥特殊部隊が魔王教会本部を潰したって聞いて、終わったと思ったけど。」
「‥まだ終わりじゃないみたいだな。」
魔王教会とは数年前の戦争で滅んだ「魔王軍」の王、「魔王」を神だと信仰するテロリスト集団だ。
実際に見たことがあるが、連中は女子供関係なしに虐殺する。
目的のためなら自害さえするイカレた奴らだった。
つい最近、警備兵が魔王教会へ奇襲をかけ、ほとんどを拘束することに成功したらしい。
「おい!アレックス今夜飲み会あるけど来るか?」
肩を捕まれ振り返って見ると機嫌が良さそうに笑顔の上司が立っていた。
腹が出て、常にタバコ臭い。
「面倒くさい」の言葉を押さえる。
「夕、お前は来るのか?」
「私は‥」
「夕は酒飲まねえだろ?来ても楽しくないと思うけどなぁ~」
「あんたに聞いてないだろ?」と言いかけた。
ムカつく上司だ。
コイツだけじゃない。
何故か一部の人間が夕を避けている。
「じゃあ自分も酒飲まないんで遠慮しときます。」
「そうか?分かった。」
上司が立ち去ったのを確認し、夕が申し訳なさそうに口を開いた。
「いいの?」
「何が?」
書類をめくり二枚目に目を通す。
「飲み会だよ。」
「楽しくもない集まりに行ってなんになる?」
「だけど‥」
「俺は今以上の生活をしたいと思わない。そんな奴がわざわざ上司の機嫌をとっても意味無いだろ?何より俺は酒を辞めた。」
これも嘘ではないが、本命の理由はあえて隠した。
「‥ありがとね」
お洒落で高級感あるバー‥ではなく、少し古臭く、薄汚れた親父達がワーワー行っている酒屋に来ていた。
全体的に見ると散らかっているように見えるが、細かく見ると片付いている。
壁一面ににポスターやチラシが大量に貼られている。
洒落たバーより、こっちの方が親近感があって落ち着く。
カウンター席で男二人肩を並べていた。
二人してスルメをつまみにオレンジジュースを飲む。
「なぁクロ、差別なくすにはどうしたら良い?」
「あ?どうした?気持ちわりい。革命家にでもなる気が?」
共に飲んでいるこの男は、「クロ」瞳の光が合うたび消えていく男だ。
少し前まで俺のバディだったが、今は本人の希望で特殊部隊に移動している。
「いや、夕の話だ。」
「ああ、なるほど。」
「理由は分かるか?」
「夕雨討、アイツは俺と同じ元魔王軍だ。俺の優秀な部下だったよ。あいつ以外にアサシンは数名居たがあいつが一番演技がうまかった。」
「‥」
初めて知った事実に黙り込んでしまう。
夕雨討は俺に教えることは無かった。
元魔王軍となると理由はなんとなく分かる。
「かつての敵をいきなり信用できないんじゃかいか?」
聞かなかったと言えばそこまでだが、相談されなかったと言うことはやはり信用されていない。
今までのは演技か。
「なあ?」
「あ?」
「俺の時と態度がちがくねえか?」
「気のせいだ。お前の場合は、お前に原因がある。」
少なくとも無表情、命を感じ取れない、無愛想な男と仲良くするのは俺ぐらいだろう。
バディじゃなかったら口一つかかなかったかもしれない。
「惚れてんのか?」
「‥いや、惚れた人に似てんだよ。」
オレンジジュースを一口飲んだ。
「顔を見るたび調子が狂う。」
「なるほどな、やっぱり不器用だよお前。」
「うるせえ」
「ミカの件もそうだ。何で娘に父親って隠してんだよ?アイツなら体力だけのバカだから信じると思うけどなぁ。」
「あの子の悪口は辞めろ。」
カウンターから、店長がため息混じりに言った。
「なあ?いいかげん酒を頼んでくれないか?」
「じゃあな。」
「ああ」
一通りの愚痴が終わり、店の前で解散した。
「あっ言い忘れた。」
立ち止まり振り返る。
「どうした?」
「お前、残党の書類見たか?あれだよ魔王教会の。」
「見たが?どうした?」
「その中にガスマスクの男がいたろ?そいつは元魔王軍だ。気をつけろ。」
「強いのか?」
「まあそれもあるが‥とびきりの変人だ。イカれている上に戦闘能力が高くてな、そいつ一人に特殊部隊の警備兵が三十人殺られた。」
警備兵の中でも特殊部隊はとくに戦闘のエリート揃いだ。
そんな奴らを三十人殺したとなるとかなりの実力と言える。
「いいか、そいつは焼死体を見て勃起する様な奴だ。見つけたら容赦するな。‥出来れば俺達特殊部隊で解決したかったんだが別件で『西の国』まで行きゃなきゃなんねぇ。お前らに任せる。」
クロと別れ腕時計を見てみると針は8時を指していた。
確かこの時間なら夕雨討は‥
警備兵中央支部へ向かった。
正確にはその隣の道場だ。
