第二十三話 ヤマダとタカハシさん①
最後にナカタユーコの独り言があります。
よろしければご覧ください。
養成学校も8か月が過ぎ42期生の皆もその生活にずいぶんと慣れた。しかしその厳しさは健在で結局この8か月で4名がこの養成学校を去っている。
教官の厳しさもさることながら、座学の難しさや実技の難しさもある。小テストやテストで一定の点数を取れなかった者、実技でドライビングのスキルが向上しなかった、する見込みがないと判断された者も退学を余儀なくされている。
そんな中、ヤマダとタカハシさんも綱渡り状態となっていた。二人とも座学のテストは全く問題なく点数がとれている。それどころか42期生中トップ1,2ですらある。
問題はドライビングのほうだ。二人とも実技の課業ででワーストクラスの成績となっていた。次回の実技の課業にて結果を残せなければ退学もありうると言われていた。
現在の実技課業では周回タイムを計るようになっている。一定のタイムが設定されており、そのタイムをクリアすることが課題となっている。2人はまだそのタイムに届いていないのだ。
俺?もちろん余裕でクリアしてますよ? そんなぎりぎりのタイム設定じゃないからね。しっかり減速してサイドターンでターンマークをなめるように廻れれば多少ブレーキが甘くても大丈夫なタイムだと思う。
俺たちは緊急会議を開くことにした。メンバーは俺、ダイスケ、ヨーコ、ナカタさんに当事者のヤマダとタカハシさんだ。実技の課業で一緒のグループメンバーとなっている。就寝前の自由時間に食堂に集合した。
「みんな、僕たちのためにごめんね。」
「あのあの、本当にすいません。」
ヤマダとタカハシさんの2人が申し訳なさそうに話し始める。
「いいんだよ。同じグループメンバーじゃないか。それにいつもテストのときにお世話になってるしね。」
「そうだぜ。」
俺の返事にナカタさんが頷いた。。二人のおかげで俺たちはテストで赤点を取らずに済んでいる。ヨーコやダイスケはそうでもないが特に俺とナカタさんがだ。
「そうだよ。マコトが異常なだけで二人もちょっと頑張ればみんなと同じくらいにすぐなれるよ。」
「誰が異常だ、誰が。」
「そうだぞ、マコトが変態的に異常なだけだ。自信を持て! 」
「変態的に異常とまで言われた!?」
ヨーコとダイスケが冗談で二人を励まそうとして言った。冗談で言ったんだよね? 本気で異常とか変態とか思ってないよね?
「二人は考え過ぎなんだよ。こー、ばーっといってがーっとやれば大丈夫だって! 」
ナカタさんが擬音だけで表現する。
ばーっといってがーっとやって出来るのはナカタさんだけですよ?
「ばーっといってがっーっとやって出来るのはユーコだけだよ? 」
「そーか?」
おっと、ヨーコも同じことを思ったらしい。俺なら絶対口には出さないが。ナカタさんも納得してないながらもそのまま引き下がったようだ。ちなみにヨーコ達女性陣も名前で呼び合う仲になている。
ちなみに半年も経っているのでナカタさんの髪は十分に伸び、周りと同じ様なショートカットとなっている。なんでももう一度坊主にしようとしていたところをヨーコとタカハシさんが全力で止めたそうだ。グッジョブ。そっちのほうがもちろん似合ってますから。
「さて、具体的に問題点を確認していこう。」
俺は気を取り直して話を仕切りなおした。やみくもにやるとかとりあえずやるとかではなく、しっかり問題点を把握したうえで的確に対処法を考えて対応するほうが効果があるのは言うまでもないことだと思う。
「二人の苦手なところを教えてくれ。」
「僕はやっぱりヒール&トゥとサイドターンかな。」
「あの、私もです。」
まあ、そうだろうなーっとは思ってた。
見てればさすがにね。
「じゃあ、ヒール&トゥだけの話を聞くけど具体的に何が難しい? 」
「ブレーキを踏みながらアクセルを煽るときどのタイミングでどれくらいの回転数にすればいいのか分からないんだ。」
「私はそもそも狙った回転数にアクセルを煽れなくて。」
