第四十九話 卒業レース②
誤字、脱字等修正しました。
「卒業レースにしては全体的に早いスタートでしたね」
「そうだな。通常のマジカルレースでも優勝戦ではスタートが慎重になるものだが」
ワタナベとイノキが言うように、優勝戦では通常スタートは慎重になる。なぜなら優勝戦は賞金額が高く、もし6位になったとしても普通にレースを走るより賞金が高いのだ。
さらに順位得点も高く、自分の級にも影響してくる。プロになっても模擬レースのように得点率で成績は表わされ、その得点率によって級が決められるのだ。
もし優勝戦でフライングを切れば賞金も得点も得られず、さらにはそのマジカルレース場にも呼んでもらえなくなったりする。
各レースへはマジカルレース協会から選手へ斡旋している。そのマジカルレース協会へマジカルレース場から選手の希望が出せるのだ。
マジカルレース場もスター選手を呼んでお客さんに来てほしいと考えているからだ。しかし、その逆もある。
優勝戦でフライングするということは一番の売り上げがあるときに、金額を返還しなくてはならないということだ。
フライングした選手に賭けたお客さんに掛け金は返却されるようになっている。要はマジカルレース場にとっては損失となるのだ。
そんな損失を出すような選手はマジカルレース場にとっては来てほしくないと考えるというわけだ。
しかし、卒業レースではお客さんもいないし賞金がかかっているわけでもないが、それでも1年間の積み上げたものを一瞬で不意にできないと、例年ではスタートが慎重になるものなのだ。
スリットでトップスタートを切ったマコトだったが、スリット後両隣のツチヤとヨーコに並ばれじりじりと前に出られていた。 魔力の差が出ているのだ。
「やはりヒビノの魔力はツチヤとアマノに劣りますね」
「そのようだ。このまま1Mではどうするかな」
ワタナベとイノキがそのように話していたが、マコトはこの状況は想像通りだと考えていた。
直線で差が出るからこそスタートをはりこんだのだ。早いスタートを行くことをはりこむとかメイチで行くとか言う。
ダイスケとナカタにとっては当てが外れた展開と言っていいだろう。マコト2号車がヨーコ3号車よりスタートで遅れ、ヨーコ3号車が捲りに行ったところを差しや捲り差しでトップを狙おうとしていたのだから。
だがスリット隊形は外凹みで、セオリー通りなら1コースの逃げに2コースが差し、3コースが外を廻って追従する形となっている。
しかしマコトはセオリーとは違うターンをする。マコト2号車はツチヤ1号車の外をターンしたのだ。
「ヒビノのツケマイだ!」
「あのドリフトは速いからな。スピードを生かしてのツケマイだ」
ワタナベが軽く驚きながら言ったのに対し、イノキは予想していたように言った。
しかしマコトの2号車のツケマイの相手、ツチヤは慌てるそぶりもなく冷静だった。
「ヒビノならそう来ると思っていたよ」
そういいながらマコト2号車の動きをしっかり見ながらサイドターンでブロックするように大きく廻った。
だが、その分1M立ち上がりで内側が大きくあいている。すかさずヨーコ3号車がそこを差す。
「内側行くよ!」
ヨーコもマコト2号車の動きをよく見ておりすぐに反応している。動体視力と反射神経が物を言った。
これが並の選手ならマコトのツケマイの動きに反応できず、3コースのセオリー通り外を廻ろうとしただろう。
そうなればマコト2号車に押し出されるようにさらに外を廻らされてしまうことになる。
さらにすぐ後にダイスケ4号車がヨーコ3号車の内を2番差し、ナカタ5号車はツチヤ1号車とヨーコ3号車の間を狙う。
6号車は展開をつく隙間がなく4号車のさらに内側を最後に差す形になっている。
マコト2号車とツチヤ1号車は重なり合うように1Mをターンしそのまま加速して行く。マコトのブレーキングドリフトにツチヤはサイドターンでしっかりついて行っている。
これが他の42期生ならマコトが前に出ていただろう。さらに内側に1車身半差でヨーコ3号車が続き、さらにその2車身差でダイスケ4号車とナカタ5号車が並走で続く。最後尾は6号車だ。
これは号車やコースこそ違うが以前のレースとほぼ同じ状況だった。以前のレースではツチヤがヨーコが先マイしようとするのを抑えに行き、そこをマコトが差したのだ。
そして以前のレースと同様にヨーコが先マイを狙い先にステアリングをターンマークに向けて切る。
「先マイするよ!」
それを見たツチヤは冷静だった。
「今度は以前のような失敗はしない!」
今回はヨーコ3号車を先に行かせたのだ。その分しっかりマコト2号車をブロックする。しかしブレーキングドリフトをさせないようなブロックではない。
マコトのブレーキングドリフトをブロックするためにはブレーキを調整する必要があり、言い換えるなら制動距離が伸びるのだ。
その分距離が伸びロスが増え、ヨーコ3号車に下手をするとそのまま逆転を許してしまいかねないということなのだ。
以前マコトのブレーキングドリフトをブロックできたのは後続車両と距離がとれていたために可能だったのだ。
ツチヤ1号車はヨーコ3号車を先に行かせたあと、しっかりターンマーク際を差す。マコトは1M同様ツチヤにしっかりつけて廻り、ツチヤと同じ様にヨーコの内側を差したのだ。
「さすがに以前のレースと同じようにはいかないか。だが、まだまだこれからー!」
そのまま2Mを立ち上がり3台は加速して行く。今度は内にツチヤ、中にマコトが並走し外にヨーコが2車身差で追いかける形になる。
ヨーコは無理に先マイしたせいでターンが膨らんでしまったのだ。しかし、2台分の残留魔力を吸い込みながらターンをするよりましだった。
ツチヤとマコトの勝負は2周目1Mへともつれていくのであった。




