第五話 いろいろな受験者
マコトの独り言に変更しました。
マコトの独り言に追記しました。
誤字脱字を修正しました。
試験に向けて気持ちを切り替えようとしているといきなりぱしんっ!と頭をはたかれた。
「マコトー、緊張してんの?」
振り返るまでもなくヨーコだ。
「いっつも人の頭はたくのやめろよなー。」
俺は頭をさすりながら文句を言う。
「いいじゃん、別に。減るもんでもないし。」
「減るよ!俺の脳細胞が!」
「そっか、ごめーん。」
全く反省するそぶりもなく謝罪の言葉を口にしてきた。まあいつもの事なんだけど。しかし、いつものことではない声が後ろからした。
「けっ!試験に女連れてきてんのかよ。」
えらく不機嫌な様子のいやーな感じのやつだった。
「あ、ごめん。試験前にうるさくして。」
俺は言い返すのではなく大人な対応をした。伊達に40年分の記憶を有していない。
「まったくだ!」
と、いやーな感じのやつはそっぽを向いた。俺とヨーコは思わず顔を見合わせて肩をすくめた。
大人の対応をしたものの俺は結構短気だったりする。前の世界でも結構すぐに頭に血が上る性格だったが大人になるにつれての処世術というか、ひと呼吸おいて対応できるようになった。
なのでいきなりこのようなことを言われると一瞬「あ”!?」って思う。「あ」ではなく「あ」に点々がつく「あ”」だ。
おっと、これじゃあさっきのヤンキーの娘と同じだな。気を付けなくては。まあ、さっきの娘は「あ」に「”」はついていなかったけれども。
このようにすぐに気づいて反省し反映できるのが大人の証拠だ。いや、俺は16歳の少年で大人ではないのだけど。
やっぱり16歳にしてはおっさん臭いかもしれない。まあ、頭の中くらいはしょうがないだろう。俺たちは席に着いた後に試験官が入室し筆記試験の説明を始めた。
学力試験が終わり次は体力試験だ。学力試験は我ながらよくできたと思う。前にも言ったけど体力試験のほうが心配だ。
実際に体力試験が始まってみると思ったよりも体が動いた。周りの受験者と同じくらいはできたんじゃないだろうか。
後ろから「おお!」という声がしたので振り返ってみるとヨーコが一つの試験項目を終えたところだった。バスケットボールをドリブルしてシュートしゴールを決めたところでタイムを計るやつだ。
体力試験にはこんなものもある。良い記録がでたらしい。ヨーコは容姿がよく見栄えがいいから目立つのだ。
ほんと見栄えだけはいいんだけどなー、と思いながら次の娘がスタートするのをなんとなく見てたんだけど。
いきなりこけた。おいおい、大丈夫か?
周りからも「うわ、だっせー。あいつ落ちたな。」なんて声が聞こえる。
誰でも失敗はあるだろうに自分は失敗したことないとでも思っているのだろうかとこのような声を聞くとよく思う。
というか声の主はあのいやーな感じのやつだった。あー、やっぱりこういうこと言うやつだなんだなーと納得してしまった。
そのこけた娘もすぐに立ち上がりしっかりドリブルしてシュートを決めた。俺は思わず拍手した。周りに白い目で見られたけど。その娘も恥ずかしそうに次の試験項目へ移動していった。
何事も失敗してもいいのだ。ただそれをリカバリーしようとすることが大事なのだ。俺は前の世界の経験でそれを深く学んでいる。そういう俺も結構うっかりやでミスの多い人間だったのだ。
どれだけ失敗しようとも最初は怒られるだろうがしっかりリカバリーしようと頑張っていれば最後は皆笑って許してくれるものだ。
そうしてるとヨーコがこっちに来て話かけてきた。
「あんたも相変わらずだねー。」
「何が?」
「なんでもー。」
言いたいだけ言ってすたすた去って行った。何が言いたいのやら。
体力試験も終わり今日の試験はこれにて終了だ。ヨーコと共に家路につく。帰りの魔電車でヨーコに聞いた。
「試験どうだった?」
「んー、まあ大丈夫なんじゃない?」
おー、余裕だな。さすがヨーコといったところか。
「マコトは?」
「学力試験は大丈夫だと思うけど体力試験がなー。」
「あー、分かるー。」
「分かっちゃうの?そんなにひどかったの俺?」
思わず動揺してしまった。
「いやいや、大丈夫だって。」
と、ヨーコは笑って言ったが余計に心配になった。実技試験を受ける前に絶対に落ちたくない!なまじ実技に自信があるだけに切実に思った。