「なるほど。」
よく分かる。
俺も初心者のころそうだった。
「でもそれって慣れるしかないんじゃないか?」
「そうだぜ。練習あるのみじゃねーの?」
と言ったのはダイスケとナカタさんだ。
確かにこの二人とヨーコはかなり上達していると思う。
「でも、メグミとヤマダ君が今から猛特訓したとして次回の実技課業の課題まで間に合う? さっきはちょっと頑張ればなんて言っちゃったけど、もう練習するための日数もあまりないよ? 」
ヨーコが疑問を口にする。
「確かに。」
「だよなー。」
ダイスケとナカタさんがそう答え沈黙が下りる。いや、ダイスケもさっき大丈夫だから自信持てって言ってたよね? まあいいんだけどね。
「それについては俺に考えがある。ちょっとひとまず保留にしておいてくれ。」
ダイスケとナカタさんがホー、とかヘー、とか言っている。ヤマダとタカハシさんは期待の眼差しだ。ヨーコはさも当然だと言わんばかりに腕を組んでうんうん言っている。
「で、サイドターンは? 」
「僕はすぐにスピンしちゃって。カウンターステアの量が今いちわからないんだ。」
「私はそもそもリヤがロックしないことがあって。それにアクセル踏むタイミングもよく分からなくてスピンしなくてもギクシャクするんです。」
くー、分かる! ドリフトする人は皆通ってきてる道だよそれ! 話を聞いてるだけでテンションが上がりそうになるがぐっと抑える。
「あー、分かる。俺もそうだった。」
「あたいも似たようなもんだったけど気合でどうにかしたぜ? 」
ダイスケのあとにナカタさんが続く。
いや、気合でなんとかするのはナカタさんぐらいだから。
「ヨーコちゃんはどうやってできるようになったの? 」
「あたいも気になってた。ヨーコは結構早くに出来るようになってたよな? 」
タカハシさんとナカタさんの疑問の矛先がヨーコに向く。
「あたし? あたしは教官とかマコトの走ってるとこ見てなんとなく? もちろんマコトに話を聞いたりもしたけど。」
「ああ、ヨーコに聞いても無駄だよ。ヨーコは規格外だから。」
「あたしって規格外なの!?」
さっき異常な変態と言われたので言い返してやった。あれ、変態的に異常だったけ? 自分でよりひどく言ってしまった。なんか凹む。
「とにかく、それもちょっと考えがあるから次回の練習まで時間をくれ。」
「ヒビノがそういうなら。」
「ヒビノ君がそういってくれるなら。」
ヤマダとタカハシさんの2人が快く了承してくれたところでヨーコに頼みごとをする。
「ヨーコ、ちょっと教官のところへ行くから明日一緒に来てくれ。」
「いいけど、何しに行くの? 」
「ちょっと考えがあって。」
「ふーん、分かった。」
この前ランニングするときに引っ張り廻されたから今度はヨーコに働いてもらおうと考えているとヨーコがじっとこっちを見ていた。
目が「いいよ。」って言っていた。お見通しか。エスパーか何かですか? エスパーヨーコ、何か昭和映画のタイトルみたいだな。
次の日早速ヨーコを伴い教官に許可をもらいに行きいろいろ準備を行った。
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ナカタユーコの独り言
ヒビノは頼りになるやつだ。実技試験の時はマジで度肝を抜かれたぜ。あんなにスゲー走りをするやつはあたいの仲間でも見たことがねー。
走りだけじゃなく、メグミが教練の事でミヤモトのヤローに文句言われてカッとなって手が出そうだったときも間に入ってガツっと言ってくれたんだ。
結局ツチヤがその場を収めた感じになったがあれはヒビノのおかげだと思っている。
そして今回もメグミとヤマダが退学になりそうなっているのをどうにかしてくれようとしている。こいつが同期で本当に良かったと思う。
だけどヒビノにおんぶにだっこじゃ示しがつかねー。あたいも負けてらんねー。今は無理だけどぜってーヒビノに追いついてやるんだ! あいつと並んで走れるぐらいにぜってーなってやる!




