船旅
地下へと続く深い空洞を歩いていた。
穴場だらけだった空洞は時折風が吹いており、それが不気味な声となって耳元に囁いてくる。そのたびに、後ろからついてくるソラが悲鳴をあげた。
空洞を抜けると、広々とした空間に出た。
港にはひとつしか船はなく、他は出向してしまった後だった。
空間には水がないのに、船は波に揺れるかのように小刻みに揺れては、宙に浮いていた。
「まもなく出向ーします!」と人が旗を上げながら呼びかけていた。
「この船を逃したら五時間は来ないぞ! いそげ!」
シロに担がれソラとともに船へ駆けあがった。
船員に案内され、部屋に通されるとそこは外とは打って変わって小さかった。
「小さい個室だな」
「そうだな」
二窓の大きさの窓が取り付けられ、外を見渡すことができる。部屋はふたつ。ひとつは備え付けの机といす。移動ができ、これをどかすと、床下からガラスの箱が出てくる。
箱の中は湯船が魔法で浮いており、触れるとシャワーのように拡散される。水の温度は適度で、人の体温よりも少し上あたりで合わせているようで、あたたかい。
箱から水が漏れることが無いよう魔法で水を浮かせてある。湯船である風呂も魔法によって箱状に浮かせてある。透明の壁が張ってある感じだ。
もう一部屋は二段ベットと小さなモニター、小窓がひとつ。
トイレは、二段ベットを動かすと、下につなぐ隠し階段が出てくる。
降りた先に階段がある。
夜寝ていた際のトイレは大変だろう。
「いくらしたのだ?」
「Cランクだからな、2000ベルだ」
Cランクでこの程度だ。その下のDランクだと小部屋で寝床はあるものの、モニターや風呂などが備わっていない。Eランクだと最低で、倉庫のような部屋で寝かされる。他人とのプライバシーもなければ自由にできない。
その上のBランク以上は予約席なので、前日までに予約はいっぱいで部屋はとれなかった。
「その金額は一日分の食事代だ」
よく計算してんな。と心ばかりに思いながらソラの頭に手を置いた。
「高かっただろ。あたいは満足だから、喧嘩にならなかったかどうか心配だ」
それはソラ自身に対してなのだろうか? まさか俺に対して言っているわけでもないと思うが、ソラは俺が喧嘩を吹っ掛けてCランクにしてもらうよ言ったのだと思っているんだろが、それは違う。
ソラのためだと思って高い金を出してまで選んだわけだ。
「ソラ、次の町に着くまで大人しくしておけよ」
「うん」
満面な笑みで答えた。
その笑みがどこまで信用していいのかと心の中で疑った。
出発してから1時間が経過した。
出発駅で本をいくつか購入し、その本を読破するため一人見続けていた。
ソラは退屈そうにごねていたが、「大人しくしろよ」の言葉に従って扉の外へ出ようとはしなかった。
魔女騒動の一件以来、シロと別行動をとることはきっかりと減った。
ソラを助けるためだと騎士団を裏切り、騎士団から破門され、命を狙われているからという依頼で、どこか遠い場所へテレポートさせておいた。
その場所は今から向かう国から近い位置になる場所だ。追ってから手が届かない場所を希望していたため、騎士様には悪いが、その措置をとらせてもらった。
仮面は「用事を思い出した」と言って以来、会っていない。
どこで何をしているのか謎のままだ。
「シロー、退屈だよ…」
頬を膨らませ、シロになにかと遊びたいと表情で訴えていた。
「本を読むか?」
「難しいから無理」
「だったら読み聞かせしてやろうか?」
「途中で寝ちゃいそう」
「だったらルームサービスを頼むか?」
「お金大丈夫?」
お金のことなら気にするなとはいいつつも財布のなかを確認する。
財布のなかはルームサービス程度ならまだ大丈夫だろうという金額だ。無理強いは厳しいところになるが、「今のところな」と返すと「やめておく」と察したように「たいくつ」と椅子に座った。
船の移動は子供にとっては苦痛だろ。
どこにもいけないし、制限された場所でしか移動できない。
遊び道具もなければ外へ出る出口もない。
ソラは窓から見える景色を見つめてはため息を吐いていた。
「仕方がない、船内を観光するか」
返事はなく窓の外の景色を見ていた。
本を閉じ、荷物をそのままにして扉の外へ出ようとしたとき、「ついていく」と裾を引っ張りながらついてきた。外の景色も飽きたのだろう。
船内は思ったほど広く、食堂、トイレ、寝室、図書室、操縦室などなど回ったが、ソラはどれもお気に入りすることはなくつまらなそうに歩くだけだった。
「…魔法を使いたい」
ボソっと呟いた。
今から行くところは魔法を禁止していない国だが、まだ船のなかだ。魔法を憎む者や過剰に反応する者など乗っていてもおかしくはない。魔法なんて、むやみに口走ないほうがいい。
「ダメだ」
「……」
ソラはみんなに聞こえるほどの声を上げた。
「どうしてさ!? これもダメ、あれもダメ、それじゃ、あたいは何をしたらいいの!?」
「……」
俺は黙った。
口を開けば、きっとソラを傷つけてしまうのだということをわかっているからだ。
「シロなんて嫌いだ! ママがいてくれたらな~」
ママはもういない。でも、いてほしい。
仮面の情報だと、刻印の魔女は公正な法廷で裁かれ、住民が見渡せるほどの広場で殺されたことを聞いたからだ。その情報はウソであってほしいと何度も思った。
でも、騎士様が言っていた。
『残念ながら刻印の魔女は……殺されたのだ』
二人して偽ることなんてしない。
だから、ソラに本当のことは伝えられない。
いまだにソラには、『ママと放れて一人前の証として旅行する』という名目で旅行している。この旅行が終わった時、ソラはきっと壊れてしまうのだろう。
それが一番恐れている。壊れなくても、俺自身が認めてしまっているようで俺自身が先に壊れてしまうかもしれないと恐怖で心から叫びそうになった。
だから、「一人前になるための旅行だろ!?」とツッパネてソラを説得しようとした。
「ぬーー」
寝室に戻ってから、ソラは大人しくはなった。
ママ(刻印の魔女)に一人前になったと堂々と胸を張るというたてまえで言い切ったのを思い出したからだ。
ベットに横たわり、「シロー! 本を読んでー!」と声を上げるので、買っておいた本を読み上げた。
到着するまでの10時間、ソラと隠れて魔法で遊んだり、本を読んだり、テレビを見たりしていたら、圧倒間に時間が経った。
港に到着した頃には俺は、眠気に襲われつつも荷物を持って予約してあった宿屋へ早々と寝た。




