第二十四話 ヤマダとタカハシさん②
誤字脱字を修正しました。
実技課業のある日、時間を見て先にグループメンバーを伴い練習用車両のある整備場まで来ていた。事前に教官に許可をもらい整備士さんにも来てもらっている。
本日ヤマダとタカハシさんの使う練習車両の前まで来た。ダイスケが質問してくる。
「マコトに言われるがまま整備場まで来たけど何やるんだ? 」
「ああ、ヤマダとタカハシさんのドライビングポジションを確認しようと思って」
シート位置、ステアリング高さ、フットペダルの踏む位置は人それぞれで背丈、手足の長さが違うのでその人に合わせた位置に調整する必要があるのだ。もちろん課業で習っている。
「まず、タカハシさん運転席に座ってみて」
「はい、分かりました」
タカハシさんが運転席に座る。タカハシさんは小柄なのでシートにすっぽり埋まる感じだ。もちろんレース車両なのでシートはバケットシートだ。
バケットシートとはレース用のリクライニング機能などを省きホールド性能を追求し軽量化が図られたシートの事だ。市販品ではリクライニング機能もついたセミバケットシートもある。
「ちょっと試しにヒール&トゥでブレーキとアクセルを踏んでみて」
「魔導エンジンかけずにですか? 」
「うん」
「分かりました」
タカハシさんがその小さな足でブレーキを踏みながらアクセルを踏み踏みする。あれ、なんか可愛い。小動物みたい。ふと見るとヨーコがジト目でこっち見てた。出た、エスパーヨーコ。
「やっぱりね」
「何がやっぱりなの? 」
ヨーコがすかさず聞いてくる。いや、何か勘繰るように聞いてくるのはやめてくれる?
真面目に話してるからね?
「タカハシさんは足の大きさに対してブレーキペダルとアクセルペダルの間隔が大きいんだよ。タカハシさん、かかとでアクセル踏むの難しくない? 」
「そう! そうなんです。 たまにアクセル踏み外しちゃいます」
「へー、そうなんだー」
タカハシさんにヨーコが相槌を打つ。ヨーコは背丈があってそれなりに足のサイズもあるからこんな問題はなかっただろうからね。モデル体型だから。
「ということでペダルを調整しよう」
俺は整備士さんに頼んでおいたペダルの上に後付けするワンサイズ大きいペダルをアクセルペダルにつけてもらう。加締めた後にしっかりビス固定する。タカハシさんに再度運転席に座ってもらいブレーキとアクセルを踏んでもらった。
「これならきちんと踏めそうです! 」
「よし、同じようにヤマダの車両も見てみよう」
ヤマダも男にしては小柄なほうでタカハシさんほどではないものの、ブレーキとアクセルを踏みにくそうだったので同様に後付けペダルを整備士さんにつけてもらう。
他の皆もヤマダの車両を見ている間どうしようかと迷ったが、疑問に思ってたことを思い切ってタカハシさんに聞いてみた。
「もしよかったらだけど、タカハシさんがなんでマジカルレーサーになりたいと思ったか聞いていい? 」
「あの、何でですか? 」
「いや、タカハシさん頭いいし他にやれることなれるものたくさんあると思って。あ、ごめん、タカハシさんに才能がないとかそういうつもりはないんだ。ただあまりにもタカハシさんの学力が優秀だったからそう思っただけなんだけど...」
自分で聞いておきながらやっぱり失礼なこと言ったかもと語尾が尻すぼみになる。
「あ、大丈夫ですよ。ヒビノ君がそんな風に思ってないことは分かってるので。マジカルレーサーになりたいと思った動機ですよね...」
「うん」
やっぱり聞くべきじゃなかったかとちょっと焦ったがタカハシさんは話してくれた。
「私、こんなじゃないですか」
「うん?」
「あ、こんなというのはドジッていうか何やってもだめだめで。そんな自分が嫌だったから勉強だけは頑張ってきたんですけど。それでもこのままじゃ駄目だと思って。自分を変えたいと思ってたんです」
「そう、なんだ」
「そんなときたまたまTVでマジカルレースを見たんです。女性の選手が勝利しててインタビューを見たんです。とても格好良かった。私もこうなりたい! って思ったからマジカルレーサーになろうと思いました」
タカハシさんの気持ちはよく分かる。俺もミスが多くこのままじゃ駄目だと思っていた。しかし人間思うだけじゃ駄目なのだ。自分を変えるためには行動しなくてはだめなのだ。