警備兵中央支部の隣にある少し大きめの建物で、半分がダンベルやベンチプレスなど多くの器具が揃うジムになっていて、もう半分は広々とした空間に人一人、体が映る大きさの鏡が一つ置かれそれ、以外は何も置かれていない広々とした空間になっている。
ここは剣術や格闘訓練に使われている場所だ。
警備兵は週3回ここでの体作りもしくは戦闘訓練が義務付けられている。
一部の熱心な奴や暇人は毎日通っていたりするが、今日は飲み会があるせいかジムには誰も居なかった。
道場へ行くと一人で鏡の前に立ち、竹刀を振るう夕雨討の姿があった。
服装はいつものスーツではなく道着に着替えている。
竹刀を頭上に構え振り下ろす。
その顔にいつもの笑顔はなく、鏡に映る自身の目を睨みつけている。
基本的な動作を繰り返す。
その姿を見てここは俺にとって異世界だと言う事を忘れてしまうほどで、憧れていた剣道を思い出した。
「アレックス!来てたんだ!」
素振りをやめ、振り返った夕雨討の顔にはいつもの笑顔が戻っていた。
その笑顔の目を見て信用されてないと実感する。
「熱心だな。」
「まあ、これが取り柄だし。」
「一本、相手してもらっていいか?」
訓練用の木製ナイフを手に取り、夕雨討の喉元へ向かって振りかざす。
夕雨討は、身をよじり交わした。
「きゅうにどうしたの?!」
動揺している。
いや、これは演技だ。
再びナイフを振りかざす。
今度は胸に向かって振るった。
夕雨討は竹刀で受け止めた。
夕雨討の顔からは笑顔が消え鏡に向っていた殺意の目つきに変わる。
どうやらスイッチが入ったようだ。
これで良い、これが夕雨討の本心だ。
わざわざ口で話す必要はない。
中央高校の剣道部の道場に竹刀を振るうミカの姿があった。
「八万八千ニ十一」
休校中に外出て、遊んでいたバツにと素振りを十万回終わるまで帰さないとのこと。
その上休んだり、喋ると1万プラスという鬼畜ぶり。
背後では「先生に礼」「「ありがとうございました。」」
と聞こえた。
どうやら剣道部の稽古が終わったようだ。
だが、それでも帰れない。
「八万ハ千三十‥八万ハ千三十一」
帰りの支度をしたランがこちらへ来た。
「ミカって剣の振り方綺麗だよね。」
「ありがとう。‥あっ」
背後から「一万プラス」と聞こえた。
「ごめん」
申し訳なさそうに言ったランに小声で「気にしないで」という。
これならバレないはずだ。
「一万プラス」
駄目だったようだ。
「じゃあね」
今度は頷いた。
流石にこれなら
「一万プラス」
ランは申し訳なさそうにそそくさと帰っていった。
女子用の更衣室で道着を脱いだ。
道着は汗が染み込み固くなっている。
今日は、いつも以上に汗を流したなと実感する。
久しぶりの実践練習は調子はよく2対1の勝利だったが‥。
下着姿で更衣室の鏡の前に立つ。
鏡には、横腹の赤い痣が目立って映る自身の姿があった。
「痛いか?」
突然の声に驚き、胸と股を隠して振り返った。
アレックスが堂々と女子用の更衣室に入りこちらを見ている。
「何やってるの!?」
とくに興奮しているわけでもなく、いつもの冷静沈着の調子で接してくる。
下着の女とひとつ屋根の下、二人きり、そんな状態で何も感じないのはアレックスらしい。
「質問にこたえろ。何で俺に隠してた?」
「言ったらなおしてくれるの?」
「そんな話じゃねえ、さっき手合わせした時、お前はその傷をかばう動きを何度も見せた。」
バレてたか。
「もし、俺ら二人かがかりで苦戦する敵とあって、お前がその傷をかばって死んだら俺はどうなる?」
「それは」
「二人揃って死んじまうだろ?」
黙り込んだ。
返す言葉がない。
「次からお前が怪我してる前提で戦闘する。文句ないな?」
「‥」
アレックスはドアを開け出ていった。
怪我を隠していたのは無意識に周りを疑っているせいだ。
小さい頃からそうやって育てられた身で、敵だった国で働くとなればなおさらそうなる。
スーツを着て扉を開けると壁に背を預けたアレックスがいた。
「着替え見て悪かったな。」
「待ってたの?」
「ああ、晩飯おごってやる。」
外へ歩き出したアレックスに続いて歩いた。
「俺はお前を勝手に信じる。お前はお前で勝手にしろ。」
その言葉は何度も聞いたことがある。
でも、今までとは違うものをかんしじた。
「勝手にしろ。」いい加減のような言葉だが、今のは不思議とこちらの事を考えている様に聞こえる。
「じゃあ、勝手にさせてもらよ。」
心からの笑顔で答えた。
魚屋を出た明花の手には袋があった。
中には新鮮な魚が2匹入っている。
「ちょっと待て。」
魚屋の主人が袋を渡してきた。
