第五十一話 決着そして卒業
ツチヤ1号車とマコト2号車の一着競りを続けて最後のターンマークへ迫る。1着競りが最終ターンマークまでもつれることは非常に珍しい。
以前より説明してきた通り、残留魔力があるので後続車両とは通常差がつくからだ。しかも競り合うためには相手の残留魔力を越えるか避けるかしなくてはならない。
避けるということは相手より外を廻るということで、全開でターンしている相手の外をさらに速い速度でターンするのは通常のサイドターンでは無理ななのである。
しかし、マコトによってそれを可能にしているのがブレーキングドリフトだ。
マジカルレース界の常識はサイドターンで小さく廻って速く立ち上がり、1週の走行距離を短くすることでタイムを出すというやり方である。
その常識を覆すべく、ブレーキングドリフトで大きく廻ろうともそれ以上に速いターンをするというやり方をマコトはやっているのだ。
そのブレーキングドリフトで模擬レースも大活躍してきたマコトだったが、ツチヤにそのブレーキングドリフトをブロックされてしまっていた。
そしてマジカルレース養成学校での最後のレースであるこの卒業レースも、最後のターンマークを残すのみであった。
ツチヤが先にブレーキングに入る。マコトのブレーキングドリフトをブロックするためにいつもよりもさらにブレーキを遅らせる。
「このターンマークもブロックして終わりだ!」
先ほどからテンションを上げているツチヤが普段は出すことのないボリュームで声を出す。確実にブロックするためにターンマークを外してでも、マコトのブレーキングドリフトをブロックしに来たのだ。
それを見たマコトはさらにツチヤよりもツーテンポはブレーキを遅らせた。それを見たツチヤは思わず言葉を口にした。
「そんなにブレーキ遅らせたらオーバーターンだ! あせったなヒビノ!」
そうツチヤが言おうとしたが、言いきる前にけたたましいスキール音がした。マコトがブレーキングに入った瞬間にフェイントモーションから直ドリに入ったのだ。
「直ドリだと!? そこから流すのか! しかし先に横に向けたからと言って制動距離はどうにもなるまい! 俺が先にターンして終わりだ! 」
ツチヤの言う通りだった。直ドリにしたところで制動距離が短くなるわけではない。しかし、マコトは以前より考えていた。
ブロックされてブレーキングでドリフトできないなら最初から横に向けてればいいじゃん! と。だが、このままでは結局ツチヤの言う通りオーバーターンになってしまう。
「そう、単にサイドブレーキ引いただけじゃあな!」
マコトは口元に笑みを浮かべながら気を吐いた。
ツチヤが先にサイドターンで先マイしようとする。それに対してマコトは直ドリからそのままツケマイでターンしたのだ。
「何ー! そのままツケマイだと!? 何故オーバーターンにならないんだ!?」
ツチヤは理解できないというように叫びながらもそのままターンマークを廻る。そのツチヤをこれでもかと速度を乗せて直ドリからターンに入ったマコトがツチヤをツケ廻った。
マコトが何故オーバーターンしなかったかというとフットブレーキを踏みながらサイドブレーキを引いたのだ。
フットブレーキで前後輪にブレーキをかけ、さらにサイドブレーキで後輪に制動力を足すことで直ドリからの制動距離を短くしたのだ。
しかし通常120Kmからフェイントをかけブレーキを踏みながらクラッチを切ってサイドブレーキを切ろうものなら、前荷重でリヤの荷重が抜けてさらにリヤタイヤがロックするので下手するとそのままスピンしてしまうだろう。
だがマコトはこのシチュエーションを予想しており、直ドリからスピンしないようにアンダー気味のセッティングにしておき、さらにはクラッチを切らずにサイドを引きっぱなしにしている。
クラッチを切ると車が前に進もうとする力がなくなり、それまでの速度の慣性力で車が横を向いたまま前に進もうとするが、クラッチを切らずにサイドを引くことでリヤタイヤは制動力をかけられながらも回転しようとする。
タイヤが廻ろうとすれば前に進もうとする力が働き、ステアリングを切った方向に車は行こうとするのだ。これをアンダー気味にセッティングしたマシンでスピンさせずに制動距離を短くしながら曲がることが可能となったのだ。
この直ドリをツチヤに負けて以来練習してきていた。この大一番の最後のターンでそれを決めて来たのだ。
