第三十一話 マコトvsミヤモト①
誤字、脱字を修正しました。
1コースに入ったミヤモトがマコトを睨むシーンにてサイドミラー越しに睨むよう表現を変更しました。
模擬レースが始まり一月が過ぎた。皆少しずつ慣れてきており、きちんとレースの形になることが多くなってきた。ちゃんとスタート後の第一ターンマークをわちゃわちゃせずに廻れるようになったってことだね。もちろん俺も。
1号車から6号車の番号のことを枠番というのだけれども、枠番通りのコースとなることを枠なりと言うんだ。本当ならルール内で好きにコースを入っていいんだけど、主に外側から内側のコースに入るにはそれなりのリスクを背負うことになるので今は枠なりでコースに進入する枠なり進入となっている。
そして、第一ターンマーク(以降1M)での6台の攻防のことを1M展開と言うんだ。6台が展開するからだね。お客さんはこの1Mの展開を予想して誰が抜け出すかを考え車券を買うというわけ。
その1M展開なんだけど、基本の形があってスタートがだいたい揃っていれば奇数艇に対して偶数艇が差すといった形になるんだ。スタートで飛び出す艇がいれば捲りの形になるんだけど。
1号車の内側を2号車が差そうとすると隙間がないから3号車は1,2号車の外を行こうとする。4号車はそのあとからできた隙間を差し、5号車はその4号車を超えるように外へ、さらに6号車が5号車から内側のあいたところを差そうとするといった感じだ。
何故偶数艇が差すかというとすぐ隣の車を捲るということが難しいから。捲るということは相手より外側を行かねばならず、外側を廻るということはそれだけ距離が長くなるということだよね。相手だってぎりぎりの速さで一番小さく効率の良いターンをしようとしてるんだ。
その相手よりさらに速く廻ろうとブレーキを遅らせすぎたりアクセルを早めに踏んだりすると大回りになりすぎて立ち上がりで外に外に膨らんでいってしまい、捲ろうとした内側の相手に届かないどころか次のターンマークが遠くなってしまい次のターンでさらに差が開いてしまうんだ。
以前話した差しが主体というのはこのせいなんだね。ノーズが相手の内側に少しでも入れば次のターンマークで内側からねじ込んで強引にでも先に廻れてしまうから。
モータースポーツは内側有利、これこそがマジカルレースでも真実であり王道でもあるんだ。まあ、俺としてはちょっとそこに異を唱えたいところではあるんだけどそれはまたの機会にしよう。
模擬レースは総当たり戦であり、同じグループであるヨーコやダイスケとも同じレースを走るがもちろん他のグループのメンバーとも走る。
今日はあのヤなケンことミヤモトケンと一緒のレースだ。最近よく俺のことを睨んできていて非常にやーな感じなんだよねー。直接恨まれることは特にしてないと思うんだけど、まあ間接的にいっぱいしてるといえばしてるのかもしれない。
気に入らないという気持ちを態度でこれでもかと表してるわけだし。まー、直接何かされるわけではないので気にしないようにはしてるんだけど。
この1か月の成績なんだけど14戦で3勝を上げている。え? 以外に少ないって? それだけ外側のコースに入ったとき勝てないということなんだな。この3勝も内側の1~3コースで勝ったやつだし。
簡単に言うと6コースに入った日にはターンマークと自分の間に5台も車いるんだよ? ターンマークまで遠いわ5台もいて邪魔だわ、さらには5台分の排出残留魔力のせいで第一ターンマーク廻っても加速が鈍くて立ち上がりで全く届かないわでさんざんなわけ。
ちなみに今行われている全国24場での6コース勝率は3%に届かないくらい。6コースから勝つことの難しさが少しくらいは分かってもらえると思う。
外のコースほどマジカルレースでは不利、これもマジカルレースあるあるなんだよね。しかしそうであるからこそ外から勝つ選手に拍手喝采が送られ、ギャンブルであるからそこに穴が生まれるというわけなんだ。
さらにそのためのフライングスタート方式なわけ。スタート勝負でまず勝ち負けがあってスタートで勝てばコースが外でも第一ターンマークで先に廻れる可能性がぐっと上がるから。