中を確認して驚く。
「こんなデカい鯛良いのか?!」
「いつも来てるからオマケだ。また来てくれよ。」
「ありがとな!」
主人の笑顔に笑顔でこたえた。
ここでの生活にもなれてきた。
近所の人達は皆優しく馴染むのには時間は掛からなかった。
家へあるき出した時に気づく、誰かに追われてる。
このまま帰れば住居を知らせることになるだろう。
それだけは防がなければならない。
振払おうとあちこち入り組んだ道を使う。
路地裏、人が多い大通りなどを利用したが振り払えない。
一定の距離を保ちながら追跡してくる。
こうなれば仕方がない。
人気の少ない場所へ向かった。
「ここなら遠慮なく殺れるぞ。放火野郎!!」
人がいない川沿いの広場、ここなら周りに迷惑をかけずに暴れられる。
「お前はどんな悲鳴を聞かせてくれるんだ?」
「相変わらず悪趣味な野郎だな気色わりい。」
出てきた男は、ガスマスクをつけた長身の男。
見たことがある。
元魔王軍、名前は
「ファインズ、俺は今の生活を楽しんでんだ。あんま調子に乗ったことすんなよ!!」
ファインズは不気味な笑い声を上げた。
短刀で切りかかりながら標的の周囲に糸を使い罠を作っていく。
標的を軸にし、こまめに背後へ回り込みつつ罠へ追い込む、最も得意な戦術だ。
ファインズは、魔法陣を展開し、炎を飛ばしてくる。
だがかわせないものではない。
炎を警戒しつつ順調に追い詰めていく。
罠を仕込み終え、いよいよ終わりにしようとしたとき、ファインズは、また不気味に笑い始めた。
「こんなもんか?」
ファインズは地面に両手をつけると魔法陣を足元に展開し周囲を炎で囲った。
ただの炎ではない。
「地獄の炎だと?!てめえ!どこでこんな術を?!」
ファインズの周囲に仕掛けた罠はすべて灰へと変わった。
切り札を失い、次の策を考えようとした瞬間ファインズを囲っていた炎が、勢い良く燃え広がり明花を囲った。
「な!?」
炎の中からファインズが現れ、自らの拳を燃やし、殴りかかってきた。
煙により視界を阻まれたせいで対処が遅れ、もろに胸、みぞうちへはいる。
苦しさと火傷の痛みに襲われ、動けなくなる。
それをいいことに次々と炎の拳で殴りつけてくる。
「ほら!?ほら!?どうした?反撃して来いよ!」
痛みに耐えられず倒れ込んだ。
「つまんねえな!」
鼻と口を手で覆われ無理矢理立ち上がらさせられた。
手から煙が出て、肺に入っていく。
呼吸が出来ず、暴れたが元軍人の男の前ではなんの意味もない。
これで最後か?
走馬灯が頭をよぎる。
ガキの頃兄貴と山を走り回って遊んだ。
初めて作った不細工な料理を兄貴は、「旨い」と言ってくれた。
いじめられれば兄貴はまっ先に駆けつけて守ってくれた。
兄貴の事ばかり思い出す。
また兄貴とやり直したいな‥
意識が遠退いていく。
「おい、クソ放火魔。その勃起した性器、切り落とすぞ。」
川沿いに白夜の姿が見えた。
「兄貴‥」
「おーおーおー!英雄様の登場かー!うれしいねえー!」
「‥‥」
両手を白夜へむけ、魔法陣を展開し炎を放つ。
白夜は、背中から倒れ込むように川へ飛び込んで交わした。
「おい!おい!逃げんなよ英雄様よお!」
川に両手を入れて魔法陣を展開する。
川の流れはかなり遅く、温度を上げやすい。
十秒もしない内に湯気が上がり、三十秒後には泡を上げ沸騰し始めた。
「そろそろキツくなってきたんじゃねえーか?」
辺りは湯気で白くなり、気温もかなり上がってきた。
この分だと水中はかなりの高温だろう。
だが、白夜は一向に現れない。
「な!?まさか!」
振り返ると明花の姿がなくなっている。
「クソ!湯気に紛れやがったか!‥さすがアサシンだなぁ〜あはははははははははははははは!」
「なあ兄貴!」
「どうした?」
訓練が終わりに肩を並べて武器の手入れをする。
これが兄妹の日課だった。
「兄貴は戦争が終わったら何をやるんだ?」
「‥‥何も考えてないな。」
「そうか。なら俺と旅に行かないか?多分楽しいと思ぜ。」
「多分かよ‥‥まあ悪くないな。」
「戦争が終われば何処でも好きなとこに行ける。やりたいこと片っ端からやるんだ。」
「ああ、楽しみだ。」
兄貴は笑い俺の頭を撫でた。
「明花!?良かった。心配しましたよ!」
目が覚めると一番にミカの顔が目に入った。
周りを見渡すと白く清潔感のある白い部屋で、ベットが何個か並んでいる。
「病院か?」
「はい!倒れているとこを白夜先生が連れてきてくれたんですよ。」
白夜と聞いて思い出した。
「そうだ!兄貴は?」
「白夜さんなら、帰りました。」
「そうか‥‥」
