第三十三話 マコトvsミヤモト③
一週目2Mへ内側がミヤモトの1号車、外側にマコトの4号車が並走状態でもつれるように突っ込んでいく。ミヤモトが吠えるように口を開く。
「マジカルレースは内側が勝つって決まってんだよ!」
そのまま内側有利に2Mを先に廻ろうとする。この先に廻ることを先マイという。ミヤモトの先マイに対してマコトは1Mと同様にブレーキングドリフトからのツケマイでミヤモトの外をつけて廻る。
「はい、もういっちょー!」
マコトもテンションが高い。そしてマコトの4号車はそのままミヤモトの傍をミヤモトの1号車より速い速度でターンし、2Mの立ち上がりでミヤモトより前に出た。
「何だとー! 何故俺より前に出る!?」
ミヤモトからはマコトの4号車のリヤタイヤがロックしておらずサイドターンをしていないのが見えていない。
「よし!」
マコトも手ごたえ十分と言った面持ちだ。マコトの4号車にミヤモトの1号車のノーズがかかるかかからないかの状態で2周目に入る。
2周目ホームストレートをマコトの4号車が外側ほぼ1車身前、ミヤモトの1号車が内側ほぼ1車身後ろの状態で加速し続ける。
マジカルレースでは排出される残留魔力を吸うと加速が鈍るためスリップストリームは使えない。追走する場合はこのように段々の状態で走る。
ミヤモトが叫んだ。
「お前たちは、お前だけへは俺の前にいてはいけないんだ! 俺が、俺こそがその前にいるべきなんだ!!」
お前たちはと言ったのはツチヤも入っていたのだろう。それよりも強い憎しみをこめてのマコトに対しての言葉だった。
マコトが2周1M前でブレーキングに入る。それを見ながらミヤモトが1週目よりもブレーキポイントを遅らせる。
「食らえ! 」
ゴっ! という鈍い音とともにミヤモトの1号車がマコトの4号車のリヤバンパー角部を押すようにぶつけたのだ。
「なっ!?」
マコトは一瞬のことに思わず声が出てしまったが、それとは裏腹に体はすぐに反応していた。
ブレーキングで前荷重になってリヤタイヤへの荷重が抜けているところへ斜め後ろから押されたのだ。すぐさまマコトの4号車はテールスライドを始める。
マコトは声を発しながらも手はカウンターステアを、足はブレーキの調整を行っていた。そのまま直ドリ状態に入る。しかし押されたことで内側を向きすぎてしまい角度が深く、このままでは1Mのターンマークにぶつかってしまう。
「まだまだー!」
マコトはそれをみてブレーキを離しサイドブレーキを引いた。リヤタイヤがロックしそのまま横滑りを維持しながら1M廻り切った。
これは何をしたのかというと、フットブレーキからサイドブレーキへ変えたことで制動力をリヤタイヤだけにし、リヤタイヤをロックさせることでドリフト状態を維持して減速する距離を伸ばしたのだ。
直ドリをする距離を飛距離といったりするが、飛距離が足りずこのままではドリフトがコーナーまで届かない、といったときに使うテクニックだ。
マコトの4号車は何事もなかったようにそのまま2周目1Mを立ち上がっていく。ミヤモトの1号車も1M前でマコトにぶつけながらもしっかりとサイドターンを行い内側からマコトに追従していた。
マコトの直ドリは速度こそ速かったもののターンマークをクリアできるようにラインを変えていたため外に膨らんでしまっていたのだ。
ミヤモトが絶叫した。
「何故スピンしない!? 何だ!? 何だそれは!? 何なんだお前は!?」
ミヤモトは怒りと混乱でもはや我を失っていた。
マコトは1Mを立ち上がりバックストレートを立ち上がりながらひとりごちていた。
「うっわー、あせったー。ぶつけられたわー。ヤなケンまじヤな感じ」
そういいながらも心臓がばくばくしていた。心を落ち着かせながらバックストレートを加速して行く。
2周目ホームストレートと同じ様に外側がマコトの4号車、1車身弱遅れてミヤモトの1号車が追従する。
ミヤモトが叫ぶ。
「お前もう消えろよ!俺の前からいなくなれ!!」
叫びながらマコトに向けてステアリングを切る。2周目1M前ではブレーキング時にミヤモトもブレーキングしながらぶつけたので押すような感じですんでいたのだが今回のはもはや単なる体当たりだ。
マコトがすかさず反応する。
「やっぱりそうくるよね!」
マコトはすぐさまミヤモトと同じ様にステアリングを切った。ミヤモトがさらに何かしてくるかもとずっとサイドミラーをちらちら見ながら身構えていたのだ。
さらにそのまま逆にステアリングを切る。フェイント動作で外側のタイヤに荷重がかかったところでクラッチを蹴る。
リヤタイヤがけたたましいスキール音をたてドリフトを始める。フェイントからの直ドリに入った。リヤを振ることでミヤモトの体当たりをかわして見せたのだ。
「何だとー!!!」
ミヤモトはマコトがフェイントからの直ドリでリヤを振ってかわしたせいでそのままタイヤバリヤにつっこみそうになるところで避けようとステアリングを逆に切る。
