第二十話 ライバルの実力
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俺たちのグループの走行が始まった。単純にオーバルコースを3周走るだけだが、試験の時以来の運転となる他のメンバーにとってはアクセル全開で踏むだけでもおっかなびっくりだろう。
試験はそれでも一発勝負みたいなところがあるから思い切って行けただろうが改めて120Km/hを出せと言われるとしり込みするものもいるだろう。
ある程度車間をとって走り出したがヤマダとタカハシさんが車間が大きくなっていく。
またもや無線で怒声が飛ぶ。
「ガガ、9番と11番もっとアクセルを奥まで踏め! ブツッ!」
うーん、こればっかりは慣れるしかないよね。
それにしてもヨーコは試験のとき見たけどダイスケもナカタさんも踏みっぷりいいね。躊躇がない。思い切りがいいことはレースでも大事なことだけどね。ただ無謀とは違うけど。
第一ターンマークが近づきブレーキングに入る。前のダイスケが乗る6番車のブレーキランプが点灯する。結構余裕がある位置からのブレーキングだ。まあ、ブレーキングも怖いよね。
普通の免許を取るための教習所ですら120Km/hからのフルブレーキングなんて絶対習うことがないし。免許が取れない16歳ならなおさらだよね。
それでもちょっとブレーキの踏みが甘いかなーと思いつつ俺もフルブレーキングに入る。ヒール&トゥをしながら2速まで落とすがやはりダイスケとの差が詰まってしまった。
ダイスケは初心者なら当たり前だとは思うがヒール&トゥができておらず、半クラでギヤをつないでいるがクラッチをつなぐのが早すぎたらしく挙動が乱れふらふらしながらなんとか第一ターンマークを曲がっていった。
あれは最初びびるよなー。いきなり車が暴れ出す感じだもん。俺も最初あわわ! ってなった。
案の定無線が入る。
「ガガ、7番、クラッチはもっと慎重に繋げ! ブツッ!」
それでもダイスケはよくスピンさせずに耐えたと思う。車の運転の巧い下手は真後ろから見ているとよく分かる。まあ、ほとんど車に乗ったことがない人に巧い下手もないと思うんだけどね。
おれもステアリングを切り第一ターンマークを立ち上がって行く。ドリフトはさせていない。先導している教官の車がしてないんだからここで勝手なことをすると後でグーパンチだ。
いや、グーパンチなんて可愛いものじゃないけど。鉄拳ですよ鉄拳制裁。まさにこの言葉がふさわしい。
バックストレートを立ち上がって行くときちらっと見た感じヨーコはヒール&トゥはなくとも綺麗にギヤを落としながらブレーキングしたようだ。
そのままバックストレートを加速しているとまたもや無線が入った。
「ガガ、9番、11番もっとブレーキを奥まで踏め! ブツっ!」
アクセルの時と同じような内容をヤマダとタカハシさんが言われていた。いや、まだ2回目で普通にアクセルとブレーキを一番奥まで踏める方が異常ですから。
ということでヨーコやナカタさんは異常ですよ? ヨーコは試験で見てたけどナカタさんはやっぱり経験あるのかなー?まあ、詮索するのはやめておこう。
なんか言いかたがおっさんくさいし。おまわりさんに職質されそうなレベルだ。ダイスケは後ろから見てると度胸があるといった方がいいかもしれない。
初心者には厳しいと俺は思っていたがそこはスパルタな養成学校だ。2回目だろうと何回目だろうと関係ないと言わんばかりに怒声が飛ぶ。
そんな調子であっという間に3周走って終了となった。思い切りぶん回せなかったが約3か月ぶりの魔導車の運転に俺は結構満足していた。
車から降りた他のメンバーは多種多様だ。まだ物足りなさそうなナカタさんにがっくり肩を落とすヤマダとタカハシさん。何かを考えているようなヨーコ。たぶんまたイメージトレーニングしてるな。
ダイスケはというと勢い込んで聞いてきた。
「マコト! おまえヒール&トゥしてただろう!? 」
「お、おう。」
あまりの勢いにちょっと引きながらも俺は答えた。
「やっぱり試験の時の噂は本当だったか。」
「あー、何を聞いたか知らないけどだいたいあってんじゃないかな? 」
俺も自分のことが噂になっていたことやその内容を知っていた。たまに指さされてたし。もしかしてツチヤも同じ気持ちだったのかも。まあ、立場は全然違うけどね。
「俺にもヒール&トゥ教えてくれよ。」
「それならあたしも知りたい! 」
と横からヨーコが割り込んできた。それなら私も、僕も、あたいもとタカハシさん、ヤマダ、ナカタさんも言ってきた。囲まれるように詰め寄られた俺は慌てて応える。
「俺のは独学だから、そのうち課業で教わってから俺なりにかみ砕いてからならいいよ。」
えー、とかそっかー、とか仕方ねーなーとか皆いろいろ言いながらだが引きさがってくれた。その後ろで教官が「ごほん! 」と咳ばらいをする。
皆一斉に直立不動になる。
「ヒビノの言う通りだ。まずは課業で教えるからそれまでは勝手なことはするな! 分かったな! 」
「「はい! 」」
