第三十話 模擬レース始まる
マジカルレーサー養成学校に入学し1年が過ぎた。42期生たちは魔導車での運転も慣れ、ターンやスタートも一通りできるようになっている。次にやるのはもちろんレースの練習だ。
これから卒業するまでの1年間を通して模擬レースが行われる。ターンやスタートなどの各練習は続行されるがそれらの練習に模擬レースが加わることになる。
しかも、この模擬レースは年間を通して戦績がつけられる。勝敗数、勝率、平均スタートタイミングなど数字で成績が表わされるのだ。皆、初めてのレースに緊張の面持ちでそれぞれの練習用魔導車の準備にとりかかる。
そんな中マコトの姿を見ている影があった。ミヤモトケンだ。ミヤモトは一次試験からマコトが気に入らなかった。イライラした様子でマコトを睨みつけるように見ていた。
最初試験会場で見たときから気に入らなかった。女連れで試験に受けて来たかと思えばちゃっかり一次試験に受かり二次試験にまで来ていたのだ。
私有地にて魔導車を運転できるほど裕福な家に生まれたミヤモトは小さいころからなんでも思い通りに生きて来た。
マジカルレーサーを目指したのも国一番の盛り上がりを見せるマジカルレースで今まで通り思うままに活躍し富と名声が手に入ると思ったからだ。
魔導車免許が持てない年齢でも私有地にて魔導車の運転が練習できた。二次試験も誰もまともに運転できない中自分だけが魔導車をまともに運転して実技の試験を一番で通過すると信じて疑わなかった。
しかし、あの女連れのヒビノマコトという奴が試験官と同じ実践と同じサイドターンをやってのけミヤモトの幻想は砕け散った。ミヤモトは信じられないものを見る思いだった。
なんだこいつは? 何故免許もとれない年齢でしかも練習してきた俺よりも魔導車をこんなに動かせるんだ? こんな奴がいるなんて聞いてないぞ! と。
それでもマジカルレーサー試験に合格しその自尊心を少しは満たすことができたがマジカルレーサー養成学校に入学すると案の定マコトは合格していた。
忌々しいものを見る思いだったが、さらに忌々しいのがミヤモトと違う試験会場にてヒビノ同様に試験官と同じ走りをしたやつがいたらしいということだった。
そいつの名はツチヤリョウといった。キングと呼ばれるツチヤシゲルの息子とのことだった。気に入らない。ミヤモトは自分より上の位置にいるやつが二人もいるのが許せなかった。
そんな中養成学校での生活が始まりその想像以上に厳しい生活でその気に入らない二人のことを考える余裕もないほどだった。
中でも教練がとても厳しく、足を引っ張るやつらのせいで教官に終わらせてもらえないのがとても苦痛だった。ある日いつもの連れと足を引っ張るやつらの文句を言っていたらヤンキー女、ナカタが絡んできたのだ。
足を引っ張るやつらのせいで教練が長引いてると事実を言ったのにヤンキー女がつかみかかってきそうになった。そのときマコトが割って入ってきたのだ。
組織がどうとかと言っていたがマコトが目の前にあらわれたことでさらに頭に血が上って思わず手が出そうな時だった。
さらに静止する声が横からかかった。もう一人のミヤモトの気に入らない奴、ツチヤだ。教官が来ると言った。さすがに教官に暴力沙汰を見られるのはまずいと思い手を引っ込めた。
教官がすぐに現れ、ヒビノとツチヤが説明してその場は収まったがイライラは収まらなかった。
それでも実技の課業で練習を続けヒビノとツチヤより上に行ってやると思っていたときのことだ。ヒビノのすさまじいドリフトを見たのは。
最初は事故を起こすと思った。しかしヒビノはそのままドリフトして見せた。あの速度で、あの距離を! ミヤモトは俺には無理だと一瞬頭をよぎった。しかしすぐさま頭から振り払った。認められない。認めるわけにはいかない! と。
それでもどんな手をつかってでもあいつらの、ヒビノの上を行ってやる! 宮本はそんな決意の暗い炎を心の中で揺らすのだった。
今日から模擬レースが始まる期待感でそわそわしながら整列している俺たち42期生の前でワタナベ教官が声を張り上げる。今回はデモ走行はないのでイシヤマ教官ではない。
少し安心する。あの人怒鳴ってばっかで怖いんだもん。と、小さな子供みたいなことを思ったのは内緒だ。
「本日より模擬レースを始める。始めは慣れずにまともにレースもできないかもしれないが事故だけは起こすな! やばいと思ったら一歩引くように! 」
「「「はい! 」」」