「これが俺のとっておきだー!」
ツチヤ1号車へのツケマイからターンマークを立ち上がったところでマコトが外側から前に出た。
「何だとー!」
ブロックに入りさえすればどうころんでも勝てると考えていたツチヤは驚愕した。あの状況から抜かれるとは! と。
スタンドでもどよめきが起きた。
「最後の最後で直ドリだー!」
「すげー!直ドリからツケマイに行って抜いたぞ!」
「何あれ!? 信じられない!」
他の42期生たちが騒ぐ中、ワタナベも驚愕していた。
「直ドリで抜くなんて!」
「ふふふ、ははは! 直ドリを実戦で使うか! その技術、見事マジカルレースで使えるようにしたみたいだな!」
ワタナベの横でイノキが豪快に笑う。その瞳はマジカルレーサー養成学校校長のものではなく、不死鳥とよばれた殿堂入りレーサーのそれであった。
マコト2号車はそのまま直線でツチヤ1号車に追い付かれないように、ツチヤ1号車の頭を抑えるように斜行する。
ツチヤ1号車はマコト2号車が前を横切るように斜行するのを見て、マコト2号車の残留魔力を一瞬で横切れるようすぐさま外側に1号車のステアリングを切った。
しかし、一瞬で残留魔力を横切ったせいでマコト2号車は思うように伸びていかない。
「くっ!届かない!」
マコト2号車の光る残留魔力の文字通り後塵を拝したわけである。
そしてそのままマコト2号車がスリットを駆け抜け1着でゴールしたのだ。
「よっしゃーー!」
マコトは叫んだ。模擬レースの最後の最後でツチヤと1対1で勝利したのだ。ツチヤに負けて以来このために練習してきたといってもいいくらいだった。
続けざまにツチヤ1号車がゴールし、そのあとにヨーコ3号車がゴールした。そして少し相手からダイスケ4号車、ナカタ5号車に最後尾6号車のゴールとなった。
卒業レースには表彰式がある。表彰台もあり、俺は堂々と1位の台に上がった。2位の台にツチヤ、3位の台にヨーコが上がった。
ヨーコの眼は赤くなっていた。レースが終わって車を降りてヘルメットを脱いだ後、泣きながら俺に抱きついてきたのだ。
この2年のつらい日々がこみ上げてきて嬉しさと相まって感極まったらしい。おかげで廻りから冷やかされるはそのままヨーコごと胴上げされるわで大変だった。
ツチヤが前を向きながら話しかけてくる。
「今回はやられたが次はこうはいかない」
「おう。これが始まりだからな。今後も受けて立つぞ」
そう俺が返事しお互い顔を見合わせてふっ、と笑ったのだった。
卒業レースが行われた後、卒業式が行われる。
卒業式には研修生の親兄弟が参列を許されている。
マジカルレーサーのプロとしてデビューすることが決まったとはいえ、まだ10代の子供なのだ。親も子の晴れ姿を見たいと遠路はるばるやってきている。
卒業レースも親族は特等席にて観覧が可能になっていた。もちろんうちの両親もヨーコの両親も来ており、卒業レースも見ていたらしい。
卒業式の前に俺とヨーコはお互いの両親に半年ぶりに再開した。マジカルレーサー養成学校には盆も正月も休みはなく、あるのは半年に一度の外出可能な自由日だけなのだ。
「マコト! 優勝おめでとう! まさかお前にここまでの才能があるとは! 魔導車やマジカルレースが異常なほど好きなのは知ってたが、俺は鼻が高いぞ! 」
「マコト、あんたヨーコちゃんに迷惑かけてないわよね? 優勝してプロになるって言ってもまだ18歳なんだから、ヨーコちゃんに迷惑かけないようにしっかりしなさいよ? 」
「お、おう。」
相変わらずの魔導車好きの親父と心配症のおふくろが開口一番言ってきた。親父のテンションと俺よりもヨーコの心配をするおふくろにちょっと面食らう。
「ヨーコ、卒業おめでとう。」
「こんなに立派になって。」
「うん、ありがとう! お父さん、お母さん!」
ヨーコのおじさんはヨーコの肩にてをかけながらうんうん言ってて、おばさんは涙をハンカチーフで拭っていた。
うん、やっぱりうちの両親と違うな。レースの結果よりも子供の成長を喜んでいるようだ。
もしかしたらうちの両親のほうが一般的なのかもしれない。ヨーコの両親が良くできた人たちなだけで。まあいいんだけど。
そしてその日、俺たちは卒業証書とともにマジカルレーサープロライセンスを手にしたのだった。
俺たちの戦いはこれからだ!
あ、すいません。
第二章が終わっただけです。
次回からの第三章もぜひご期待ください。




