第二十伍話 ヤマダとタカハシさん③
ヤマダへのカウンター量の説明、タカハシさんへのアクセルを踏む量とタイミングの説明およびヨーコとのやりとりを追記しました。
誤字脱字を修正しました。
実技の課業が始まった。各グループに分かれて車両のチェックを済ませ走行練習に入る。俺の隣にはヤマダが乗っている。そう、教官に同乗走行の許可をもらっておいたのだ。
今まで口だけで説明していたことはあったがそれでは不十分だったため、実際に見てもらいながら説明することにしたのだ。
「ヤマダ、走行中はメーターの回転数とシフト、ペダル操舵だけを見ててくれ。前は見なくていいから」
「分かった」
「じゃあ行くぞ! 」
「うん、お願い! 」
今回は操作方法を見せるためにそう言ったが、ヤマダが実際に自分で運転する場合は手元など見ずに進行方向やブレーキポイントなどを見て運転することになる。そして俺は車を発進させた。
ホームストレートを全開で加速しながら第一ターンマークへ向かい、ブレーキポイントを説明しながらどれくらいのタイミング、回転数でシフトダウンするか説明しながらターンインする。
サイドを引いてからステアリングを切るタイミング、量、そしてテールスライドが起きてからのカウンターステアのタイミングと量、アクセル開度、回転数などなどを説明しながら第一ターンマークを立ち上がる。
まあ、これだけローパワーの車になるとアクセルなんてほぼ踏みっぱだけども、路面コンディションがウェットの場合もあるしすべてがそうとは限らないけど。
ターンマークを立ち上がりながらヤマダにアドバイスする。
「もしカウンター量が分からないならいっそのこと一度手を離すといいよ。ステアリングがまっすぐに向こうとして勝手にカウンター当たるから。慣れてきたらそのカウンター量を覚えて自分の手で切るといいよ」
「なるほど ! 」
ヤマダが勢いよく返事をする。さらにバックストレートを加速しながらヤマダにブレーキのアドバイスをする。
「ブレーキは一度ロックするまで踏んでみて踏力の限界を確認するといいよ。ブレーキポイントは余裕を見てやってくれ。慌ててロックしたままブレーキを踏み続けてしまうと曲がれずにまっすぐ行ってしまうから」
「なるほど! 分かった、やってみる! 」
ヤマダは目を輝かせながら答えた。自分で壁にぶち当たり何をやってもダメな時に新しい方法を考え付きこれならやれるかも! と希望に燃えるときがあると思うが、ヤマダは今まさにそんな心境なのだろう。
ちなみにこのブレーキをロックするまで踏んで確認する方法は俺が試験の時やった方法だ。俺の持論になるが何事も限界なんて超えてみないと分からないものだ。
よく限界を口にするやつもいるが本当に限界を超えたことがあるのかと問いたくなることがある。
そして3周すべてのターンマークにて廻り同じように説明しならがら走行した。ピットに戻る際にヤマダに聞いてみた。
「どうだ? 少しは参考になったか? 」
「うん! とても参考になったよ! ありがとう! 」
やはり口で言うより目で見たほうが参考になったようだ。
ちなみにタカハシさんはヨーコの車両に乗って操作の説明と実際の操作を見ているはずだ。別に俺の車両の助手席でも良かったのだがなんとなくヨーコの目が気になったからでもある。なーんか女性がからむとヨーコの目が厳しいんだよね。
そういえば前の世界で若い時に「俺は基本的に女は助手席に乗せない。俺の助手席に乗せるのは特別な女だけだ」なんて言ってたことがあったな。思い出すだけでもハズカシー!