行動してもだめかもしれない。何も変わらないかもしれない。そう思うと最初の一歩すら躊躇するだろう。しかしその最初の一歩が大事なのだ。人間というものは一歩踏み出せばもう一歩足が出る生き物なのだから。
俺もミスが多いのをなんとかするためいろいろやったものだ。今でも完全に治ったわけではないのだけれども。タカハシさんは16歳の若さで自分を変えるための一歩を踏み出したのだ。俺なんて社会人になってからだったのに。
「タカハシさんはすごいね」
「え、いや? ぜんぜんすごくないですよ。それどころかだめだめです」
「いやいや、十分すごいよ」
「いやいやいや」
「いやいやいやいや」
と、サラリーマンのお会計でどっちが持つかみたいなやり取りをしてると横からヨーコがジト目で口をはさんできた。
「何やってるの? 」
「えっ! いや、ちょっとタカハシさんとお話を...?」
「何で疑問形? 」
「あ、そうなの! ちょっとビビノ君に相談事をしてただけなの。だからやましいことは何もないよ? ヨーコちゃん」
「ふーん。まあいいけど」
なんで浮気現場を目撃された旦那みたいな会話しなくちゃならないんだ? 俺は無実だ。というか誰が旦那だ。久しぶりにセルフツッコミ機能が作動したようだ。
ヤマダの車両に後付けペダルがついたようでヤマダが嬉しそうに言ってきた。
「よりヒール&トゥしやすくなったよ! ありがとう! あれっ?どうしたの? 」
「いや、なんでもない。さて、次はサイドブレーキだな」
ごまかすように俺は言った。何度も言うが俺は無実だ。
「サイドブレーキってなんか調整するとこあんの? 気合で引けばいいんじゃねーの? 」
ナカタさんが聞いてくる。お、ナイスタイミングな質問。いや、ごまかす必要もなにもないんだけどね。
「ああ。引きシロの調整があってね。タカハシさんちょっとサイドブレーキを引いてもらえる? 」
「あ、はい」
運転席に座ったままだったタカハシさんに声をかける。ガっ! と音をさせながらタカハシさんがサイドブレーキを引く。
「あー、やっぱり」
「何がやっぱりなんだ? 」
今度はダイスケが聞いてくる。
「サイドブレーキの引きシロがありすぎてサイドターンをするときに力が足りてないんだ」
サイドブレーキはフットブレーキと違い油圧を使っておらずワイヤーで引っ張るだけなのだ。だからリヤタイヤをロックさせたければそれこそ思いっきりサイドブレーキを引く必要がある。
そのサイドブレーキを引く力が女性でしかも小柄なタカハシさんでは弱いのだ。ナカタさんはタカハシさんより背丈あるし気合でどうにかしてたんだろうけど。
で、サイドブレーキを思いっきり引きたいのだけどサイドブレーキの引きシロが多すぎるとサイドブレーキが上がりすぎてしまい力がかけづらいのだ。
調整していないひどい車だと90度真上までサイドブレーキを引かなければならないこともある。運転席に座った状態でサイドブレーキを90度も引っ張るのは力が入りづらい上にリヤがロックするにしてもタイムラグができてしまう。
ガっ! と引いたらすぐにロックするぐらいではないと思い通りにコントロールできない。
「というわけでサイドブレーキも調整してもらおう」
整備士さんにお願いしてサイドブレーキワイヤーの調整をしてもらう。ヤマダの車両も同様だ。
「サイドブレーキの調整は自分で出来るからこれからは走る前の点検時に自分でやるようにしてね。 」
「うん、分かったよ」
「はい、分かりました」
ヤマダとタカハシさんがしっかりと返事する。今日の実技で早速試してみたいとうきうきしてるようだ。そう、何かいじると走って試してみたくなるよね。
チューニングの醍醐味だ。まあ、これはチューニングというほどではないかもだけど。
「ペダルやサイドブレーキってどの車も同じだと思ってたけど大事なんだな」
「ほんとだねー」
「あたいも勉強になったぜ」
ダイスケとヨーコとナカタさんがそれぞれ感想を口にする。うんうん。しっかり気にしてくれたまえ。いつものように上から目線で一人でうなづいておいた。
これで走る前の準備は整った。さー、あとは実際の運転だね。




