第三十八話 マコトのドリフト講義①
「さて、それでは講義を始めます。」
いつものグループのメンバーが集合する前で話を始めた。ここは食堂で今は自由時間だ。風呂の後なので女性陣からいい匂いがする。
「マコト、目がやらしい」
「な!? そんな目はしていない! 」
ヨーコにいきなり言われて動揺する。そもそも匂いかいだだけだし。自分で言ってて変態みたいだ。なんか凹む。
「だいたい、あたいは講義とか苦手なんだけどー」
ナカタさんが口を開くなりいきなりそんなことを言いだした。そー言わずがんばろーよー。
「ナカタ、まずは知識を頭に入れておくことが重要だ。いきなりじゃ何が何だか分からないままできないってことになるぞ」
「あー、わーったよ。頑張って聞くよ」
ナイス、ダイスケ。ナカタさんはやっぱり頑張らないと聞いてられないか。常に頑張ってきたんだなーと生暖かい目で見る。
「ヒビノ、今何考えてる? 」
「いや、なにも」
指をぽきぽき鳴らしながらの質問はお控えください。
「マコトー、始めるなら早く始めよーよー」
「お前がもともといらないこといいだすからだろーが」
「何よー、あたしのせいだって言うのー?」
俺とヨーコがまたもや言い合いを始めそうなのをタカハシさんとヤマダがとめる。
「まーまー、ヨーコちゃん。ヒビノ君がせっかく教えてくれるんだから」
「ヒビノもそれくらいで。僕、ヒビノのブレーキングドリフトの講義、とても楽しみだったんだ」
「はーい。しょうがないなー」
「あー、すまん。分かった」
ヨーコが仕方なくと言った感じで返事をした。俺も気を取り直して話を仕切りなおす。
「じゃあ、ブレーキングドリフトってなんですか? はい、ヨーコ君」
「へっ? あたし? 」
いきなり指名されてヨーコがキョトン顔だ。そんな可愛い顔してもゆるしてあげないんだからね。何故かツンデレになってしまった。それでもヨーコが答える。
「えーと、ブレーキ踏んでドリフトするやつ。」
「そのままだな」
「そのままだね」
「そのまんまだよヨーコちゃん」
ダイスケとヤマダとタカハシさんが異口同音に突っ込む。ナカタさんだけはうんうんとうなずいてる。
「えー、間違ってないでしょー? 」
ヨーコが不満顔だ。
「まー、確かに間違いではないけどね。ただ正確に言うならブレーキによってリヤの荷重を抜くことでテールスライドを誘発するドリフトのことだ。要はブレーキをきっかけにしてドリフトすることだね」
なるほどと、四人が頷く。ナカタさんが首をかしげている。ナカタさんに向けて言葉を変えて説明する。
「ブレーキ踏むと前につんのめるでしょ? それを使ってドリフトするってこと」
「あー、なるほど」
ナカタさんが手のひらをポンと叩いた。ジェスチャーが昭和だ。忘れていたがナウなヤングがイケイケな世界だった。
「じゃあ、サイドターンは? はい、タカハシさん」
「はい。サイドブレーキによってリヤタイヤをロックさせてテールスライドを誘発させるドリフトです」
「はい、正解。よくできました」
タカハシさんが照れ臭そうに笑った。
「あー、なんだか先生がタカハシさんだけひいきにしてるー」
ヨーコが茶化してきた。というか一応先生扱いしてくれるんだ。
「ヨーコ君はもっと勉強するように」
「なによー、マコトのくせにナマイキー」
一瞬で先生から降格したようだ。
「で、その違いがなんだ? 」
ダイスケが話を促す。
「ああ、ごほん。まずはドリフトというものを知ってもらおうと思って。実はドリフトには7種類あるんだ。というかドリフトをするためのきっかけ作りが7つあるんだ。」
「そうなのか!? 」
「そうなんだ!? 」
「そうなんですか!?」
「へーそうなんだー」
「ふーん」
5人がそれぞれの反応を見せる。 ヨーコはもっとリアクションしてよ。ナカタさんはもっと興味もって!
「そのドリフトをするための7つのきっかけ作りが、ブレーキ、サイドブレーキ、シフトロック、フェイント、クラッチ蹴り、パワースライド、慣性の7つだね」
「先生! 質問です」
「はい、ヤマダ君」
ヤマダも先生と呼んでくれるようだ。ノリが良くて助かる。
「慣性ってどういうことですか? 他の六つもだいたいは分かるんだけれども」
「あのあの、私もだいたいは分かるんですけど全部聞いてみてもいいですか? 」
「あたしも全部聞きたーい」
「俺も頼む」
ナカタさん以外は話についてきている。ナカタさんははてなマークがいっぱい浮かんでいるのが見える。
今までよく座学の課業とかついてこれたね。これはタカハシさんが頑張ったんだなー。俺もよくタカハシさんに教えてもらってるからね。タカハシさんを見ると目が合った。ははは、と苦笑いしてた。
「じゃあ、最初から簡単に説明して行こう。ブレーキとサイドブレーキは最初に話した通りだ。シフトロックだけど、これは回転数を合わせずにシフトチェンジすることで急にエンジンブレーキをかけることで、テールスライドを誘発させるんだ。まさにシフトロックだね」
「なるほど」
ダイスケが頷く。
「でも、ドライのときにやるとミッションのギヤが痛むから普通はやらないけどね。もしやることがあるならウェットコンディションのときかな。まあ、やるシチュエーションがあればだけど。」
「確かに」
ダイスケが続けて頷く。
「で、フェイントだけど曲がる方向とは逆に一度車を振り、外側のタイヤに荷重をかけることでテールスライドを誘発させる方法なんだ。大抵合わせてブレーキで前荷重もかけることが多いね。」
「あのあの、はい先生」
タカハシさんがまっすぐ挙手をする。さすが優等生。タカハシさんも先生扱いしてくれてちょっと嬉しい。
「はい、タカハシさん。あ、起立はしなくていいですよ」
さすがタカハシさん、真面目だ。
「ブレーキだったりシフトロックもそうですけど、基本的にリヤ荷重を抜くことでテールスライドを誘発するんじゃないんですか? それを外側に荷重をかけるというのがよく分からないです」
「いい質問だね。そう、基本的にリヤ荷重を抜くことでテールスライドを誘発させているんだけど、荷重を抜くのとは逆により荷重をかけてタイヤの限界を超えさせてやることでもテールスライドを誘発できるんだ」
「そうなんですね!」
「そうなのか! 」
「そうなんだ!」
「へー」
「?」
またもや5人5種類の返事返ってくる。一人興味が薄くて一人置いてけぼりになってるけど。タカハシさんが、あとでユーコちゃんには説明しておきます、とこそっと言ってくれた。お手数ですがよろしくお願いします。
「そうだな、タイヤに横の力をかけるというか。タイヤを横に押す感じだね。だからブレーキで前荷重にしたところでリヤの荷重を抜き、さらに横から押してやるからテールスライドしやすくなるんだ。」
「なるほど。」
ダイスケがうんうんとうなずいている。これくらいヨーコもナカタさんも熱心だとやりやすんだけどね。
「他のきっかけの説明でもすると思うけど、結構組み合わせて使ったりするから覚えておいて。」
「はーい。」
ヨーコが気のない返事をする。ヨーコは頭がいいから理解はしてるんだろうけど、こういうのは頭より体で理解するほうだからな。たぶん見せたほうが早い。
誰もいない明かりもない真っ暗なマジカルコースが見える夜の食堂で、マコトの講義はまだ続く。




