第十伍話 マジカルレーサー養成学校始まる
タイトルを変更しました。
マジカルレーサー養成学校は国で一番高い山の麓にある全寮制だ。
養成学校もそうだがマジカルレース場は全国で24場あり多くが郊外にある。
試験会場は養成学校ではなくこのマジカルレース場で行われていたのだ。
何故レース場が郊外に多いかというと騒音問題があるからだ。
それでも市街地にレース場があるところもありそういったレース場は高い防音壁に覆われている。
前の世界で市街地を通る高速道路の両脇にあるようなやつだ。
排気ガスがないとはいえ騒音だけはどうにもならない。
レース車両に消音サイレンサーが採用されたりもしている。
一部のファンからは迫力がなくなるとの声もあったがそれでも十分な音量を奏でているように思う。
マジカルレーサー養成学校は2年制であることは以前話したと思うが2年間のカリキュラム中は月一日しか休日はなく、半年に一度の自由日以外は外出も禁止されている。
私物はほとんど持ち込めず着替えと必要最低限の生活必需品のみ持ち込みが可能となっている。
頭髪にも規制がある。昔はそれこそ男子は坊主、女子はおかっぱといった昭和初期のような内容だったが、今は男子は短髪、女子はショートヘアであればある程度自由になっている。
前の世界で平成以降はあり得ない話だと思うが俺が中学校の頃は校則で坊主と決められていた。
実家の床屋で「今日は三枚刈りで」と言っていたのが懐かしい。
ちなみに大人になってから知ったのだがこの何枚という言いかたは関西のほうでしか言わないそうだ。関東では三分刈りとかいうらしい。
何枚というのは剃刀刃の数の厚み分の長さのことで何分というのは昔の寸法の何割何分何厘の分のことだそうだ。
俺もマジカルレーサー養成学校に入るにあたり髪を短くし刈り上げているし、ヨーコも肩ぐらいまであった髪をバッサリ切っている。
帽子でもかぶれば美少年で通るかもしれない。
背丈は平均身長の俺より少し低いくらいで女子の中では高いほうだ。
モデル体型とでもいうのだろうか。
ヨーコ自身は髪を切ることに何のためらいもなかったらしい。
逆にすっきりしていいと笑っていた。
いまだにヨーコがマジカルレーサー養成学校に入って良かったのかと考えもするが試験であれだけの才能を見せられるとさすがに何も言えなくなる。
ともかく俺ができる範囲でフォローしていこうと思っている。
まあ養成学校生活は軍隊並みだし人の事心配してる場合でもないかもだけど。
入寮日となり試験合格者が続々と寮にやってくる。
俺とヨーコは簡単な手続きをした後に男女別になっているそれぞれの寮に分かれた。
自分に与えられた部屋に向かう。
二人部屋らしい。
2段ベッドの1段目が収納と机になっておりそのベッドが部屋の両脇に二つかれただけの6畳くらいの部屋だった。
ちなみに扉に鍵はない。プライベート空間とか個人情報の保護って言葉はどこかなー? と思わずきょろきょろ探してしまった。
すると先に先客がおり声をかけられた。
「よう、これからルームメイトになるスズキダイスケだ。よろしくな。」
これから2年間同じ部屋で過ごすことになる相手に俺は同じく挨拶を返す。
「こちらこそよろしく。俺はヒビノマコト。」
おう、と手を差し出してきたので握手を交わす。ちょっと熱い感じのするやつだ。
熱血漢というほどでもないが。
そしてそのあと他愛のない話をし、寮生が集められた後寮に関する説明を受けその日は終わった。
次の日、白い作業服を着こみ入学式が終わったあと各課業の説明を受けるため講義室に向かう。
マジカルレーサー養成学校は授業ではなく課業と呼ぶ。
座席表を見て自分の席を探しているとある一人に目がとまった。
なんか坊主の人がいる。
確かに短髪が規則だが坊主にする必要はないし、そもそも寮でも入学式でも見た覚えがない。
そう思いながら顔を見て思わず吹いてしまった。試験の時のヤンキーの娘だったからだ。
周りの男子しか見てないからどおりでわからなかったはずだ。
そして案の定からまれた。