ワタナベ教官の言葉が響き渡る。というのもマジカルレースはモータースポーツでは珍しく接触が当たり前でそれどころか体当たりのような技まで認められている。
ダンプという技があり、ターン時に先にいる相手にぶつけるように体当たりしてその反動で前に出るという技だ。
それだけ魔導車同士がぶつかるとボディが凸凹になるのでは? と思うことだろう。しかし大丈夫。マジカルレースの車両には魔導士によって魔法を施されたプロテクトフィルムが貼ってあるのだ。
国営だけあって専属契約の魔導士がおり特注で作ってもらっている。このプロテクトフィルムを張っていればある程度の接触ではキズや凹みはつかないのだ。
しかも車両同士が接触するとプロテクトフィルム同士がぶつかり合うので魔力の光る残滓が見えてお客さんに好評だったりする。
しかし衝突時などの一定以上の衝撃には耐えられない。耐えられなかった場合プロテクトフィルムの魔法が砕ける。そのとき接触時の残滓ではなく魔力そのものが光って散るのが見える。ここまでの当たり方をしてしまうと妨害失格を取られてしまうのだ。
基本的に車同士を当てるときも選手たちはボディの腹を、ドア側を当てに行く。フロントから突っ込むとプロテクトフィルムを砕いてしまうからだ。
当てるときは横らからというのがマジカルレーサーでは常識となっている。他に例を見ない激しさを持つレースこそがマジカルレースであり国で一番人気の興行となっている。人々はこのぶつかり合いせめぎ合うマジカルレースに熱狂しているのだ。
42期生同士の模擬レースが始まった。単走でのターンの練習やスタート練習はずっとやってきているがレースはもちろん初めてだ。
なので初めて第一ターンマークへ6台揃って飛び込むことになる。普通のモータースポーツなら2台並走か多くても3台並走ぐらいまでしかない。
それが6台一気に初めて突っ込むとどうなるか。正解はわちゃわちゃする。もー、当たるはスピンするはで6台がまともに第一ターンマークを廻って立ち上がれない状況になってます。
こればっかりは難しいですよ。スタートもあまり揃ってはいないんだけど、それより他の人がどう動くか分からないから下手に車と車の間を抜けようなんてしようものなら相手の車にガっ! って当たるんだよねー。
間近で見るプロテクションフィルムの光がキレイだったなー、って遠い目をしてしまう。そう、俺もすでに一レース走っているのだがまさに説明した通りの有様だった。
いかにコントロールが巧かろうが他の車が絡むとコントロールだけじゃどうにもならんのですよ。内側の車が俺の予想よりターン半径が大きくて当たっちゃった感じだね。
第一ターンマークさえ廻ってしまえば6台がばらけるのでまだ何とかなるのだけれども。あのツチヤでさえ上手くいっていないようだった。
どんなに巧い人だろうと相手の動きが予測できなければどうにもならないいい見本かもしれない。皆、まともに第一ターンマークを廻れないままその日の模擬レースが終わった。
ワタナベ教官が整列する俺たちの前で口を開いた。
「皆、レースの難しさが分かったと思う。しかし第一ターンマークを廻れなければレースは成立しない。相手の動きをよく見てターンするように。」
「「「はい! 」」」
まだ模擬レースは始まったばかり。まだまだこれからでしょう。
このとき俺はまだヤなケンが俺に対して暗い感情を向けているのを知らず、ヤなケンと走る模擬レースであんなことが起こるとは思いもよらなかった。
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マコトの独り言
プロテクトフィルムは衝突には意味をなさない。キズや凹みから守るものであって、衝突や事故から守るものではないのだ。
なので激しいマジカルレースは事故とは無縁ではいられない危険なスポーツと言える。そんな危険なスポーツなら魔導車ごと守るような魔法を魔導士に頼めばいいのでは? と思うかもしれない。
確かにそのような魔法もあるにはあるが、1台当たりの費用がとても高いのだ。何十台もある魔導車にすべてそのような高額の魔法をかけていては興行として成り立たない。
そもそもどうようなスポーツでも事故はあるしケガもする。だからといって皆に魔法をかけて怪我をしないようにすることなどない。マジカルレースも同様なのだ。
ツチヤとマコトのレースはヤなケンとのレースの後になる予定です。
さらにマジカルレースについてのまとめを図入りで説明できればと思っています。




