第五十話 卒業レース③
2周目ホームストレートをツチヤ1号車とマコト2号車が並走し、2車身差でヨーコ3号車が追いかける。
1周目2Mのターンを見てワタナベが口を開いた。
「やはり、ヒビノのドリフトは速いですね。ツチヤの外を廻って同じ位置にいるのですから」
「ああ。ツチヤと同じ速度で廻っているならターン半径が大きい分移動距離が長くなり差がついているはずだ」
ワタナベの言葉にイノキが答えた。そしてそのまま続ける。
「しかし、このまま外を廻りつづけても直線でツチヤに負けてそのまま抜けはしない。どうする? ヒビノ」
「確かに」
ワタナベが頷いた。
いかにマコトのドリフトが速かろうとツチヤと並んで走っている以上、直線で伸びるツチヤがゴールスリット時には前にいる可能性が高いということだ。
2周1Mが迫る。ターンイン時点ではツチヤ1号車のほうが前にいる。しかし、マコトはブレーキングでその差を詰めてそのままブレーキングドリフトに持ち込む。
ツチヤは受け止めるようにサイドターンで鋭く曲がる。この1Mもすぐ後ろにヨーコ3号車がいるためロスのないようにマコトのブレーキングドリフトをブロックにはいかない。
2周目1Mもサイドターンのツチヤ1号車に対してマコト2号車が外をツケ廻り、立ち上がりで加速しながらバックストレートで並走となる。
ヨーコ3号車は1,2号車の軌跡を差すように廻ったが、2台分の残留魔力を横切るのでより差が開いている。
2周目1Mのターンを見た他の42期生たちがささやき合う。
「それにしても、相変わらずヒビノすごいな。ツチヤの外廻ってついて行ってるぞ。」
「確かに。俺には真似できねーよ」
「わたしも」
マコトのブレーキングドリフトを皆まねて練習していたが、誰もマコトのようにはできなかったのだ。
結局サイドブレーキを使わないとテールスライドを誘発できないものが多い。出来るようになったものも他車との競り合いの中でどんなときでもできる者は皆無だった。そして単なるサイドターンでは相手の外を廻って並走することはできないのだ。
マコト2号車の内側を並走しながらツチヤ1号車が直線の伸びを生かしじりじり前にでる・
「どうしたヒビノ。このままでは何も変わらないぞ?」
ツチヤがエンジン音とロードノイズが響く1号車の車内で一人つぶやく。マジカルレース車両には遮音材も防音材もついていないので、それらの音は筒抜けになっている。
ヨーコはツチヤ1号車とマコト2号車のテールを見ながら追いかけていた。
「さすがにもう追いつかないかー。でもマコトがまだ頑張ってるんだからあたしもあきらめずに頑張る!」
ヨーコはそう言いながら前の2台を視線に捉え次のターンマークに集中する。
さらにダイスケ4号車、ナカタ5号車が続く。この2台の位置からはツチヤ1号車とマコト2号車がターンして立ち上がって行くのが良く見える。
まさに以前ツチヤとマコトの走りを追いかけると自分に誓った状況だった。そのマコトの走りを見ながらつぶやく。
「マコト、このままじゃ勝てないぞ。どうする?」
ナカタもツチヤとマコトのターンを見ながら口にする。
「あのツチヤとためはれるたー、さすがヒビノ! あたいが見込んだ男だけのことはある!」
後続車両の思惑をよそにツチヤ1号車とマコト2号車が光る粒子をバラまくようにバックストレートを駆け抜ける。
そのまま2周2Mへターンインするためブレーキングに入る。マコト2号車はブレーキングで直線で差がついた分をつめてそのままドリフトに入る。
ツチヤは後ろのヨーコ3号車を警戒してここでもブレーキングドリフトをブロックにはいかない。そのままサイドターンで廻り、状況変わらずツチヤ1号車とマコト2号車はバックストレートを立ち上がる。
3番手のヨーコ3号車とさらに差が開く。通常のマジカルレースでは1番手と2番手以降との差はターンマークを廻れば廻るほど開く。
何故なら1番手は前に誰もいないため残留魔力を横切ることはないが、2番手以降は先行車両の残留魔力を横切るか避けるかしなくてはならないからだ。