なんか寂しいような気がした。
「無事か?!」
息切れしながらアレックスが入室した。
「ああ、こんぐらいどおっておとねぇ。」
「そうか‥」
安心したのかアレックスはため息をついた。
「相手はファインズで間違いないな?」
「ああ、間違いない。‥だが俺の知る部屋ファインズは地獄の炎なんざ使えないはずだ。」
「‥‥」
「何か裏があると思う。気をつけろ。」
「分かった。‥お大事に。」
背を向け歩き出したアレックスは扉の前で立ち止まった。
「ミカ、この件には首を突っ込むな。」
「当たり前じゃないですか。普通の女子高生ですよ?」
「違う。『魔王殺しの英雄』に言ってるんだ。」
「‥‥知ってたんですね。」
「‥‥」
知っていたんだ。
この男はミカの過去を知った上で普通の振る舞いをしていたんだ。
無言でアレックスは退出した。
すれ違いざまに女が入室した。
「え?もう行くの?」
アレックスは無視し、そのまま病室をあとにした。
「ごめんね。なんか言われた?」
「いえ。」
ミカは下を向いたままで、落ち込んでいるように見える。
当然だろう。
ミカはアレックスに懐いていた。
おそらく誰よりも知られたくなかったはずだ。
アレックスの同僚であろうこの美人は知った顔だ。
「師匠!」
「元気そうで何よりだよ明花、あっこれそこの売店で買って来たお土産。」
ベットの横に置かれた机に袋を置いた。
「ありがとうございます。師匠。」
「そんなに固くならないで良いよ。」
夕雨討は笑顔で励ますようにミカの肩を叩いた。
「ほら!どうしたの?」
「私は、間違っているんでしょうか?やっぱし普通に暮す事なんてむしのいい話、私には無理なんでしょうか?」
頭を上げ柄にもなく泣き始めたミカを見て罪悪感を覚えた。
ミカは笑顔で誤魔化し続けていたんだ。
何故俺は気づいてやれなかった?
「よく夢を見るんです。死んだ仲間が、羨ましそうに見てくるんです。『人殺し』『何故お前だけ普通にくらせるんだ?』って。」
泣きながら吐き出した言葉に夕雨討は笑顔のまま答えた。
「それは夢の話でしょ?気にする必要はない。ミカは戦死した人達のやり残した事を代わりにやったんだから恨まれる筋合いは無いと思うけどね。」
ハンカチをミカに渡し、夕雨討は「また来るよ。」とたち上がった。
病室から出たあと小走りで廊下を歩くアレックスに追う。
時間のわりにあまり離れていない。
おそらく廊下で盗み聞きしていたのだろう。
すぐに追いついた。
歩きながら会話する。
「良いの?」
「何が?」
「ミカだよ。」
「今はこれで良い。あの子をこれ以上巻き込むわけには行かないだろ?俺達大人がやるべきなんだよ。汚え仕事っては。」
相変わらず不器用な男だ。
まだ方法はあるだろうに。
「これからどうする?裏社会の情報屋でも雇う?」
「ああ」
真顔で答えた。
ふざけているようには見えない。本気のようだ。
バレればクビどころか牢屋行きだろう。
「冗談のつもりだったんだけど?」
「キレイ事で形だけの正義と手段を選ばない汚い正義、どっちのが正しいと思う?俺なら汚え方を取る。」
「‥‥アレックスらしいね。付き合うよ。」
アレックスの行きつけの情報屋があると聞き、裏路地にでも行くのかと思っていると普通の居酒屋に到着した。
居酒屋の入り口には七時から開店と書かれた看板が置かれていたが、アレックスは無視して入店していく。
「ここで合ってる?」
「そうだ。」
店の内装は全体的に古臭く、壁一面にポスターやチラシが貼られている。
全体的に見ると散らかっているように見えるが、細かく見ると片付いている。
どこか懐かしい雰囲気だ。
「おい!まだ開店前だぞ!」
カウンターから、店主が顔を出した。
「何だよ。お前か」
「おやっさん。頼んでた情報は?」
「ああ、書類が無いからよく聞いとけよ。‥おい!そっちの彼女さんは信用できるんだろうな?」
「彼女じゃない。新しいバディだ。」
「夕雨討といいます。」
「んなもんいいから早くしろ。」
「ああ、あっこれサービス。」
オレンジジュースを2つ差し出してきた。
ストローに口をつける。
「ファインズは今、魔王教会とは別行動していて好き勝手暴れまわってる。」
つまり標的は単体。
「とりあえず邪魔は入らねぇな。」
「やつの狙いはこの街の観光地の放火だ。実際に何箇所か炎上してる。世間の気をひいて目立ちたいんだろう。」
「次の標的はわかったのか?」
「当たり前だ。俺を誰だと思ってる。‥ここからは有料だ。」
アレックスは舌打ちして懐から金貨が入った袋を取り出した。
店主はそれを受け取り話を戻す。
