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ソラとシロ  作者: なたでここ
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仮面の秘密

 旅の商人から聞いた話だ。

『大きな湖でとても大きな怪物が町を人飲みしたという。賑やかだった町から人が消え、残ったのはかつて人がいたであろう跡地だけだという。』

 その噂の真相を求めて俺とソラでこの場所に訪れた。

 町に着くまでは簡単だった。崩れかけた橋を渡って数キロで到着したのだ。

 町は荒れ放題で、人がいなくなってざっと十年は立っていた。人が再度訪れた後はなく、ただあるのは人がいなくなって放置された荒れ果てた建物と家具などだった。

 寂しいのか風が泣いているようにも聞こえる。人がいたころ、この辺一帯は毎年祭りがあり、遠くからでも人が訪れていたという。

 そんな町から人が消えたのは『怪物』の存在だった。

 怪物は町から人を奪い、そして飲み込み、空になった建物だけを残して、消えた。

 一説によれば、魔女の仕業だとも噂があったが、魔女がこんな大規模な誘拐なことをするわけがない。俺はそうだと信じたかった。


 古ぼけた建物を超えた先で、大きな湖があることを発見した俺は、ソラにこっちにくるよう呼びかけた。

「この湖の水を枯らすことは可能か?」

 湖に指をさしながらできるかと聞いた。ソラは縦に頭を振り、できると答えた。

「怪物は俺が何とかするから、いっちょ怪物をあぶりだしてくれ」

 強引な方法だが、湖に原因があるのなら、怪物を引きずりこむには十分なものだと思ったからだ。俺がそう指示するなり、ソラは「怪物さん、いたくないかな…」と怪物のことを心配していた。

「俺が真実を吐き出させたら、湖も怪物さんも治療しよう」

「うん」

 ソラが頷き、俺は一歩前に出た。

 ソラよりも前に出て、怪物からの攻撃を防ぐために盾になった。

「ソラ、準備はOKか?」

 ソラは頷いた。ソラに任せて、俺は鞘から剣を抜き、構えて待機する。

「太陽の炎さん、我が刻印の名のもと、湖から水を飲み干せ!」

 ソラの瞳に刻印の模様が浮かび上がる。

 魔法を使う際、俺達は体のどこかで刻印が浮かび上がる。刻印は魔力を生み出す装置。そして、唱えるとき、エンジンと同じようにして活発し、頭部に位置する箇所からマナを乗せた言霊を放ち、魔法を唱えた。言霊となった魔法は妖精のような姿を借りて、天へ昇っていく。

 太陽に力を貸すために魔法は妖精となって太陽へ呼び込みに行ったのだ。


 ズズズズ。

 地響きの音が響き渡る。

 湖から徐々に水が蒸発し、気流となって空へ昇っていく。

 ソラの瞳から刻印が消えると同時に、湖だった場所には大きな穴が出来上がっていた。

「上出来だ」

 怪物が出るか、魔物がでるか、果ては魔女が召喚した者がでるか、待ち構えていた。

 ……来ない。

 構えているが、一行に姿は現さない。

 ソラを後ろに待たせたまま、穴に近寄った。

 そこには船の残骸や陸地にある建物とはうって新しいほど綺麗な建物が広がっていた。

 まるでダムをつくるために町や村を沈めたような感じだった。

「まさか――」

 下へ滑り、町へ近づく。俺は剣を持ったまま、ソラに降りてくるよう指示し、俺は待機した。

 ソラが降りてくると同時に、町の中から人が出てきた。どうやら騒ぎに気が付いて、出て来たらしい。

「あなたたちがこれを…!」

 水がすっかり消えていることに驚きながらも冷静に俺たちがやったのかと尋ねた。

 俺はそうだと返事をすると、町の人である女性がこう口にした。

「詳しい話を聞かせてください」


 女性に案内されつつ、ある場所へ向かって歩いていた。

 聞けば、町の中心にある井戸に向かっているのだという。

「怪物が出ると話しを聞いていたのですが――」

 俺が尋ねると、女性は何も答えなかった。

 それどころか、ソラに視線を何度か送りながら、ソラのことを気にしている様子だった。

「ここです」

 井戸と言われた場所は、上空へとつながる噴水のようなオブジェクトだった。水が空へ吸い込まれるかのように伸びており、水源はどこから流れているのか不明だが、頬をなでるほどの風が噴水に向かって吹いている。