このレースではツチヤ1号車に対してマコトが外を廻っているのでマコトは残留魔力を横切ることはない。
しかし、その分ヨーコ3号車は2台分の残留魔力を横切らなくてはならないのだ。その分ターンマークを廻るたびに差がついていく。
2周2Mを廻り3周目に突入するころ、スタンドでは軽くざわついていた。
「1着競りでこんなに長く競り合ってるの初めて見た」
「やっぱりヒビノすげーな」
「あのツチヤ君の外を廻りつづけて並走できるなんてわたしには無理だわ」
周囲の42期生が話しているのをワタナベも聞いていた。
「しかし、このままではヒビノは苦しいですね。状況が変わらないでしょうから」
「苦しいどころか次のターンマークで決まるかもしれない」
イノキが3周目1Mに向かうヒビノ2号車を見ながら言った。
「後ろのアマノとの差ですか?」
「そうだ。3番手の3号車との差が開いているから、次のターンマークではツチヤがヒビノのブレーキングドリフトをブロックに行くだろう」
イノキも以前のマコトがツチヤに負けたレースを見ていたのだ。そしてイノキがツチヤの立場でも同じことをするだろうと考えていた。
ツチヤ1号車がこれまで同様にマコト2号車をじりじりと差をつけながら3周目1Mへ向かう。
「ヒビノ、ここまでか?」
ツチヤがマコト2号車にちらりと目線をやる。
「では、次のターンマークで終わりだ」
イノキの言う通り次のターンマークでマコトのブレーキングドリフトをブロックし、この競り合いに決着をつけようと考えていた。
3周目1Mのブレーキングに入る。マコトがツチヤより奥でブレーキングを始めるのを横目で見て、ツチヤがブレーキ量を調整しマコトの減速速度に合わせる。
「そう来ることは分かってたよ!」
マコトはそう言うとツチヤ同様にブレーキを緩め制動距離を調整する。これによりツチヤのブロックをずらしたのだ。
「くっ! これ以上はターンインを遅らせられない」
ツチヤは後ろのヨーコ3号車をバックミラーで一瞬確認し、ステアリングを切り込みサイドブレーキを引いた。
ブレーキを調整することでターンインを遅らせてマコトのブレーキングドリフトをブロックするので、ターンインを遅らせすぎると後ろのヨーコに追い付く隙を与えてしまうのだ。
これによりツチヤのブロックをかわしマコトはブレーキングドリフトで3周1Mを廻り、そのままバックストレートを立ち上がる。
そしてまたもやバックストレートでツチヤ1号車とマコト2号車が並走状態となる。
これを見たワタナベは思わず声を上げた。
「巧い! ブレーキを調整してツチヤのブロックをかわした!」
「うむ。あれなら後ろの3号車がいるのであれ以上ブロックはできない」
イノキもうなずきそのまま続ける。
「しかし、決着こそつかなかったものの状況は変わらない。あとターンマークひとつしかないぞ」
イノキの言う通り状況が変わらないまま、3周目2Mの最後のターンマークがツチヤ1号車とマコト2号車に迫っていた。
並走状態からマコト2号車よりツチヤ1号車が徐々に前に出る。
「ブレーキングドリフトのブロックがかわされたところで状況は同じ。このまま俺が先にゴールする!」
最後のターンマークに向けていつもは感情の起伏が乏しいツチヤが声を上げる。3番手のヨーコとの差は先ほどのブロック分のロスを差し引いても十分距離がある。
ツチヤは次もブレーキングドリフトをブロックしながら廻るつもりだ。通常のサイドターンでも直線で伸びて前に出れるとは考えていたが、ゴールのスリットはホームストレート半ばであり差がそこまでつかないかもしれないことを懸念したのだ。
差が出るのは直線の伸びででるからだ。マコトのブレーキングドリフトはターン速度が速い分ターン後の立ち上がりが速い。
そして最後のターンマークに向けて2台はブレーキングを始める。
次回で卒業レースに決着がつき第二章が終わる予定です。
第三章ではルーキーシリーズ編(仮)を予定しています。
より激しいレース、そして多くの新登場キャラクターを予定していますのでご期待下さい。