「中央教会、そこが次のターゲットだそうだ。」
「本当か?」
「奴が先日、下見に来たとの情報が入ったんだ。」
「‥‥また来る。」
「まいどあり、あっあと同じ情報を求めてきた男がいた。」
「‥‥名前は?」
「白夜」
下見していたターゲット、中央教会へさっそく向かってみると、正門前に長い杖を持って露骨に嫌そうな顔をしたシスターの姿があった。
知った顔だ。
「うわ、ほんとに来た。」
「俺はついてるなーまた英雄様とたたかえるのか。なぁ~『魔術師リンカ』さんよ~!確か牢屋にぶち込まれてたんじゃなかったか?」
「あんなとこ、とっくに脱獄しましたよ。」
「で、シスターやってんのか?似合ってんぞ、俺と一発どうだ?」
「まじでキモいんで辞めてもらえます?‥‥あとあなたの相手は私じゃないんで。」
「は?」
杖で地面を2度つついた。
「転移魔術」
その瞬間、足元に大きな穴が空いた。
「うぉおおおおおおお!?」
いきなりの出来事に反応できず、穴へおちていく。
「あとは任せましたよ。『魔力ゼロのアサシン』さん。」
穴へ落ち、着地したと思えばそこは薄暗い洞窟のような空間だった。
上を見上げても穴はなく脱出手段が見つからない。
「よお、放火野郎。出来るだけ足掻けよ、でなきゃ復讐にならないからな。」
岩陰から白夜が現れた。
忍者着に短刀、辺りを見れば糸が、張り巡らされている。
下準備は万全の様だ。
「俺一人の為にここまでするとはなぁ、やっぱり妹の敵討ちか?」
さっそく炎を白夜へ向けて放った。
白夜は避ける動作を取らない。
代わりに上から何かを引っ張りこむ動作をした。それと同時に岩が降ってきて炎を防いだ。
いや、降ってきたんじゃない。糸を使って落としたんだ。
「対策もしてるみたいだな~」
炎をいくら放った所で岩で塞がれるだろう。
それを繰り返せばこちらが生き埋めになりかねない。
少なくとも白夜の方がこの場を知っている。
両手を炎で包み、白夜へ突進する。
罠への注意は不要、俺に罠が通じないのも白夜は知っているだろう。直接罠にかけるなんて無駄なことはしないはずだ。
攻撃が当たるまでゴリ押しで拳を振りかざす。
「オラオラオラオラ避けてばっかじゃ俺はくるしまねぇぞ?」
「なれた。」
「あ?」
一瞬だった。
拳を白夜の顔面に打ち込んだ瞬間、胸に激痛と苦しさが同時に襲ってきたのだ。
耐えられずその場で吐き散らす。
「おら?どうした?強いのは炎だけか?」
「あ?」
煽られ頭に血が登り再び殴りかかる。
だが、拳を打ち込むたび何故かこちらがダメージを受けている。
考えられるのは
「カウンターか?!」
「てめぇ見てーなバカはこれが一番手っ取り早いんだよ。」
「だったらこいつはどうだ?」
跳ねるように距離を取り、地面に両手を付く。
「これならカウンターなんて出来ねえよな?」
地面からどす黒い炎が現れ俺の体を包み込んだ。
地獄の炎、俺の切り札だ。
「アハハハハハハハハハ」
狂ったように笑いながら白夜に向けて突進する。
「てめえみてぇな裏切りもんが兄貴なんて最悪だな!主君どころか家族を裏切ったクソ野郎が!」
「確かに俺は正面から堂々と兄貴なんてなのれる資格は無いかもしれない、だが裏でこそこそ守るなら話は別だ。バレなきゃ問題ない。‥‥だろ?ミカのお父さん。」
「そのとおりだ。明花のお兄さん。」
小さな爆発音が聞こえた。
それと同時に肩に激痛が走る。
「んだ?これ?!」
肩には小さな風穴があき、血が流れている。
白夜へ目を向けると二人増えていた。
「てめぇで間違いないようだな?放火魔ってのは。」
「よくもまあ、かわいい弟子をいたぶってくたね。」
「‥‥何で師匠までいるんですか?」
中央教会へ到着したが、今のところもんだいなさそうだたった。
炎は、どこにも見つからず、ファインズの姿もどこにもない。
「あっ!来ましたか。」
教会から一人のシスターが現れた。
「リンカ、放火魔は来てないのか?」
「私が作った世界に放り込んでありますよ。」
「相変わらずチートだな。」
魔術って便利すぎる。
特にこいつの場合は。
「‥何で夕雨討がここに?」
「新しいバディだよ。‥」
リンカと夕討は戦争時代は敵だったため隠しておいたが、やはりリンカの前では無意味らしい。
「久々だね。」
隠れる必要がなくなったため夕雨討が木の影からすがたを表した。
「気配は完全に消したはずなんだけど?」
「私の前では無意味です。あと過去はお互い忘れませんか?色々めんどいですし。」
「そうだね。」
「それより」
背丈ほどの杖を取り出し地面を2度つついた。
