第四十六話 エンジンブロー
マジカルレーサー養成学校も卒業まであと数か月というところまで来ており、模擬レースの成績もだいたい固まっている状況だ。
模擬レースの成績はマジカルレーサー養成学校内のことでしかないが、この模擬レースでの成績がそのままプロでの活躍を左右するというのがジンクスとなっていた。
例えば、プロデビューしてから6年以内の選手が出場できるルーキーシリーズというレースが年間を通してあるのだが、年に一度このルーキーシリーズのチャンピオンを決めるヤングダービーというG1レースがある。
俺たちがプロデビューしたら一番に目指すべきG1タイトルだ。そのヤングダービーを獲った歴代の選手たちの多くは模擬レースの年間チャンプが名を連ねているのだ。
さらに、そのG1ヤングダービーの優勝者はそのまま数年後にはSGを優勝するものが多い。つまりは、この模擬レースを優勝すれば歴代の先輩のようにルーキーシリーズ、ひいてはSGを優勝するためのレールに乗れるのかもしれないのだ。
もちろん実力があるからこそG1もSGも優勝できるのだが、逆に実力があるのに結果が残せないなんて選手もいるのだ。
SGを優勝するということは、マジカルレーサーでNO.1になるということだ。もちろんその中でも賞金王がさらに特別ではあるのだが、それでも1600名いるマジカルレーサーの誰もが目指す頂点がSG優勝なのだ。
もちろん、模擬レースを優勝したといって必ずSGが優勝できるわけでもない。しかし、ジンクスというものは必ずある。勝負事には切っても切れないものなのだ。縁起を担ぐのと同じようなものなのだと思う。
さらに悪い意味でのジンクスもある。模擬レースで活躍できなかったものはそのままプロになっても活躍できないというものだ。
もちろん全員が全員そうではないが、養成学校時代に才能を開花できなかったものはプロデビューしてもそのまま埋もれていくものが圧倒的に多いという話だ。
俺たちのグループはブレーキングドリフトのおかげで良い成績を残せているが、光があれば影があるわけでもちろん成績下位のものが42期生の中にもいる。当たり前ではあるのだけれども。
そんな者たちはプロデビュー後を悲観し、どうにかせねばと焦るものが大半だった。その中にあのミヤモトとつるんでいたやつらもいたのだ。
模擬レース用の魔導車の準備をしていると、あのミヤモトとつるんでいたやつがふと目についた。えーと、名前何だっけ?
「あれ? コマダ君だね。何してるんだろうね?」
そうそう、コマダだ。隣にいたヨーコがそう言ったので思い出した。最近ヨーコは何かと俺の近くにいる。もちろん自分のことはきちんとやってのことだ。
だから文句はないんだけど、何だろうね? それはおいといてヨーコの疑問に俺も疑問で返す。
「もう一人は確か、オオヤマだったか?」
「そうみたいだね。」
このオオヤマもミヤモトの元取り巻きだ。ヨーコが肯定した。このミヤモトの元取り巻き達がコマダの魔導車の前で何かしているのだ。
自分の魔導車は自分で整備するのが当たり前どころかルールになっている。他人の魔導車の整備に手を出してはいけないのだ。
これは選手個々人の技量にて整備をしなくてはならないということと、イカサマや妨害工作を防止する意味合いもある。他人が勝手にいじれるなら細工し放題だからね。
もちろん、他人の魔導車に手を出してはいけないことはマジカルレースにおいて常識中の常識なのでいうまでもないことではあるのだが、彼らが成績下位なのが気になったのだ。
「まさかね」
おれは思わず口に出して呟いた。
「何がまさかなの?」
ヨーコが聞いてくる。
「いや、憶測でものを言うのはよくないしたぶん気のせいだと思う。」
「そうだね」
そのときはそう思ってたんだけど。あとできちんと問いただしとけばよかったと思ったんだ。
そのあと、コマダは模擬レースに出場した。俺とヨーコは何となく気になってレースを見てた。コマダは6号艇6コースでダッシュスタートのようだ。
各車スタートしてスリットで最高速に達したであろうその時だ。コマダの乗る6号車からボン! という破裂音と共にボンネットが跳ね上がったのだ。
そのままコマダの6号車は失速し、停止した。よく見るとエンジンオイルがぶちまけられており、ボンネットが跳ね上がってむき出しになったエンジンルームから煙が出ている。
「あれはやばい!」
俺は思わず叫んだ。エンジンブローしたのだ。そしてピットは騒然となった。
「何だ!? いきなり6号車のボンネットが吹っ飛んだぞ!?」
「煙が出てる! 燃えてんじゃないか!?」
レスキューカーが急いでかけつけ、教官たちが消火器をもって走り出した。6号車からコマダが引きずり出される。
そのまま消火活動が始まり、こちらから見た感じでは火はエンジンルーム内だけで済んだようだ。コマダも怪我はないようだった。
ほっと胸をなでおろす。車両火災で人が取り残されようものならしゃれにならないからね。
魔導車はガソリンを使用しておらず引火するものはないように思える。しかし、魔導エンジンの潤滑にはもちろんエンジンオイルを使用しているのだ。
そして魔力を圧縮して熱エネルギーへと変換しているので、排出される残留魔力は何百度という高温の空気と共に排出されている。
その高温の空気はマフラーから排出される間にある程度温度が下がるのだが、エンジンから生えているのエキゾーストマニホールドでは高温のままなのだ。
そこに破損したエンジンからエンジンオイルがかかることで引火したのだ。ボンネットを跳ね上げたのは破損して飛び散ったエンジン部品だろう。
もちろんレースは赤旗が振られそのまま中止になった。車両が止まっただけなら黄旗で追い抜き禁止のままレース続行だったが、6号車のオイルがぶちまかれてしまったためそのままの走行が危険だったためだ。
オイルがついてしまったタイヤはほんと何にもできないよ?ステアリング切っても曲がらないしリヤが乗ればスパン! って廻るから。
騒然となったその日の課業での模擬レースはその時点で中止となった。俺とヨーコは顔を見合わせてもしかして、と思ったわけだ。
教官たちがコマダを問いただして分かったことだが、コマダはオオヤマの魔力を借りてレースにでたらしい。
コマダの車両にオオヤマが魔給したのだ。それだけで何故エンジンブローするかというと、マジカルレース車両は選手それぞれの魔力にあわせてセッティングされているんだ。
魔導エンジンの出力を最大限まであげるため、魔気による魔力の吸い込み量とエンジン内でのピストンの圧縮量を選手個人個人の魔力の質によって調整しているのだ。
その魔力を他人のものにしてしまうと、ぎりぎりまで出力を出すために調整されたエンジンが、最悪の場合魔力暴走を起こしてエンジンブローしてしまうわけだ。
これももちろん課業で習ってはいたんだけど、コマダは模擬レースの成績が悪く精神的に追い詰められていたようだ。
そこで成績を上げたいがために自分より魔力の質が良いオオヤマに魔給をしてもらっていたというわけだ。
あわや大参事となりかけたコマダの事故は、コマダとオオヤマの規定違反と判明し両名は退学となった。
あのとき何をしてるのか問い詰めて辞めさせておけば、鉄拳制裁ぐらいで済んだかもしれないのにと思った。
しかしどんな苦しい状況でも冷静さを欠いてはいけないという、教訓にしなければとも思ったのだった。




