第三十伍話 マコトvsツチヤ①
誤字脱字を修正しました。
模擬レースの組み合わせを見てツチヤリョウは笑みをこぼした。マコトと同じレースだったからだ。
過去にすでに3度ほどマコトと同じレースを走っているが、2度は模擬レースが始まったころの話で皆が慣れておらずまだレースの形にすらなっていないときだった。
まともにレースができるようになってからも1度だけ同じレースを走ったが、ツチヤが1号車でマコトが6号車だった。
そのレースはツチヤがトップスタートから逃げての圧勝で、6コースのマコトとまったく絡むことなく終わった。
今度のレースは1号車がマコトで4号車がツチヤだった。ツチヤは42期生の中で一番スタートが早く、ツチヤもスタートに自信があった。
レースではツチヤが仕掛け、マコトが受け止める形が予想された。
ツチヤは先日のマコトとミヤモトのレースを見て戦慄が走った。以前からその凄まじいドリフトは見ていたが、レース中でもあれだけのコントロールができるとは! と。
ツチヤは体の奥から震えがくるのを感じた。これが武者震いかと思った。マジカルレーサー養成学校に入るまで感じたことない感情が、マコトの走りを見るたびに湧き上がってくるのだ。
早くレースを走りたい気持ちを抑えながら次の模擬レースを待っているのだが、周囲から見るといつものスンっ!とした態度にしか見えないのだった。
俺は次の模擬レースの組み合わせを見て眉根を寄せていた。1号車になるのは逃げるだけで勝てる、と言い切れるものではないがそれでも勝ちやすいから良いとして、4号車にツチヤとはなー。
ツチヤは俺ほどのマシンコントロールの技術はないんだけど、マジカルレースを俺より知り尽くしてる感じなんだ。
全てのシーンにおいて迷いがないというか、ベストの解を知っていてそれを確実に実行できる実力があるんだ。
他の同期生を見てると、そこは差しでしょうってところで外廻っちゃったり、差しに廻ると内側から来た車にあたっちゃうよ、ほらねって感じで選択肢を間違っていたりする。
それこそどうするか迷ってしまって、中途半端なターンで抜けるところでも抜けなかったりするのが普通なくらいだ。
しかしツチヤの走りは明らかに研修生レベルのそれではなく、完全にプロのマジカルレーサーのものだ。はっきりいって派手さは全くないがレースにおいて一番速いタイプだったりする。
俺の走りは派手だが無駄が多いんじゃないかな。まあ、レースで直ドリしてるようじゃね。前のレースはそれでも緊急回避的に使ったんだけどね。
模擬レース当日、珍しくツチヤが話しかけてきた。今まで話したことあっても一言二言必要事項を話すだけだったから。
「ヒビノ、今日は負けないぞ」
しかも、珍しく闘志むき出しだ。
「おう。望むところだ。」
ツチヤが言いたいことだけ言って去っていくとダイスケが話かけてきた。
「ツチヤが話しかけてくるのは珍しいが、やはり相手がマコトだからだろうな。」
「だろうね。」
さすがに俺もツチヤが俺をいい意味でライバル視しているのは分かっているつもりだ。ミヤモトは敵意丸出しだったがツチヤはそうではない。
俺自身もツチヤを最大のライバルだと思っていた。ツチヤ相手に俺のターンが、技術が通用すればプロでも通用すると思っているくらいだ。
今日のレースは俺にとっても重要な意味を持つ。
実技の課業が始まり、模擬レース用の魔導車にマコトは乗り込んだ。マコトが白いゼッケンの1号車、ツチヤが青いゼッケンの4号車だ。
マコトのグループメンバーがマコトたちをあるものは心配そうに、あるものは興味深そうに見つめる。
「マコト、大丈夫かな? 」
ヨーコが心配そうにダイスケに聞いた。
「何が大丈夫なんだ? 」
「だって、前みたいなことがあったから...」
「ミヤモトのときのことか? だったら大丈夫だろう。 ツチヤに限ってあんなことはないと思う」
「あのあの、私もそう思います。ツチヤ君のレースを見てると、とてもクリーンなレースをしてますから」
