第四十伍話 勝負の後
すいません、切りのいいところで終われなかったため今回は短めです。
レースが終わりピットに戻り魔導車から降りる。ヘルメットを脱ぐと同じく魔導車からおいてヘルメットを脱いでいるヨーコと目が合った。
「マコト、やったね!」
光がこぼれるような笑顔でヨーコは親指を突き出してくる。
「おう!」
俺も同じように親指を突き出した。二人してツチヤに勝ったのだ。
結局、1対1で外側にいる場合ツチヤレベルの相手ではブレーキングドリフトでも抑えられてしまうが、他の車が絡めば展開がつけるということだ。
さらに内側有利なマジカルレースにおいてブレーキングドリフトはとても有効だったというわけだ。実はこれは前にツチヤに1対1で負けたときから分かっていたことだった。
しかしそれを負けたときに言ったところで所詮負け犬の遠吠え、結果で示さなければならなかったというわけだ。その機会がこのレースまでなかったというだけで。
さらに言うなら、ヨーコレベルの相手が他にいないと可能ではなかったとも言える。ヨーコさまさまだな。
俺は後ろを振り向くと1号車から降りて整備士さんと話をするツチヤを見た。その表情はいつものすん! とした表情で悔しさとか感情を読み取ることはできない。
俺もこれでツチヤに勝ったとは思っていない。次は1対1でも、外側からでも勝ってみせるとそう決意していた。
俺とヨーコはレース後の車両のチェックを始めようとしていると、いつものグループメンバーのみんなが声をかけに来てくれた。
「マコトやったな!」
「さすがヒビノ!」
「おう、ありがとう」
ダイスケとヤマダが俺たちの勝利を喜んでくれるのでそれに応える。
「ヨーコもすごかったぜ!」
「あのあの、ツチヤ君に競り勝つなんてすごいです!」
ナカタさんとタカハシさんもヨーコの勝利を喜んでいるようだ。
「えへへー。マコトと初めての共同作業だったの」
と、ヨーコがちょっと頬を赤らめながらそんなことを言った。ちょっと、結婚式でのケーキ入刀みたいに言うのやめてくれる?
タカハシさんがキャーとか、ナカタさんがおー、とか言っている。いや、違いますからね? 入刀ではなく共闘ですからね?
そんな上手くもないことを思いながら顔には出さず聞き流したのだった。
周囲ではツチヤが競り負けたとあってざわざわしていた。
「あのツチヤが競り負けたぞ!?」
「相手はあのヒビノとアマノだ!」
「やはりヒビノグループのドリフトは凄いのか!」
「あのドリフト速いもんな!」
「俺もあのドリフト練習しよう!」
「俺も!」「俺もだ!」
以前負けたときは俺のドリフトはたいしたことないみたいなこと言ってたのに、とは思っていなかった。結果が全てなので結果で証明できて良かったと思って聞いていたんだけどね。
しかし、ヒビノグループってどこかの企業グループみたいに聞こえるな。俺たちのグループがブレーキングドリフトを使いだして目立っているからそう呼ばれるようになったのだろうけれども。
次こそは1対1でツチヤを競り落とし本当の意味でのリベンジを果たそうと思う。
ツチヤとの勝負からひと月ほどが過ぎた。あれからブレーキングドリフトについて聞きに来るものもいたが、基本的に聞かれたことには答えている。
しかしヨーコやダイスケたちみたいに講義をしたり、同乗して手取り足取り教えるようなことはしていない。
そもそも同乗するには教官の許可がいるので、そこまでしてお願いしに来るものはいなかったのだ。俺としても頼まれてもいないのにそこまでおせっかいを焼く気はない。
グループメンバーのみんなは同じグループとして持ちつ持たれつの仲だったからね。それに教官の許可もとって本気で教えて欲しいとでも言われればきちんと教えるとは思うのだけれども。
同じ同期の仲間でありライバルとなる俺たちはそのうちプロデビューするのだ。プロ意識を持てばそれくらいできるだろうに、とかひとりぶつぶつ言ってるとヨーコが肩をぺーん! と叩いて話しかけてきた。
「マーコト! なーにぶつぶつ言ってるの? 」
「いや、ちょっとね」
最近ヨーコの機嫌がとてもいい。いや、いつも他の人にはとても人あたりがよく笑顔を絶やすことがないのだが、俺に対しては遠慮がないというか手厳しい時もあるのだ。
結構ジト目で睨まれることがあるしね。だが、最近はそんなこともなく俺に対してもいつもにこにこしている。何かいいことでもあったのかね?
「ふーん。今日の模擬レースも頑張ろうね! 」
「おう」
特に用事はなかったようで、それだけ言うとヨーコは歌を口ずさみながらご機嫌で自分の魔導車に向かって行った。今日は模擬レースの日だ。




