第二十二話 スズキダイスケの苦悩と決意
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養成学校入学から半年が経った。実技の課業ではヒール&トゥやサイドターンを使った周回練習に入っている。俺、スズキダイスケは悪戦苦闘していた。
魔導車の発進やギヤチェンジは問題なくできる。しかし、ヒール&トゥやサイドターンともなると全く上手くいかない。一週間の半分以上は実技の課業が入っていて練習量が少ないということでもないはずだ。
しかしそれでもマコトやツチヤはいとも簡単にやってのけるのに俺や他の42期生たちは四苦八苦しているのが現状だ。もちろん教官の説明だけでなくマコトにも教えてもらっている。
ヒール&トゥについてマコトは次のように言っていた。
「ダイスケはアクセル踏みすぎかな。ブレーキがきちんと奥まで踏めてるからその勢いでアクセルも踏んじゃってる感じ。もう少しアクセル量を調整できるようになるといいよ。」
そうは言われたが、ブレーキを踏むと同じようにアクセルを踏んでしまう。言われてすぐできるようになるほど俺は天才ではない。このとき横でアマノもマコトの説明を聞いていた。
「そっかー。確かにブレーキと同じ様に踏んじゃってたかも。次の課業で試してみるね。」
と、軽い感じで言っていたのだが次の課業ですぐにヒール&トゥができてしまっていた。天才か、と思った。
アマノはマコトの幼馴染だという。付き合ってるとかそういう感じではないそうだが仲は良い。それでも類は友を呼ぶというやつだろうか? マコトほどドライビングスキルは高くないがアマノの吸収力の高さは異常と言えるほどだ。
そしてマコトのドライビングスキルの高さも16歳にしては異常すぎる。聞くと「ただいつも魔導車やマジカルレースを見ていただけ。」という。見るだけでそんな高いドライビングスキルが身につくものだろうか?
アマノに聞くと「マコトは変態だから。」と言っていた。すぐさまマコトが「誰が変態だ! 」と言っていたがそれが本当なら変態レベルの異常さということだ。
ヒール&トゥはまだ回転数は合わないもののブレーキしながらアクセルを煽れているだけましで、サイドターンが全くどうにもならない。サイドを引けば簡単にスピンするのだ。
教官やマコトにカウンターが遅いとか言われるので今度はサイドを引いてすぐに逆にハンドルを切るのだが、ハンドルを切りすぎているせいで逆向きにスピンしてしまう。
マコトやツチヤは信じられないくらい、ハンドルを切れば車は曲がるぐらいな感じでやってのけている。他の42期生の中ではあのアマノすらまだ上手くいっていないようだ。だが、だんだん形になってきている。
おれも負けてはいられない。ひたすら練習に没頭するのであった。
俺は当たり前だがマジカルレーサーになるためにこの養成学校に入った。運動神経も学力も人より優れていると自負していたし試験も自信があった。俺には兄がおり、兄は魔導車免許を所持し魔導車を所有していた。
その兄に頼み込んで駐車場などで練習させてもらっていたのだ。これで実技試験もトップ通過できる! と思っていたのだがその自信は実技試験で粉々に砕け散った。ツチヤが走るところを見たからだ。
単に魔導車を発進して動かすだけなら問題なくできるようになった程度の俺に対して、ツチヤは試験官と同じ様にドリフトしながら走って見せたのだ。レベルが違うと思った。聞けばツチヤはあのキング・ツチヤシゲル選手の息子だという。
納得としたとともにそれは反則だろうと思った。きっと子供のころから好きなように練習していたに違いない、そうでないとあんな走りできっこないと。それでも他の受験者ではそこまでのやつはおらず受験は受かるだろうとは思っていた。
案の定マジカルレーサー養成学校に合格し寮で自分に割り当てられた部屋に行ってみるとまだルームメイトは来ていなかった。持ってきたたいして中身のない荷物をがさがさしていると一人の男が部屋に入ってきた。
部屋の作りが珍しいのかキョロキョロしていた。さわやかと言えなくもないがおおよそ普通の顔立ちをした普通の感じのやつだった。おそらくこれから2年間一緒に暮らすであろうルームメイトに挨拶をしておこうと思った。
「よう、これからルームメイトになるスズキダイスケだ。よろしくな。」
「こちらこそよろしく。俺はヒビノマコト。」
俺のルームメイトはヒビノと言った。おそらく寮の名簿に載っていただろうが確認はしてなかった。ここでは一緒に生活する仲間であるとともにライバルだ。俺は手を差し出した。
ヒビノもためらいなく手を差し出してきて握手を交わした。こいつとはやっていけそうだ、そんな気がしたんだ。
しかし養成学校が始まりすぐに噂を耳にする。俺とは違う試験会場で試験官以上の走りをしたやつがいると。そいつはターンマークのすごい前からドリフトしてターンしていったというのだ。俺は耳を疑った。
あのツチヤでも試験官と同じ様な走行だったんだ。それでも凄いっていうのに試験官以上の走りをしただって? そんな馬鹿な。さらにそいつの名前を聞いてさらに驚いた。俺のルームメイトのヒビノだったからだ。あの普通の感じのやつが?
