第二十九話 スタート練習
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スタート練習が始まり、42期生たちはそれぞれ大時計を睨みつけ秒針と悪戦苦闘する日々を送っている。
皆1秒以内というとなんとか入れることができるようになっているが、教官たちのようにコンマ2秒程度にまとめることができない。コンマ1秒台などまれにしか出ないほどだ。
そんな中俺はコンマ3秒以内にはまとめることが出来るようになっていた。人並の運動神経しかない俺だが他人より得意なところが三つほどある。それは動体視力、反射神経、空間認識能力だ。
昔からタイミングゲームやリズムゲームは得意だった。目の前に手を出しその上から鉛筆などを相手に落としてもらって掴めるか、なんて反射神経を試すゲームがあったが俺は得意だったりする。
あとクレーンゲームも得意だ。クレーンを操作しどの位置に降りていくかがイメージできるのだ。これらはレースにとって重要な能力になる。
スタート加速時の大時計の秒針をしっかり見るための動体視力、見たものをすぐに判断して手足を動かす反射神経、周囲との距離感や車両の大きさを掴む空間認識能力というわけだ。
スタート練習はグループごとに行っており、俺のグループはダイスケ、ヤマダ、ヨーコ、ナカタさん、タカハシさんといういつものメンバーだ。
ゲートからの発進をせず、通り過ぎて大時計に合わせてすぐにコースインしてスタートを練習している。時間短縮のためだ。スタートしてスリットを通過しピットに戻ってくる。
そして車から降りるとモニターのスリットを確認するという繰り返しだ。その間に他のグループがスタート練習を次々と行っている。
モニターを見ながらダイスケが話しかけてきた。
「マコトはだいぶスタートが揃ってきてるな」
「おう。昔からこういうタイミングを合わせるやつは得意だ」
TVゲームが得意だったとは口にしない。この世界にはまだ家庭用ゲーム機なんてないのだ。かろうじてアーケードゲーム機があるくらいなのだ。
「でも俺より揃っている奴がいるよ」
「ああ。アマノだな」
そう、ヨーコがこのグループで一番でさらに42期生の中で二番目にスタートが決まっているのだ。すべてのスタートタイミングをコンマ25以内に入れ、平均スタートがコンマ20とそのまま本番レース走れるんじゃない? という結果を残している。
「呼んだ? 」
当のヨーコがやってきた。
「いや、アマノのスタートが決まっているなと話してたところだ」
「そうそう」
俺はダイスケの言葉に相槌を打ちながらヨーコに聞いてみた。
「なんでそんなにスタート決めれるの? 」
「えーとね。教官がスタートしていた位置と大時計の針の位置を見て覚えておいたの」
「え! このピットから見て!? 」
「うん。 そんなに驚くこと? 」
「いやいや、このピットからの位置だと大時計も遠いし、横から見たんじゃ車がどの位置にいるか正確に分かんないでしょう!? 」
「え? そうなの? 」
「そうだよ! なあ、ダイスケ? 」
「ああ。ここから見て分かるのか? 」
ダイスケも同感の様だ。
「うん。何となくこのあたりかなーって」
「なんとなくであんなスタート決めれるの!? 」
「うん、だからそうだって。マコトさっきからうるさい」
「うるさいって、いやそりゃ驚いたからさ。分かった、ありがとう。参考になったよ」
「だったらいいけど。 」
なんでそんなに驚くのか分かんない、と言いながらヨーコは自分の練習用魔導車に向かって歩いて行った。いやいや、そりゃ驚くでしょう。
他人より動体視力や空間認識能力が得意だとかさっき言ったけど俺と比にならない能力の持ち主がここにいました。
「マジですごいな。お前の幼馴染」
「ああ、子供のころから一緒にいるが俺もびっくりだ」
確かに昔からヨーコは物覚えよくなんでもすぐにできるようになってたイメージだったが、マジカルレーサー試験の時から驚かされっぱなしだ。これが天才か。もしかして俺の最大のライバルはヨーコなんじゃなかろうか? そんなことを思ってしまった。
そんなマコトたち、いやマコトを魔導車越しに見ている者がいた。二世レーサーのツチヤリョウだ。ツチヤリョウは以前マコトがやった振り返しの直ドリを見て驚愕していた。
あの速度から魔導車を横に向けれるやつがいるなんて! と。以前からマコトを注目していたが、今や完全にマコトしか見えていないと言っていいほどだった。
全ての練習を完璧にこなし、養成学校で習うことなどないというばかりのツチヤだったが、マコトの走りだけは熱心にいつも見ているのだ。
ちなみにスタート練習で42期生で、一番の平均スタートをたたき出しているのがこのツチヤである。平均スタートコンマ18というA級レーサー並みの数字を叩き出しているのだ。
ツチヤは父親からマジカルレースについて叩き込まれていた。出来て当然と言った態度である。常にそのような態度で近づきにくいオーラを発しているせいで周りからは浮いていたが、本人は全く気にしていないようだった。
そんなマコトとツチヤが直接対決する日が近づいてきていた。今のスタート練習が一通り終わると次は模擬レースが始まるのだ。
今後のマジカルレーサー人生において、二人の長い戦いの幕開けになるとはこのとき誰もが思ってもいなかった。
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マコトの独り言
コンマ1秒の世界と言われてもピンと来る人も少ないだろう。それどころかコンマ1秒スタートで遅れたところでそんな差がでるの? なんて思う人も多いのではないだろうか?
それがそんな差が出るものなのだ。マジカルレース車両は120km/h出る。スタートしてスリットを過ぎるころには最高速に達しているわけだ。
120km/hだとコンマ1秒で3.3mも進むのだ。マジカルレース車両が全長4m強なのでコンマ15秒も違えばまるまる1台分スリットで前にいるということなる。
1台分差のことを1車身差という。他の車より1車身前にいるということは隣に誰もいないということで、内側の車の前を横切るように先にターンマークを廻れてしまうわけだ。これを捲りという。
前の世界の競馬や競輪、ボートレースなどでも外から抜くことを捲りと言うのと一緒だ。逆に内側からターンで抜くことを差しと言う。
邪魔な内側の車に勝つためにはスタートで抜け出すことが必要なのだ。もちろん勝つ方法はそれだけでないがコース外側の車両が勝つための一番シンプルな方法になる。
他の方法はまたの機会に出来ればと思う。




