第十九話 実技の課業
誤字、脱字を修正しました。
養成学校に入って3か月が経った。本日待ちに待った実技の課業がある。なにせ試験を受けて以来一度も乗っていない。
あの試験の日を夢に見るくらいだ。さらに先輩である41期生が走る姿を指をくわえて涎まで垂らす勢いで見てたまである。勢いだけで垂らしてないけど。
禁断症状で手に震えが来そうで、収まれ俺の右手ー! って中二はもういいですか、はいすいません。
朝から皆そわそわしているようだった。ルームメイトのダイスケとも朝に次のようなやりとりがあった。
「今日は実技があるな。」
「おう。」
と、お互い「にやり」としたものだ。皆気持ちは一緒で早く魔導車に乗りたいのだ。
いや、一人だけ落ち着いているどころかどうでもいいとばかりにスン! としている奴がいる。ツチヤだ。
整備実習でもツチヤはつまらなさそうにテキパキさくさくやってたもんな。ダイスケの話だと実技試験でもスン! としてたみたいだし。
俺とヤマダなんてにやにやしながら整備してたけどな。ヨーコにこそっと言われてしまったが。
「マコト、にやにやして気色悪いよ? 」
「な!? 」
課業中だから大きな声ではなかったがちょっとショックを受けてしまった。俺のにやけ顔などみなれているだろう幼馴染まで気色悪いって。
そうかなとは思ってたものの他人から言われるとショックを受けるものだ。後になって鏡で確認してしまった。大丈夫、16歳さわやか少年の顔だ。たぶん。
ツチヤだが魔導車があまり好きではないのかもしれない。親がマジカルレーサーでしかもキングと呼ばれる頂点に立つ人だと家庭環境は特殊なのかもしれないし。
まあ、他人のことをいつまでもとやかく考えてても仕方ない。俺は魔導車に乗れると考えると高揚してくる気持ちを抑えながら朝の日課をこなし、実技の課業が始まるのを今か今かと待っていた。
待ちに待った実技の課業が始まった。数台の競技車両の前にグループごとに分けられて整列し各車両に一人教官がつく。もちろん全員レーシングスーツ姿だ。教官が運転席でドアを開けたまま操作の説明を始める。
操作方法は試験の時一通り教わっているが今回はその操作一つ一つがどの部品を操作しどのように動作するのかを詳しく説明している。
ステアリングはステアリングコラムからギヤボックスに繋がりそこから伸びるロッドでナックルアームを押したり引いたりすることでタイヤを傾けるだとか、ブレーキはマスターシリンダーから油圧で各ディスクブレーキについているキャリパーのピストンによってブレーキパッドを押し付けることで制動するとかとか。
これらは整備の課業で習っているものではあるが実際に操作するときにそんなことまで考えたりはしないだろう。
しかし感覚的に分かっているどう操作すればどう動くということをさらに頭で構造的に理解することでより実感を伴った理解になるのだ。
これができていないと車が不調を訴えているときどこの部分か分からず適切な処置ができないし、路面状況を車がどのように伝えているかが理解できないのでドライビングスキルが向上しない。
皆真剣な表情で聞いている。ツチヤは相変わらずスン!としてるが。俺とヤマダは比較的余裕な態度だ。あー、それな的な。
するとヨーコに目で怒られた。「ちゃんと聞いときなさいよ! 」と。あれ? デジャブ?