「白夜の援護頼めますか?」
「まかせろ。夕はここで待機してくれ。」
「なんで?‥まさか、火傷の件を気にしてくれてるの?」
「‥‥あんたに傷は似合わない。」
「大丈夫だよ。これは私の不注意だし、もう失敗しないから。」
「だが」
「この傷は背後から不意打ちでつけられた傷なんだ。でも、今は、君が背中を守ってくれるんでしょ?」
「‥‥あんま前には出るなよ。」
「何で師匠まで居るんすか?」
露骨に嫌そうだ。
「嫌そうだね。助けに来たのに。あっ糸で簡単なフィールドを作っておいたから。もし、負けたら‥わかるよね?」
「頼もしいだろ?」
「‥‥」
ため息をつき再びファインズへ目線を戻すと糸で正四角形のフィールドが作られていて、ファインズはそのなかから外に出ようと暴れている。
「てめぇら!?ふざけやがって!」
炎で体を包んだが、何故か地獄の炎ではない。
「普通の炎?なんでだ?」
「俺が打ち込んだ弾丸にはつながりを消す力をつけてある。その影響だろ。‥‥リンカに頼んでむちゃさせた。今頃ぶっ倒れてるだろ。アイツ‥‥」
「こっからは小細工なしってことか。」
「ああ、ここからはお前の土俵だ。煮るなり焼くなり好きにしろ。ただし殺すなよ。」
「良いのか?」
「構わん、俺よりお前のがムカついてるだろ?だからここは譲ってやる。なんか合ったとしても俺らがいるから大丈夫だ。」
「‥‥殺すかも知れない。」
「そんなやわに鍛えた覚えないんだけど?」
「‥‥わかりましたよ。」
短刀をその場に置き、ファインズの元へ歩く。
「第2ラウンドだ。」
拳を振りかざすファインズに対し白夜はノーガード、交わすことなく拳を受け続けた。
体中から血を流しながらも反撃しない。
「どうした?カウンターは得意分野じゃなかったのか?」
「せっかくこの場を作って貰ったんだ。やりたい事は全部やる。」
「何言ってんだお前?」
顎から殴り挙げられ向かい側の糸にたたきつけられそのままもたれかかる。
「おいおい?どうした?まさかドMにでもなったのか?」
口のから血を吐き捨てる。
「流石にキツイな、無抵抗で殴られんのは。」
「あ?だからなんだよ?」
「明花は、‥‥妹はまだ辛かったろうな。」
「だからなんだってんだよ。」
拳を炎で包み殴りかかる。
「終わりにしてやるよ!!」
「ここまでは縛め、ここからは復讐だ。」
ファインズの拳を交わしながら、懐に入り顔面に拳を打ち込んだ。
「な?!ぐぁ!」
鼻血を流し、ひるんだ瞬間股を蹴り上げる。
悲鳴を上げ股を押えながらうずくまった。
反撃の空きを与えず足を頭上まで上げファインズの背中めがけて振り下ろす。
踵落としにより地面に叩きつけられ、ふらつきながらなんとか立ち上がったファインズの胸に更に混信の蹴りを入れた。
勢いよく吹き飛ぶファインズに背を向けた。
見なくても分かる。
「終わりだ。弱すぎなんだよ魔術しか取り柄のないカスが。」
向かい側の糸に叩きつけられたファインズは、糸にからまり拘束されている。
白夜とファインズのタイマンは前半は、ファインズの優勢だったが、後半は白夜の圧勝だった。
弟子の戦いを見る師匠は「大丈夫だよ。けじめをつけるために手加減してるから。でなきゃ久々にシゴキ倒す。」とコメントした。
「終わったみたいだな。」
糸に絡まったファインズを連行しようと一歩生み出した瞬間体中の力が抜け仰向けに倒れ込んでしまった。
「アレックス?!」
体にに力が入らない。
強烈な眠気に襲われそのまま眠ってしまった。
「アレックス?!大丈夫?」
表向きに寝かせ肩を揺らす。
反応がない。
心臓を確認したが問題なく動いている。
「ひとまず体は大丈夫か。‥」
振り返るとこちらに背を向ける白夜の姿があった。
「置いていくの?」
「その人はそう簡単には死なないですよ。」
アレックスの事をかなり評価しているようだ。
白夜はそのまま立ち去っていく。
「白夜、あなたが裏切ったのは、魔王の命令だよね?」
その言葉に立ち止まった。
「なんでそう思うんですか?」
「それ以外に妹を置いていく程の理由が見つからなかったから。」
「それだけで」
「それに『魔王は戦争に勝とうとしてなかった。』からね。」
「証拠は無いですよ。」
「そうだよ。だから、気が向いたらでいいから話してよ。戦争は終わったんだから。」
「‥わかりましたよ。」
立ち去っていく弟子を見送る。
「さてと。運ぶか。」
気がつくと同時に素早く立ち上がり腰のホルスターからハンドガンを取り出す。
そこは真っ白な世界だった。
天井と壁は見えないほど遠くにあるのか、そもそも存在しないのか、無限に広がっているような空間に、何も置かれていない。