一斉に返事をする。教官がこちらをギロっと見る。「余計なことは教えるんじゃないぞ! 」と目が言っている。
なんだろう、ヨーコといい教官といい目で会話することが多いな。そういう能力でも持ってるんだろうか俺は。
そのあとも教官の説明を聞いて、自分たちのグループの番になれば走ってのローテーションで初めての実技の課業は終わった。
次の日、実技の課業で二回目にしてヒール&トゥの練習に入った。俺が余計なことを言ったせいだろうか? しかし後で聞いた話によるととにかく最初に全部詰め込んで後はひたすら練習させるためだそうだ。ちょっと自意識過剰だったみたいだ。
今回は1台の前に全員が整列している。教官がヒール&トゥの説明を始めた。試験のとき話したと思うがブレーキを踏みながらアクセルを煽り回転数をあわせてシフトチェンジするテクニックだ。
試験の時は説明はなかったがさすがに今回は説明があるようだ。ヒール&トゥは車が好きでMT車に乗っているなら誰もがやりたがるテクニックだろう。
実際のやり方としては足の親指の付け根でブレーキを踏みながらかかとでアクセルを踏む。
しかし車によってはアクセルとブレーキの感覚が狭かったり、そもそも足元のスペースが狭かったりでかかとでアクセルを踏むスペースがなかったりする。
その場合は親指の付け根でブレーキを踏みながら小指の付け根や足右側面を使って足をひねるようにアクセルを煽る。
ローリングトゥとか言われたりするテクニックだ。俺が前の世界で挑戦したフォーミュラカーがそうであり、軽自動車なんかも足元が狭いのでこのテクニックが必要だったりする。
教官の説明を聞く限り俺のやり方は間違っていないようだった。
説明が終わり教官が車両から降りて声を上げた。
「では誰かに実際に走ってもらう。」
研修生がざわっとした。そりゃいきなりやれって言われてもすぐにできるもんでもないでしょうに。
「じゃあ、ツチヤ。お前やってみろ」
あ、そういうことね。ちゃんとできるやつにやらせて外から説明するというわけだ。だから今回は全員に説明してるのね。
ツチヤが「はい!」と声だけは大きく返事をした。だって態度がスン!としてるから。え? 言いたいだけじゃないかって? はい、そのとおり!
気分はアタックチャンスの人なのだが自問自答はそのくらいにしてツチヤの走りに注目しよう。初めてツチヤの走っているところを見るのだ。
どれ、お手並み拝見とこれまた上から目線で思っているとダイスケがこそっと話しかけてきた。
「よく見とけよ。」
「あ、ああ。でもなんで? 」
「マコトは特に見といた方がいいと思ってな。」
「お? おう。」
イマイチ分かるような分からないようなことをダイスケは言ってツチヤの乗った車両に顔を向けた。俺も車両のほうを見る。
スッとツチヤが乗った車両が発進した。やはり一発でクラッチミートしてるね。
間違いなく魔導車に乗りなれている。他の一般的な研修生だとがくがくするから。受験の時や昨日もそうだったし。
そのままゲートを通りコースインしホームストレートを全開で加速する。ギヤチェンジもスムーズだ。
そして第一ターンマーク前で減速し、フォウン!フォウーン!という音をさせて減速しながらヒール&トゥでギヤを落としていく。
教官が説明を始める。
「あのようにブレーキング時にアクセルを煽ることで回転数を合わしスムーズにギヤを変更できる。回転数があってないと下手すると姿勢を乱して最悪スピンするから気を付けろ! 」
昨日のダイスケもクラッチつなぐの失敗してスピンこそしなかったがふらふらしてたからね。そのまま1周して戻ってくる。練習ではなくデモ走行なので3周ではないらしい。
ツチヤが車から降りてきてヘルメットを脱いだ。汗が光る。結構なイケメンだから場所が場所なら黄色い声援でも飛びそうなシーンだ。
女子がそんなことでもしようものなら平手打ちが飛ぶので誰もしないが。
「ツチヤ、ご苦労だった。もどっていいぞ。」
「はい! 」
声だけは大きな声で返事をし自分の場所に戻る。だってスン! ってしてるから。え? やっかみが入ってるって? 俺だってイケメンではないかもしれないがさわやか少年だし! たぶん。
周囲の研修生がツチヤを見る目も様々だ。単に称賛する目、憧れの目、嫉妬の目などだ。もちろんヤなケンは嫉妬の目で見ている。たぶん一番じゃないと嫌なタイプなんだろうなー。受験で躓いちゃった感じかも。
俺が躓かせた張本人なんだけどね。ま、人間叩かれてそれこそ鼻をへし折られて育つもんさと他人ごとのように思う。
それにしてもツチヤだが間違いなく研修生の中で一番巧いだろう。俺を除いてだが。いや、俺のほうが巧いという気はないがまだツチヤの底を見てないからなんとも言えないというのが正直なところだ。
こればかりは今後わかっていくことだろう。ただ一つ言えるのは俺の最大のライバルになりそうなのがツチヤということだ。
あらやだ、また上から目線な発言をしてしまった。慢心は戒めねば。すぐに反省できるのが大人の証拠だ。何度も言うがまだ16歳だけど。
その後グループに分かれて実走行での練習を行った。