ダイスケの返事にタカハシも同意する。
「僕もそう思うよ。何せあのキングの息子だからね。ツチヤ君の走りはまるでキングの走りを見てるみたいだもの」
「あたいもそう思うぜ。あいつは無口で愛想がないが、レースでは真摯でまっすぐなやつだぜ」
ヤマダとナカタも続けてそう言った。魔導車オタクのヤマダはもちろんキングのレースも見たことがある。
「そう、だよね。大丈夫だよね」
皆の言葉に少し安心したようにヨーコは答える。
「二人のレースにはとても興味がある。」
ダイスケの言葉に、私も、僕も、あたいもと三人ともうなづく。同期の誰もがマコトとツチヤのレースに注目しているのだ。
「私も興味あるな。」
「「「ワタナベ教官! 」」」
皆がワタナベ教官の声で直立不動の姿勢になる。それをワタナベ教官が片手で制した。それを見て皆姿勢を崩す。
「ヒビノには試験の時から驚かされ続けている。そのヒビノがキングの息子であるツチヤと走るんだ。教官たちの間でも話題になるほどだよ。」
「それほどマコトとツチヤ君はすごいんですか? 」
ヨーコがワタナベ教官に聞いてみた。
「そうだな。私が教官になって数年ほどしか経っていないが、今までの研修生では見たこともないほどのレベルだ。二人はすでにプロレベルに達していると言っていい。」
「やはり、それほどでしたか。」
ダイスケが頷く。
「皆もよく見ておくといい。きっと二人のレースは皆にとってもプラスになる。」
「「「はい! 」」」
皆が一斉に返事をした。
教官や同期生たちが注目するなか、ゲートに並んだ各車が発進灯の点灯と共に飛び出すように発進し加速して行く。第二ターンマークを廻って枠なり進入でコースインしていく。
ブレーキを踏むことが禁止されているので各車コースイン後は、クラッチを切るかニュートラルの状態でゆっくりと前進している。
大時計の秒針が進みダッシュスタート組が加速を始め、続けてスロースタート組が加速を始めた。
「やはりツチヤのスタートが早い! 」
「でもマコトもなんとかついていってるよ! 」
ダイスケとヨーコが口々にスタートを見て言った。スリット隊形は1,2,3号車と少しずつ遅れて段々になっており4号車が頭一つ抜け出し、5,6号車が続く形だ。
「ツチヤ君がスリットから前に出て行ってる!? 」
「伸びがいいんだ。魔給で見たがツチヤ自身の魔力の質がいい。」
ヤマダの疑問にワタナベ教官が答える。4号車が内側を覗くような形で6台が1Mへ向かって行きそのままターンに入る。
「ツチヤのヤローが捲りに行くぞ! 」
「でもヒビノ君が先にターンできそうです!」
ナカタの言葉にタカハシが続けて言う。
「やはりヒビノはサイドブレーキ使っていないな。ブレーキを詰めることでそのままドリフトしてるから、半車身分ブレーキで前に出るんだ。」
ワタナベ教官は冷静に分析している。
「マコトが先に廻った! 」
「でも見ろ! ツチヤが捲りに行ったかと思ったらマコトの内側を差しに行ったぞ!?」
「捲り差しだ! すごいなツチヤは捲り差しもできるのか。」
ヨーコとダイスケの言葉にワタナベ教官が答えつつ驚く。
1M展開で1,2着の決着のつくことも多々あるマジカルレースでは、決まり手というものがある。1Mでどのように1番手になったのかということだ。
その決まり手には主に四つある。逃げ、差し、捲りと捲り差しである。
捲り差しとはコース外側の車が真ん中の車を捲りつつ、内側の車の内に差すことである。
今回のように4号車が2,3号車を捲りつつ、1号車を差すというものになる。捲り切れないタイミングの時に行われる高度なテクニックである。
何故なら動く魔導車と魔導車の間を突き抜けなければならず、それをドリフトしながらしようというのだ。並大抵のコントロールではできないテクニックなのだ。
1Mを立ち上がり内側にツチヤの4号車、外側に1号車のマコトが並んでバックストレートを加速して行く。