そして目の前には、夕雨討によく似た‥‥俺の妻にそっくりな女がいた。
妻には夕雨討もよく似ているがこいつの場合は、まさにそのままの外見だ。
「■■■か?‥‥いやアイツは死んだはずだ。お前、何者だ?」
「私の姿はお前が愛した者になる。‥めんどくさいから、嫌がらせとでも思えばいい。そして私の名前は大悪魔ルシフェル、お前が分かるように言えばかつて『魔王』をやっていたものだ。」
情報が思っていたよりややこしい。
深呼吸をして情報を整理する。
ようするにこいつの正体は『悪魔』、おそらくファインズに力を与えていた存在だろう。
そしてこいつは『魔王』とも名乗った。
だがおかしい。
「魔王は死んだはずだ。」
「すまない。時間が無いからその話は今度にさせてもらう。」
「‥‥分かった。要件は?」
「私と契約を結んでもらいたい。」
「何で俺なんだ?」
「お前の願いは明白で協力したくなる?いや、応援したくなるというべきか。要するにお前の願いを叶えてやりたくなった。‥すまない。話すの苦手でな。」
「‥嘘だな。」
「お前にも、嘘がつけないようだな。」
「バカにしてんのか?」
「いや、すまない。本当はこちらの世界に残らなければならない理由があるんだ。悪魔は契約を結んでいなかれば人間界に留まれないのでな。」
「なぜだ?」
世界が点滅し、歪み始めた。
「‥‥お前の眠りは浅いようだ。残りの話は2日後にさせてもらう。それまでに契約の件、考えておいてくれ。」
重いまぶたを開ける。
「あっ起きたみたいだね。」
夕雨討の顔が覗き込んでくる。
「ここは?」
「中央教会だよ。そろそろいい?膝がしびれた。」
「悪い。」
膝を枕代わりに貸してくれているらしい。
起き上がり周りを確認する。
ステンドガラスから差し込められる月明かりに照らされ薄暗くもここが中央教会だとは確認できた。
「ファインズは?」
「応援にきた警備兵に連行されたよ。‥‥それより大丈夫?」
「問題ない。」
「本当だろうね?」
夢のことを思い出す。
少なくとも今は大丈夫だろう。
2日後に答えを聞くと言っていた。
「‥‥ああ」
「帰ろうか。」
立ち上がり教会を後にした。
外に出るときれいな満月が目に写った。
「お?目が覚めたみたいですね。」
「‥お前もな。」
リンカが教会の窓から顔を出した。
「アレックス。一つ注意しますけど、契約は魅力的なメリットがある様にそれに匹敵するデミリットもある。やめろとは言わないけど、よく考えてくださいね。」
「‥‥」
「じゃあ、悪魔との契約を打ち消すなんて無茶して眠いんでひつれいしますねぇ~。」
窓を閉め教会の奥へ消えていった。
「それじゃ私はこの辺で。じゃあ。」
「気おつけてな」
夕雨討と別れ家へ向う。
「あっ!アレックスさんお帰りなさい。」
「‥ただいま。」
玄関前にはミカの姿があった。
「いい葉が入ったんですよ。」
ミカからお茶に誘われ、長い間待たせてそのまま帰すのは悪いと思いお邪魔することにした。
「‥そのために遅くまで待ってたのか?」
「いえ、アレックスさんと話をしたくなったんです。」
「‥‥」
「あれから色々考えたんですよ。」
あれからとは俺が「魔王殺し」の件を知っている事を知った時だろう。
「そしたら、吹っ切れたと言うかバカバカしくなって。」
「そうか。」
「はい。そもそも私は普通のごく一般的な生活を望んだのは、憧れがあったのもありますけどそれ以前に怖がられたくなかったからなんです。私は英雄ですが、それと同時に人殺しですら。」
「だが、必要な殺しだったんだろ?」
もうこの子に苦しんでほしくない。
そんな気持ちから出た苦し紛れの言葉だ。
「はい、確かに必要な犠牲だったかも知れない。でも結局は殺した事には変わりない。戦争は殺しを唯一正当化出来る言葉です。」
その言葉で軍人時代の自分を思い出した。
軍人時代の俺は少数を殺し、大勢を救った。
罪悪感を殺すため「正義のため」、「平和のため」と自分に言い聞かせていた。
嫌な現実から逃げるために。
「でもそれは言い訳だと思うんです。私を英雄だと知れば称える人もいるでしょう。でもそれ以上に私を怖がる人の方が多いと思うんです。当然です。いくら戦場での事でも私は人殺しですから。普通の生活を望んだのはそんな現実から逃げるためです。」
「‥‥」
「でもあなたは私が人殺しだと知った上で、「英雄」でも「人殺し」でもなく「普通の女の子」として接してくれた。それで気づいたんです。もう苦しまなくて良いって。だから、ありがとうございました。」