するともちろん振り子のようにリヤが振られ滑り始める。時速120Km/hでリヤが滑り始めたのだ。ミヤモトにそれをコントロールするだけの技量はない。
ミヤモトの1号車はそのままスピンモードに入りくるくると廻りながらタイヤバリヤに突っ込んでいった。ドーン! という音とともにタイヤバリヤを吹っ飛ばす。
マコトはそのまま今度はタイヤバリヤに小さく振り返し、2Mへ向けてさらに振り返しでドリフト状態を続けたままターンして行った。距離があったので内→外→内の振り返しを行ったのだ。
すぐさまイエローフラッグが振られる。追い越し禁止で各車速度を落としてレースは散らばったタイヤをよけながら続行される。
マコトはホームストレートを加速しながら横目でタイヤバリヤに突っ込んだミヤモトの1号車を見た。
「まさかとは思ったけどここまでやるとはね。」
今度は心構えをしておいたのでそれほど心臓はばくばくいっていなかった。それでも動揺はしていたが。
「後続車両は、大丈夫だったみたいだね。」
さらに後ろを走る車を確認してふー、と一つため息をつく。後味が悪い思いだった。やり返してやったという思いはなく、人から悪意を向けられ降りかかる火の粉を振り払っただけのつもりでも罪悪感が残る。
「まあ、生きてる限りいろんなことがあるよね。」
マコトは前世の記憶を合わせて56年分の人生経験があり、あきらめるようにつぶやく。自分でどうにかできることは限られている。
今回は自分で自分の身を守っただけだ。そうマコトは自分に言い聞かせるようにつぶやいていた。
そのまま3周目を廻りゴールしてピットに戻ると騒然としていた。自分のせいで何度も見て来た光景ではあるが今回は毛色が違った。
車から降りてヘルメットを脱ぐ俺にグループのみんなが駆け寄ってくる。
「マコト! 大丈夫だった?」
「マコト、お前ミヤモトに体当たりされてただろう?」
ヨーコとダイスケが心配そうに声をかけて来た。ナカタさんとタカハシさんとヤマダも後ろで心配そうにしている。
「ああ。俺はもちろん大丈夫だったけど...」
俺は後ろを振り返りレスキューカーにてレッカーされて戻ってきたミヤモトの1号車に目を向ける。
フロントから逝ったらしく、バンパーが半分吹っ飛びひしゃげたラジエターがむき出しになっている。血を流すように赤色のラジエター液が滴っていた。見るも無残な姿に変貌していたのだ。
プロテクトフィルムはボディ側面のドアやフェンダーのみにつけられているし衝突には役に立たない。そのプロテクトフィルムも砕けたようだ。
力なくうなだれながら降りてきたミヤモトにすぐさまワタナベ教官が詰め寄る。
「貴様何をした!?」
ワタナベ教官がいきなりミヤモトを殴り飛ばした。ヘルメットをかぶったままのミヤモトをだ。
倒れ込んだミヤモトのレーシングスーツの胸元を掴み上げ怒声を上げる。
「選手生命を絶つ気か!?誰がそんなレースをしろと言った!!」
選手生命が経たれると心配したのはマコトのほうかそれともミヤモトのことだったか。事故で選手生命を絶たれたワタナベ教官の重い言葉が響き渡る。
「貴様は後で教官室へ来い!その前にまずは後始末をしろ!貴様がしでかしたことだ!!」
ミヤモトは返事もなくヘルメットを脱ぎながらゆらりと動き出し整備士の人たちと作業を始めた。まさに声も出ない状況の様だ。
「皆も作業に戻れ!解散!!」
ワタナベ教官が怒り冷めやらずといった感じで怒気をはらんだまま周囲に告げ、蜘蛛の子を散らすように42期生たちは各自作業に戻っていった。
俺は何とも言えない気持ちで見ていた。ダイスケがぽんっ! と肩を叩きマコトを励ます。ヨーコが心配そうに肩に手を置きまたあとで、と言いながら作業に戻って行った。
その後ミヤモトは退学になった。危険行為に及んでしまったせいでもあるが、あのような行為に及ぶまでの本人の性格がマジカルレーサーとして適していないと判断されたとのことだった。
どのようなスポーツでもそうだが選手は熱い闘志の中にもいつも冷静でクレバーでなければ強い選手にはなれないのだ。
マコトたちはすっきりしない気持ちを抱えながらそれでもマジカルレーサーのデビューを目指して今日も練習を続ける。
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マコトの独り言
今回は逃げの1M展開のイメージを書いてみたよ。
1号車の内を2号車が差し、3号車が外へ、4号車が2号車の内へ差し、5号車は4号車を超えて、6号車は最内を差すというのが基本的なパターンとなっている。
さらに今回の俺の捲りのパターンも書いてみたよ。
4号車だった俺は2,3号車を捲ってそのまま1号車の外側へツケ廻ったんだよね。1号車のミヤモトがブロックラインを取っているので逃げのラインと違うのが分かると思う。
2,3号車は俺の残留魔力を吸ってるのでそのままパワーダウンして1M立ち上がりで下がって行ったんだ。