それからルームメイトのヒビノのことをよく見ておくようになった。呼び方もお互いに名前で呼ぶようになりいろいろ話せる仲になっていった。
マコトは普通にいいやつだった。いろんなことを文句を言うでもなくきっちりやるやつで、それこそ教官に鉄拳制裁されても文句や愚痴の一つも言っていなかった。さすがに殴られてた時は目が泳いでいたが。
ある日、マコトより先に自室に戻っていると外が騒がしかった。廊下で話しているやつらから聞こえた内容によるとマコトとミヤモトがもめていたらしい。それがすぐ噂となって寮内を駆け巡っていた。
マコトが戻ってきたので話を聞いた。暴力沙汰にはならなかったようで安心したよ。すでに辞めるやつが出てたからな。どうやらツチヤが仲裁に入ったらしい。
俺はツチヤの走りを試験の時みておりマコトの噂からするとツチヤもマコトのことを気にしているのではないかと思った。そのことをマコトに伝え実際に噂の事も聞いてみようと思い、試験のことをほのめかすように聞いた。
マコトはかなりはっちゃけたと言っていた。周りが驚くような走りをしたというわけだ。この同期生の中で試験官と同じかそれ以上の走りをする奴が二人いる。その二人がお互いのことを気にならないわけがない。
マコトはまだ気にしていないようだからツチヤのほうは気にしてるのではないかと伝えた。マコトはまだピンと来ていないようだったが。まだ養成学校も始まって一週間ほどしかたっていなかったのであせらずいこうとだけ声をかけておいた。
マコトたちがランニングをするというので俺も走ることにした。女子たちと一緒に走るときにマコトが鼻の下を伸ばしていたようでアマノに睨まれていた。なにやってんだか。
3か月たったころようやく実技の課業が始まった。待ちに待った実技だ。受験の時以来で魔導車に乗れるとあって俺たちは朝からそわそわしていた。
「今日は実技があるな。」
「おう。」
と、マコトとお互い「にやり」とするぐらいだった。
実技の課業が始まりやっと魔導車に乗れることになった。教官に続いて俺が二番目で走ることになった。ヤマダとタカハシがエンストしたようだったがそのあと問題なくついてこれたようだ。
試験の時はかなりテンションが上がっていたのでアクセル全開も平気で出来たが今全開加速で120Km/h出すのは正直ちょっと怖い。しかし気合を入れてアクセルを踏みつける。
そこから第一ターンマークに向かいブーレキングに入る。ちょっとタイミングが早かったかもしれない。それでもギヤを落とそうとシフトチェンジを行いクラッチをつなぐ。
いきなりエンジンのフォーン!という音とともに前につんのめるようなGがかかったと思えばいきなり車があばれるように挙動を乱した。俺は焦りながらもなんとかステアリングで押さえつけるように減速しどうにかターンマークを廻り切った。
そのすぐ後にマコトが続いてブレーキングに入った。フォウン!フォウーン!という小気味よい音とともにスキール音が鳴り響く。ターンインはちらっとしか見えなかったが音だけ効いてると前を走る試験官と全く同じだ!
マコトはヒール&トゥをしている! 俺は確信した。噂は全て真実だったのだろうと。3周廻り車から降りた後に興奮したままマコトに詰め寄った。ヒール&トゥをしていただろうと、俺にも教えてくれと。
すると皆同じだったらしく、同じグループの皆に囲まれるようになりながらマコトは慌てながらも課業で教わってからならいいと言った。そのあと教官に釘をさされたが。
次の課業で早速ヒール&トゥの練習に入った。デモ走行をツチヤに走らせるようだった。これはチャンスと思った。まだツチヤがライバルとはピンと来ていないマコトに分からせるチャンスだと。
ツチヤが走り始める前によく見ておくように言っておいた。案の定ピンと来ていないようだったが。そしてツチヤが走り出す。昨日マコトがやっていたのと同じようにヒール&トゥで減速し綺麗にターンマークを立ち上がってくる。
そのまま一周して戻ってきたツチヤをマコトはぼーっと見ているようだった。この3か月一緒にいて分かったがマコトはぼーっとしてるようなときは何か考え事をしているようだった。
今回もぼーっとツチヤを見えいるように見えるが少し目の色が違って見えた。何かしら思うところがあったのではないだろうか。
この二人が同期になったのも何かの巡りあわせだ。ライバルとしては強力すぎて自信を無くしそうなほどだが、この二人を、二人の走りをこの先も見ていきたいと思った。二人を近くで見るにはそれ相応の実力がいる。
そう、一番近くで見るということは同じレースを走るということだ。きっとこの二人はマジカルレースのてっぺんに向かって行くのだろう。その二人と同じレースを走るということは並大抵のことではないだろう。
しかし、一生をかけてでもやるだけの価値がある、やってやる! そう俺は思ったんだ。