「詳しい話を聞かせてください」

 女性は順に沿って、話しだした。


 事のお話は二十年前にさかのぼる。

 まだ、この町が陸地に存在し、人々がにぎわっていたころ、一人の魔女がこの場所に訪れた。魔女の身体は傷だらけで、まともに歩けているのは奇跡に近いと医者が言うほど危険な状態だった。

 魔女は「かくしてくれ」とあるものを頼まれ、そのまま亡くなった。

 魔女に託されたものを知った町の人々は最初、それを手放そうとしたが、魔女の呪いや魔法を恐れたためにそれを捨てることを拒んだ。

 この町に古くから伝われている埋葬の方法で亡骸を湖に小舟で流し、祈りをささげた。ユラユラと揺れる小舟を見送り、町の人々は魔女という存在を伝承に隠した。

 しばらくして、騎士がこの町に尋ねてくるようになった。

『魔女を隠してはいないか?』

『魔女がここに来たのはわかっている。正直言いなさい』

『魔女を隠した反逆者め!』

『魔女を匿うものは死刑だ!』

 と魔女の噂を耳にした旅人や騎士からの嫌がらせに耐えかねた、町の人々はこの町を捨てることにした。魔女はもうこの世にいないことを伝えても誰も信じなかったからだ。

 湖の底へ移動しようと考えたのは魔女が託した弟子からの意見だった。

『おいらが、大きな結界を張る。それでみんなは必要な物だけ運んでくれ』

 町の人々によって育てられてきた弟子はいつしか、町の人々の助けになりたいと思うようになり、そして、町の人々と建物ごと湖の底へと非難した。

 建物はコピーし、湖と陸地へと分けて移動した。

 結界を施すために、水が枯れないようにと『井戸』と呼ばれる無限水源に従って、この町は二十年間、守られてきた。

 弟子は外から見守るといい、着いてこなかった。

 おそらく、陸地にいた人々がいなくなったのは怪物の仕業だと広めたのは弟子さんだろうという話だった。

「――話しを戻しますが、これだけの水をどうやって消したのですか!?」

 俺は悩みつつ、ソラが魔女の娘であることを打ち明けるべきか、ウソを言うべきか困っていた。町の人々は魔女のおかげだというし、魔女の弟子――たくしたものは、つまり、魔女の子供であることが推測される。この人たちに魔女だと告げても大丈夫なのかもしれないが、一応用心したほうがいいだろう。そう思って、口にしようとしたときだった。

「――おいらの客人だよ♪ みなさん!」

 一番高い建物のてっぺんから飛び降りる仮面の人。

「お弟子さん、いつお帰りに!?」

「今さっきだよ。なんだよ、来るなら来るって先に連絡くれよ♪」

 頭の後ろに両手を組みながら片足を上げ、ぴょんぴょんと飛んで見せた。

 仮面だ。男女と見分けがつかない声色を使っている。子供なのか大人なのかも区別するのは難しい当たりの身長だった。

「仮面、ここが君の故郷なのか?」

「まあ、そういえばそうかもしれない。けど、生まれは違う。おいらの出身は覚えていないが、この町で世話になったのは事実だ。だから、故郷と答えてもいいのかもしれない」

 少し照れ臭そうに話した。

「それで、この水の結界を解除したのはシロたちかい?」

「そうだ。怪物がいると聞いて、来たんだが…」

「かいぶつ? かいぶつとはウハハハ。とんだデマに引っかかったね」

 突然笑い焦げる仮面にシロは赤面した。

「その噂はおいらが流したデマさ。そうしておけば、町の人々が突然いなくなるなんて、魔女でもなければありえない話だからね」

「でも、見たという人もいるって…」

「……おかしいね。怪物はおいらが見張るあたりで見かけたことは一度もなかった。まさか――」

 ズズズズズ。

 再び地響きが鳴り響く。

 地面が揺れ、建物や家具が揺れる。人々が机の下や建物の影に隠れ、やり過ごす。

「先ほどからなんだ。この音。誰かが意図的に仕組んだと思われるんだ。なあ、この水を再び元に戻しておく。シロたちは外で何が起きているのか見てきてくれないか?」

「…わかった。いくぞ、シロ!」

 会釈し、仮面と一旦別れた。

 穴から這い上がり、外の世界に顔を出してみると、そこには二人の騎士が待っていましたと言わんばかりに待機していた。

「やはり怪物の噂はウソだったのですね。いやはや、地響きがするもんで、飛んできて正解でしたよ。先輩、手配中の魔女の兄妹ですぜ」

「天が味方してきたな俺らも。抵抗するなら、拷問・協調・実験されても文句は言わないよな? 俺たちに捕まるか、魔女として罰を下されるか、ここで俺らの実験体になるか選んでくれ」