「あ? あたいの顔になんかついてんのか!? 人の顔に見て吹き出すたーいい度胸だ。」
いやいやついてるどころかついてないんです、髪が。
髪は女の命でしょうに。
顔もよく見ると綺麗な顔立ちしてるのにもったいない。
そこまで気合い入れんでも。
それでも下手にごまかそうものなら胸倉をつかんできそうな勢いだったので正直に話す。
「いや、気合が凄く入ってて驚いてしまって。」
「へっ! あたりめーだろ。これからあたいがマジカルレースのてっぺんを目指すんだからよ。」
彼女は得意げに鼻を鳴らしながら言った。
俺が正直に答えたことで気を取り直してくれたようだ。
しかし常に前を向き頂きを目指すその意気やよし、とまたもや上から目線で俺は思った。
そしてその思いに応えるように負けじと俺も言った。
「もちろん俺もだよ。俺はヒビノマコト。」
「あたいはナカタユーコ。お前実技試験すごかったな。よろしくな!」
と手を差し出してきた。
俺の実技試験を見て驚いていたようだったからね。
「こちらこそよろしく。」
と俺も手を差し出し固い握手を交わす。どうやら実力で認めてくれたらしい。
確かに彼女はヤンキーかもしれないがまっすぐな娘だと思う。
こういう熱くてまっすぐな人って好きなんだよなー。応援したくなるっていうか。
そう思っていると横から声をかけられた。
「あのあの、私も実技試験見てました。すごかったですよね! 」
振り向くとどこかで見たことある顔だった。よく見たら試験のときのみつあみの娘だった。
ショートにしてるから分かりづらかったのだ。
「私、タカハシメグミって言います。ヒビノ君と同期になれて光栄です。よろしくお願いします。」
「あ、ああ。こちらこそよろしくお願いします。」
光栄って、俺は偉人でもなんでもないですよ?
ちょっと勢いに面食らったが丁寧にお辞儀をしてくるタカハシさんに俺もお辞儀で返す。
やっぱり見た通りの真面目な娘なんだなと改めて感心した。
それにしても二人とも受かっだんだねー。
良かったねーと相変わらず生暖かい目で見ているとふと視線が気になって振り返った。
ヨーコがジト目でこちらを見てた。
「ふーん、いきなり女の子たちと仲良くなるんだ。」
「は?何が?」
「べーつにー。」
と不機嫌そうに俺の横をスルーし、一転して笑顔でナカタさんとタカハシさんと会話を始めた。
後で聞いたら昨日寮に入った時点で話せる仲になったらしい。
ヨーコもナカタさんの頭髪に気合いと意気込みを感じたらしく意気投合したそうだ。
そもそもヨーコも体育会系だからな。
タカハシさんとは寮で同室だそうだ。
マジカルレーサーは一つの期で30人前後しかおらず俺たちの期は男子17名、女子は15名しかいないしね。
30名を超えているということは試験で優秀だった者が多かったらしい。
才能がないと判断されると30名を割るのだから。
普通学校だと1年生、2年生といった言いかたをすると思うがマジカルレース養成学校では何期生という呼び方をする。
これはマジカルレースが始まってからプロデビューした期ごとに番号がついており、俺たちは42期にプロデビューとなるので42期生と呼ばれる。
そして選手自身にも登録番号が与えられる。これもマジカルレースが始まって以来の通し番号だ。
俺もプロデビューしたら登録番号をもらうことになる。
相変わらずヨーコは何が言いたいのか分からん。俺だって仲良くできる人とそうでない人がいる。
それだけの話だと思うんだけどな。
ヨーコはたまに意味もなくすねたり怒ったりするんだよね。
傍から見ると気さくで誰とでも仲良くする感じだが実のところ結構独占欲が強いと思う。
子供頃などヨーコのお菓子に横から手を出そうものなら逆に手が出てきたもんだ。
たぶん幼馴染の俺が他人のしかも女の子と仲良く話しているのが気に入らなかったのだろう。
なにせめったに女の子と会話なんてしないしね。
やはり恋愛感情がなくとも幼馴染というのは何か特別な関係なのかもしれない。
まあいいや。
気を取り直してマジカルレーサー養成学校における初課業を受けるため自分の席についた。