もう、心配いらない様だ。
ミカの顔からは曇りが消え、心からの笑顔をしている。
紅茶を飲み干す。
「ご馳走さま。旨い茶だった。」
立ち上がり背を向けあるき出す。
「話を聞いてくれてありがとうございました。」
手を振り返事を返した。
「また、今度は明花も入れて3人で飲もう。」
ミカは、自分としっかり向き合っている。
どんな形であれこの子の役に立てたことを嬉しく思う。
「待ってください。」
「どうした?」
振り返る。
「一つわがまま聞いてもらっていいですか?」
寝室へ移動し、ミカはベットに横になった。
ベットの横に椅子を置き座る。
「あのなぁミカ。いくら信用してるって言っても程があるだろ。」
「アレックスさんは寝込みを襲うようなまねしませんから。」
「わからねーだろ?もしもの事を考えろ。」
「大丈夫、信じてますよ。」
ため息をつく。
押し負けてしまった。
「俺以外の男に『寝るまで横に居て』なんて頼むなよ。」
「え?アレックスさん以外に頼むわけ無いじゃないですか?」
「お前なぁ」
再びため息をつく。
確かに俺はミカの実の父親だ。
ミカに欲情する訳がない。
だがミカはそのことを知らない。
それなのにここまで信用されていると、父親だとバレていないか心配になる。
「明日も学校だろ?早く寝なさい。」
久々に父親らしい事をしている気がする。
「はーい。」
目をつむったミカはベットの上を定期的にゴロゴロ転がっている。
寝付けない様だ。
「アレックスさん。」
「なんだ?」
「昔話をしてくれませんか?」
「‥‥」
少し考えて答える。
「分かった。一つだけだぞ。」
「やった。」
一人の男がいた。
男は目つきが悪く、周りから勘違いされ、よく不良に絡まれていた。
だが男は強く、不良を返り討ちにしていると、その強さが噂になり、軍にスカウトされた。
男は軍に入り訓練に励む毎日。
ある程度落ち着いた頃に、幼馴染と結婚。子供に恵まれた。
愛する妻と娘に囲まれ、男は幸せだった。
だが、幸せは長くは続かなかった。
妻が病に倒れ、そのまま死亡した。
胸にぽっかり空いた穴を誤魔化すため娘をほったらかしにして、戦場を求め続けた。
まるで死に場所を探すかのように最前線に立ち続ける男はいつしか『英雄』と呼ばれるようになる。
だが、それでも胸の穴が塞がる事は無かった。
男は、とある紛争地帯で少年を保護した。
少年の笑顔を見て男は、大切な者を思い出す。
任務を終えた男は、すぐに軍をやめ、家へ帰った。
家には、娘がいる‥はずだった。
探した。
思い当たる所から見知らぬ場所まで隅々まで探し続けた。
だが、娘はその世界のどこにもいない。
「皮肉な話だろ?胸の穴を塞ぐ方法は目の前にあった。なのにそれに気づかず、気づいた時には遅かったって話だ。」
ミカから返事はなかった。
顔を覗くと、安心したように眠ったミカの顔が目に入る。
優しく頭を撫でた。
「大きくなったな。」
寝室を出た俺にはもう、迷いは消えていた。
「どんな手を使ってでも、守ってやる。」
自宅に帰り眠りにつくと再び魔王がいる白い世界に立っていた。
「早かったな。時間は、まだある。考え直さなくて良いのか?」
「ああ、これ以上考える必要はない。契約を結んでやる。」
「了解した。だが状況が変わったので契約の内容を少し変えさせてもらう。」
「どこか変わるんだ?」
「お前には魔王を倒してもらう。」
「どうなってんだ‥?!」
連絡が取れなくなった「西の国」を調査するため派遣されたのだが。
到着するとそこは瓦礫の山だった。
警備兵たちは皆、呆然とその光景をみている。
人っ子一人いない。かつてここが国だったことを疑ってしまうほどの有様だ。
ふと我に返った隊長が冷や汗を流しながら「‥ひとまず誰か生存者を探す。何が起こるかわからないから注意を怠るな。」
皆が動き出した瞬間地響きがしてきた。
混乱する警備兵達の前に予想外の人物が現れた。
「お前は!?そんなバカな!」
黒いマントと鎧身にまとい。赤い瞳を持った異様な殺意をまとった、かつて2つの国を崩壊寸前まで追いやった男。
「『魔王』!?」
どうでしたか?
いろんな小説を読んで見様見真似で書いたものなので違和感がかる箇所があるかも知れませんがご了承ください。
この物語を思いついたきっかけは、fateを見て「英雄てかっこいいな」と思い、本屋へ行くと異世界物が流行っていた‥‥よし混ぜよう。
こんな感じで妄想を膨らませた結果このような物語が出来ました。
次で「再開編」は完結予定です。
続編は、気分と時間次第で書こうと思っています。