後日、一次試験合格の通知が来た。ヨーコともどもだ。胸をなでおろしたのは言うまでもない。
そして二次試験の日がやってきた。相変わらず緊張しながらヨーコと会場入りすると後ろから声がした。
「あ?お前らも一次合格したのか?」
あ、一次試験のいやーな感じのやつだ。
「あ、いやーな感じのやつ。」
ヨーコも同じ感想だったらしい。というか声に出しちゃだめだろう。
「誰がいやーな感じのやつだ!けっ!」
と、そっぽを向いてそのまま先に行ってしまった。たぶん俺が言っていたら胸倉つかまれているやつだ。うーん、性格と実力はやはり関係ないのだろうか。
憎まれっ子世にはばかるというやつだろう。まあ二次試験も合格してたら実力だけは認めてやろうか。
なんてまだ合格もしていない俺がかなりな上から目線で考えていたのはヨーコにも分かるまい。
周りを見てみるといやーな感じのやつ以外にも一次試験でみた顔がちらほらいる。あ、ヤンキーの娘もこけた娘もいる。
受かってよかったねーと生暖かい目で見る。おっとヤンキーの娘がこっち向いた。目を合わさないようにしないと。またすごまれてしまう。
そしてとうとう二次試験が始まった。面接と実技試験だ。実技試験は実際の魔動車を使った試験になる。ここで受験者は班ごとに分けられ試験用のレーシングスーツ、グローブ、シューズに着替えヘルメットも貸与されている。
試験用魔導車の前に各班が集合していたとき隣の班からやたら威勢の良い声が聞こえた。
「あたいの魔動車はこれかー!」
あのヤンキーの娘だ。いや君のではなく試験車両だからね。というかマジカルゴって呼ぶんだ。ナウなヤングはイケイケなんだね。
この勢いからするとそのうちヨーヨーをもちながら「おまえらゆるさんぜよ!」とか言うんじゃなかろうか。ヨーヨーの蓋がパカッと空いて桜の代紋がでてくるやつ。言わないしでてこない?ですよねー。
そんなに大きい声出してると試験官に注意されちゃうよー、気を付けないと。と思った矢先に試験官に「私語は慎みなさい!」と注意されていた。
あー、大丈夫かなー。試験落ちないか心配だなー、と気分はまるで「はじめてのおつかい」を見る気分だ。相変わらず生暖かい目でみていると一次試験でこけてた娘を見つけた。
あのこけてた娘もヤンキーの娘と同じ班のようだ。と、いつまでもこけてた娘は失礼だな。かわいらしくみつあみにしているからみつあみの娘だな。
隣の班は全員揃ったらしく試験官の説明が始まったようだ。みつあみの娘はしっかり試験官の説明を聞いてメモをとっている。やはりイメージ通り真面目だな。
しかしメモは大事だ。人が耳で聞いて覚えておける量なんてたかがしている。メモは人間が持つ外付けハードディスクなのだ。
前の世界だとスマホにメモしてそうだけど。俺も会社でノート10冊以上はメモとったなーと懐かしくなった。
そうしているとうちの班も全員集合したのを確認した試験官が説明を始めた。
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マコトの独り言
〇前の世界での失敗について
前の世界で働いていた会社で50万円もする部品を落として壊したことがある。もちろんいろんなところに行って頭を下げて謝罪をしつつ、業務に支障が出ないように人と物とお金を調整してもらいなんとか収めることができた。
しかし、会社が会社なら弁償させられているところだ。良い会社だったなー。リカバリーすることの大切さを骨身にしみて学んだと思う。
〇マジカルレーサー試験合格者について
一次試験では1500名を超える受験生が各地で試験を受けており、そのうち200名が1次試験を通過する。2次試験会場は2か所あり100名ずつに分けられている。
一次試験通過200名の内、30名前後が合格しマジカルレーサー養成学校に入学できる。普通の学校の受験ではありえないであろう倍率50倍は伊達ではない。
30名前後というのはその年の受験者の能力によるからだ。能力が足りないと判断されれば定員は30名を割るし、十分能力があると判断されれば30名を超えるらしい。
50名ずつに分けて面接と実技試験が交互に行われる。50名が10班に分かれてそれぞれマジカルレース車両の前で説明を受ける。
ちなみにヨーコとは同じ班だった。苗字順ではなく地域別に分けられたのかもしれない。