次に教官がシフト操作の説明を始めた。シフトノブの握り方や回転数を感じながらシフトを入れるとか。
最初慣れないうちは回転数計を見ながらシフトチェンジすると思うがレースになればもちろんそんなところを見ている暇はない。
慣れてくれば音で分かるようになる。マジカルレースだとほぼシフトチェンジのタイミングは同じだろうからすぐに慣れると思うよ。
と、誰に説明するでもなく一人で考えていると教官が次の説明に入っていた。次は実際に研修生が乗って走るらしい。
競技車両は人数分以上余裕であるが、一度にコース上に入れる台数に限りがあるため1グループごとに教官の車両に数台でついていく感じだ。
各車両には番号がついており無線もついているので管制塔からみている別の教官から指示が入るようになっている。
ちなみに教官からの一方通行で研修生の車両側からは通信できない。
俺たちのグループの前のグループが発進した。それぞれゲートを抜けてホームストレートを加速していく。
うーん、やはりアクセル踏み切れてない人がいるなー。全開加速やっぱり怖いよなーって見てた。
そしてブレーキだが教官のブレーキポイントよりさらに手前で踏んでる人多数。まあ前の車のブレーキランプが見えたらブレーキ踏んじゃうよね。
ちなみにこれって渋滞のひとつの原因らしい。高速道路などで前の車より速いタイミングで速度落とすからそのあとの車もさらにそのあとの車もと何十台も続いていくと最後のほうは車が止まってしまうとか。
単純に考えて100Km/hで走ってる車が前の車につまって80Km/hまで減速するとしてその後ろの車が79Km/hまで減速してしまう。
そして次の車は78km/h、次の車が77km/hと言った感じに車が多ければ多いほどどんどん速度が落ちていくということだから。
まあ、今回は数台しかいないしシフトチェンジの練習も重要だから全部が全部できなくてもいいんじゃないかな。
などと考えていると前のグループが3周を終えて戻ってきていた。マジカルレース車両は3周分ぐらいの魔力タンク容量しかないからね。
次は俺たちのグループの番だ。俺たちのグループメンバーはスズキ(ダイスケの事ね)、ヒビノ(俺)、ヤマダ、アマノ(ヨーコの事)、タカハシさん、ナカタさんとなっている。
知り合いばかり固まってるね。というか寮で同じ部屋と隣のメンバーなのでそれがグループにまとめられている理由だとしたらだからこそ知り合いが多いとも言える。
整備士さんの手によって外部バッテリーが繋がれキーシリンダーを回し魔導エンジンが始動される。
ドルーン!という低音が響き渡る。いつ聞いてもいいもんだなー。エンジンの始動音は心を高揚させる。
今から行くぞ! って気分にさせてくれるだよなー。そしてバタン!と整備士さんによってボンネットが閉められる。
前の世界の古い車同様ボンネットも結構厚みがあって手で体重を載せるようにバン! って閉めてるんだけど、俺が死ぬ前の時代の車だと同じように体重載せてやると技術が進歩してボンネット薄くなってるから凹むんだよね。
ボンネットが薄くなる切替わりの時代にディーラーの営業マンがお客さんの前でそれやって店側がボンネット交換するはめになった、なんて笑い話も聞いたことがある。
どうでもいい話を考えていると教官が発進したので俺たちも続いて発進した。すると無線からいきなり怒声が飛んだ。
「ガガ、9番、11番クラッチすぐに離しすぎだ! もっとそっと繋げ! 、ブツっ!」
無線ってつなぐときと切るときに必ずノイズ入るよね。どうやらエンストした車がいたらしい。9番車がヤマダで11番車がタカハシさんだ。
ちなみに7番車がダイスケ、8番車が俺、10番車がヨーコ、12番車がナカタさんだ。
ヤマダもタカハシさんも落ち着いて。ガンバ。と余裕をかます俺だが同じ立場ならかなりテンパルと思う。
ヤマダは魔導車整備工場の息子だがもちろん免許は持っていないので試験まで運転したことなかったそうだ。
そういえばタカハシさんはなんでマジカルレーサーになろうと思ったんだろう? あの学力からして技術者とか他の道もあると思うんだけど。頭がいいから技術者って何かの一つ覚えでもないんだけどマジカルレーサーになりたいからには魔導車が好きなのかなーって。
いや、タカハシさんに才能がないとかそういうことを言ってるつもりはなくてもっと他にふさわしい将来があったのではないかと思っただけなんだけど。
機会があれば聞いてみようかとも思うが余計なことかもしれないのでどうしようかと考えていたら二人とも無事発進できたようだ。がくがくしてたみたいだけど。隊列は教官車、7番ダイスケ、8番俺、10番ヨーコ、12番ナカタさん、9番ヤマダ、11番タカハシさんの順になりコースインした。