まるまる1車身でもスタートで抜け出せたなら邪魔するものがおらずそのまま第一ターンマークまで一人旅ってもんですよ。
と、そんなことをいろいろ考えているとダイスケがやってきた。
「マコト、お前次のレースミヤモトと走るだろう?」
「そうだけどそれがどうした?」
「ちょっと気になってな。最近あいつに睨まれているだろう?」
「そうなんだよ、気にしないようにはしてるんだけどちょーっとやーな感じだよね」
やっぱり第三者が見てても気づくよね。
「しかもよくぶつぶつ言ってるようなんだ。少し聞こえたんだがマコトに対する恨み言のようだった」
「あー、やっぱり? すこーしだけ心当たりなくはないんだよねー」
少しどころではないかもだがさっきも言ったけど直接何かしたわけでもないからね。
「まあ、分からなくはないがそれはひとまず置いておいて次のレースミヤモトに気を付けろ」
「気を付けろ、ということはミヤモトが何かやってくるってこと?」
「断言はできないがその可能性が高いってことだ。ミヤモトのお前へのむき出しの敵意を見てるとな」
「分かった。何かしてくる心構えだけはしておくよ。具体的に何されるかわかんないけど」
「そうだな。気を付けるにこしたことはない」
「おう。ありがとうな」
「いいってことよ」
最後なんだか江戸っ子みたいなやりとりになったが俺のことを気にしてくれるダイスケの気持ちがとても嬉しかった。
今回のレースではマコトが4号車でミヤモトが1号車だった。各車ゲートを発進し第二ターンマークを廻りホームストレートに戻ってきてそれぞれミヤモトが1コースに、マコトが4コースにコースインする。
ミヤモトは第二ターンマークを過ぎたあたり、マコトは第二ターンマークからさらに7,80m後方に陣取る。ミヤモトがスロースタートでマコトがダッシュスタートだ。スタートは助走距離も大事になる。簡単に言うと助走距離が短いとスタートしてスリットで最高速にまで達せず外の艇に捲られてしまうのだ。
我先にと1コースへ入ってしまうとその分前に前に行ってしまい助走距離が短くなってしまうから自由にコースに入ってよいといわれても簡単には内側のコースに入れない理由となっているのだ。
1コースに入りミヤモトはひとり呟く。
「この一か月でレースにはだいぶ慣れた。断然有利の1コースであのヒビノは4コースだ。負けるはずがない。逆に決して負けるわけにはいかない。そんなことがあろうものなら手段は選ばずどんな手を使ってでもヒビノには勝たせてなるものか!」
ミヤモトは目の奥に暗い炎を揺らめかせながらマコトの乗る4号車をサイドミラー越しに睨んだ。
マコトの4号車を含めた4,5,6号車のダッシュスタート組が加速を始めた。前にいる1,2,3号車のスロースタート組も加速を始める。
大時計が0秒に近づき、各車一斉にスリットを駆け抜けた。1号車ミヤモトはスタートを決めて1番手スタートだ。それに対して2,3号車が少しスタートが遅れてしまった。4コースの4号車マコトは2番手スタートを決めている。
マコトが思わず声を出す。
「チャーンス!」
マコトが第一ターンマークで遅れた2,3号車を叩くようにブレーキを詰めてからドリフトに持ち込み1号車のミヤモトに襲いかかる。
サイドブレーキを使わないブレーキングドリフトだ。それが証拠にリヤタイヤがロックしていない。スモークと共にスキール音を派手にまき散らす。
「捲らせてたまるかよ!」
1号車ミヤモトが一声吠え、ブレーキングからサイドブレーキを思いっきり引く。リヤタイヤが悲鳴を上げるようにロックして滑り出し、マコトをブロックしながらターンマークをなめるようにターンする。
そのまま第一ターンマークを立ち上がって加速していった。
ミヤモトが声を上げた。
「何!?」
マコトの4号車がが第一ターンマークを立ち上がってミヤモトの1号車に並んでいたのだ。
「何故だ!?スタートで勝っていたし第一ターンマークでもブロックして廻ったはずだ!」
ミヤモトが悲鳴のような声を上げる。マコトも4号車の中でテンション高く声を張り上げる。
「まだまだ行くよー!」
1号車のミヤモトと4号車のマコトが並走状態のまま第二ターンマークへもつれていくのであった。