 上からの目線で騎士たちが選択肢を絞ってきた。

 あの音の仕業は彼らと思われたが、二人の発言から、この地響きは彼らの仕業ではないようだ。

「ソラ、どうした? 怖いのか」

 妙に震えている。ソラにしては珍しい。二人の実験・拷問と聞いて嫌なことを思い出してしまっているのだろうか。俺は早々に肩をつけるべき、鞘から剣を抜いた。

 そのときだった、穴から姿を現すようにして十メートルはあるであろう足に大きな甲羅の上に町が並び、大きな頭が起き上がらせた。

「なっ!!? なんですかアレは!!」

「大きな亀、それに……甲羅にはここからでは小さいが、少し広い町と見たこともない鉱石がいくつかある。あれは――」

「――アダマンタイマイ」

 騎士の先輩からかぶるようにセリフを重ねるシロ。それに続けて、「あまだんたんまい?」とソラが言い間違えて言った。

「アダマンタイマイ。古来から存在し、大きな亀だ。人を見下すほどの大きさで、山を越えるほどの大きさだともいう。甲羅には希少で超純度が高い鉱石を生やしていると言われている…まさか、この地響きはこいつが原因か」

 ソラを抱えて、空へ逃げる俺。アダマンタイマイに踏まれてはひとたまりもない。奴は蟻のように踏んでも気にしない怪物だ。地上にいては勝ち目はない。

「先輩、にげましょうよ! あんなの、勝てっこないですって!」

「ああ…みごとだ」

 見とれているのか感激しているのか、先輩に引っ張られならも身動きを変えない先輩。二人を追うかのようにアダマンタイマイは足を踏み下ろした。

 先輩を置いて、一人逃げ切ろうと束の間、先輩はアダマンタイマイに踏まれた。再び足が地面から放されると、そこには騎士の姿はなく血肉と装備品の欠片が散乱しているだけだった。

「せ、先輩がつぶされた…こ、ここ、これを、はやく…報告しなくては――」

 逃げるように走り去っていく騎士を尻目に俺達はアダマンタイマイを見つめていた。

「おいらの見込み通りですね♪」

 仮面が後を追いかけてきた。

「おいらが仕込んでおいたものですよ。魔女が町の住人にたくしたもの――アダマンタイマイの卵だったんですよ。彼らは非常に大きな卵で百年に一度しか孵化しないんですよ♪ それがようやく目覚めたようです。これで、町の人々はしばらくは平穏でしょう」

 仮面は少し寂しそうだった。

 守りたかった故郷が遠くへと運ばれていくのを見つめながら、仮面は視線を決して振り向かず、じっと姿が消えるまで、見送り続けた。

 再び地面へ降り立つと、そこには滅びた建物と、かつて湖があった大きな穴だけが残されていた。


――ニ十分後。水を再び元に戻して、なんの変哲もない湖へと姿を戻していた。

「寂しくないのか」

「別に。これで遠くへ足を運ぶことができようになった。自由に足を動かすまで二十年はかかるからね」

「そうじゃなくて、いいのか? 故郷だったんだろ」

「いいさ。俺はあくまであの町で育っただけ。本当の生まれは別にある。そこはエルフたちが暮らしていた場所だと生前亡くなる前に聞いている。だから、あの町は町でおいらの思うところはべつなのさ♪」

「やせ我慢しているのか?」

 ソラに尋ねられ、仮面は「いんやその逆や♪ 束縛から解放された身や。今はぎゅーと身が沈んでいたのを解放された気分や♪ だから、今後、旅を続けられるから、よろしくな♪」

 複雑な思いを乗せたまま、俺達は騎士様が待つ、次の町へ足を進めた。

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