今はもちろんそんなこと思ってないよ? ただこの先俺がプライベートで魔導車を所有したとして、助手席に乗ってくれる女性ができるかどうかも怪しいものだけれども。
え? ヨーコがいるだろうって? うーん、ヨーコを女性としてカウントして良いのかどうか...。なんて口にしたら絶対平手打ちされそうだから考えることもやめておこう。
ヨーコたちの車両も戻ってきたようだ。降りて来たタカハシさんに聞いてみる。
「どう? 参考になった? 」
「あ、はい! 説明はあれですけど実際に見せていただいてとても参考になりました! 」
「説明はあれって何!? 」
同じく車から降りてヘルメットを脱いだヨーコが驚いたように聞き返す。タカハシさんがしまったって顔をする。しょうがないよ、だってヨーコは説明下手だもの。
こういう天才肌の人って感覚でやってできちゃうもんだから、言葉で説明するの苦手だったりするんだよね。一応フォローしておこう。
「ヨーコは感覚派だからヨーコの説明を聞いても難しんだよ」
「そーなの? 」
「そ、そーなの。ヨーコちゃんの説明を理解できなかった私が悪いんだよ」
「メグミにできるだけ分かりやすく説明したつもりだったんだけど、難しかったようでごめんね? 」
「いやいや、こっちこそごめんね。 説明してくれてありがとう。でも操作みせてもらっただけでもとても参考になったから」
「ならいいんだけど。 メグミがんばってね。一緒に養成学校卒業してプロデビューするんだからね? 」
「うん! もちろんだよヨーコちゃん! 」
横で俺もうんうんとうなずきながら聞いてた。女の子同士の友情もいいもんだよねー。よく女の子の関係はどろどろしてるみたいなことを聞くけど、ヨーコの周りは今までもそんなことはなかったように見える。
なにせヨーコが体育会系だからさばさばしてるからね。そんなことを考えていたらこっちを見ていたヨーコに言われてしまった。
「マコト、なんかおっさん臭いよ? 」
「なんで!? ぴちぴちの16歳に対して失礼な! 」
「そういうこと言ってるからおっさん臭いんだけど」
「ぐっ! 」
ぐうの音が出ないとはこのことか。
「ともかく! タカハシさんがんばって! あとは練習あるのみだよ」
「はい! 頑張ります! 」
強引に話題を変えたがタカハシさんが元気に答える。 うん、がんばって!
「あ、ちなみにサイドターン時のアクセルを踏むタイミングだけど、サイドを引いてリヤがロックしたらアクセル全開で大丈夫だよ。アクセル踏むタイミングが遅いせいでグリップが戻ってぎくしゃくしてるから」
「なるほど! ありがとうございます。早速やってみます! 」
タカハシさんが目を輝かせてお礼を言い、そのまま自分の魔導車のほうへ駆け足で戻って行った。ふと見るとヨーコがふてくされていた。
「どーせあたしは説明が下手ですよーだ」
「人には得手不得手があるから問題ないよ。ヨーコには他にいっぱいいいところがあるじゃん」
「そうかな? 」
「そうだよ」
「そっか。分かった。じゃあ、あたしも自分の作業に戻るね」
「おう」
いやいや、ヨーコの機嫌が直って良かった。幼馴染とはいえ女性の機嫌が悪いと大変だからね。ご機嫌取りとまでは言わないがお互い気持ちよく過ごしたいからね。
それからタカハシさんとヤマダが練習するのを自分も練習しながらだったりピットで作業しながら見ていた。
さすがに見て聞いてすぐにできるはずもなく、最初のうちは上手くはいっていないようだった。それでもヤマダもタカハシさんもヒール&トゥは回転数はあってなくともしっかりアクセルを煽れているし、サイドブレーキもしっかり効かせてリヤタイヤをロックできているようだ。
そのうち少しずつだが慣れてきているようだった。ヒール&トゥでのブレーキングも安定してきており、スピンの回数も減ってきていた。この調子で行けば大丈夫じゃないかな。
そのまま数日の練習でヤマダとタカハシさんは順調にタイムを上げていき、課題である1周タイムをクリアしたのだった。良かった良かった。
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マコトの独り言
〇練習中のエンストについて
サイドターンを失敗した時にクラッチをつなぎっぱなしにしておくとエンストしてしまうので、スピンすると思ったらすぐにクラッチを切るのが鉄則になっている。
エンストすると再始動はできないのでレスキューカーを待たねばならないのだが、その間練習が止まってしまい後で教官に鉄拳制裁されてしまう。
始めのころは何人もエンストして鉄拳をもらうはめになっていた。今ではさすがに皆スピンしてもエンストするものはいない。




