第十三話 マコトのさらなる実力
文章の小変更を行いました。
二週目第一ターンマークへ先ほど同様内側へラインをとる。モータースポーツなどではどこをどう通っていくかをラインという呼び方をする。
コーナー一つ一つを速く走ることを考えるのではなく、すべてのコーナーをつながった線として全体でどう速く走るかを考えるからだ。
例えばこのコーナーを速く走るためにはその前のコーナーをどの位置で立ち上がる必要があって、さらにその位置で立ち上がるためにはその前のコーナーをどのように立ち上がるかといったように逆算的に考えるのだ。
まあ、マジカルレースの場合オーバルコースでしかないので複雑にはならないが、コース幅が広く他車自体が障害物となるので他車との絡み次第でラインは無限にあると言っていい。
第一ターンマーク前から先ほどの第二ターンマーク前と同じくらいの深さからブレーキングを始めヒール&トゥでギヤを落としながらブレーキングをする。
しっかり減速し前荷重にしながら今度はブレーキをリリースしながらステアリングを入れる。
ブレーキを残しながら曲がるのでフロントタイヤは荷重で押し付けられた状態で高いグリップ力を発揮しながら内側へと食い込むように曲がろうとする。
このとき車体には横Gがかかり外側のタイヤに荷重がかかる。この時点でクラッチを切らずにサイドを思いっきり引いた。
リヤのグリップが限界を超えテールスライドを起こす。
前回はクラッチを切って先にサイドを引いたのでリヤタイヤがロックした状態でステアリングを切ってテールをスライドさせた。
これは車を外から見ているとリヤタイヤがロックして止まった状態で滑るので見ていたら分かる。しかし、今回やったやり方ははた目から見るとリヤタイヤはロックしておらずサイドブレーキを使ったようには見えない。
リヤタイヤをロックさせる方法はタイヤがロックしたまま滑るので部分的にフラットに削れてしまいよくないのだ。
結局何をやったかというと要はリヤタイヤのブレーキ力を増してやったのだ。通常ブレーキを踏めば四輪ともに制動力がかかるが実はこれは前と後ろは均等ではない。
全ての車において前のタイヤのほうが後ろのタイヤより制動力がかかるようにできている。これはフロントにエンジンがあるためフロントのほうがリヤよりも重いのと減速する制動時は前荷重がかかるからだ。
逆に後ろの荷重は抜けるのでリヤの制動力が強いと一般道でも強めにブレーキを踏んだだけでリヤが滑り出す危ない車になってしまう。なのでテールスライドを誘発するためにサイドブレーキでリヤタイヤの制動力を増したわけだ。
さらに今度はテールスライド量を抑えるために最初のステアリングを切り込む量を調整してカウンターステアの量を最小限にする。
試験官が声を上げた。
「ゼロカウンター!?」
そうゼロカウンターをやったのだ。
外から見るとタイヤは逆を向かず車の前方まっすぐを向いた状態だ。
通常ドリフトというとリヤが先に行こうとするのでステアリングそのままだとスピンするわけだ。感覚的に言うとリヤがフロントを追い越す感じだ。
それを抑えるためにステアリングを曲がる方向と反対方向、リヤが流れている方向に切る。これがカウンターステアだ。
外から見るとタイヤは曲がる方向と逆に向いている。しかしこれはスライド量が大きくタイムを出すやり方ではない。
スライド量を可能な限り抑えて車の向きを変える程度にして最小限のカウンターステア=ゼロカウンターにする。
この状態がテールスライドで一番ロスがなく車の向きを変える最適で一番タイムがでる方法だ。前の世界のF1でも行われているテクニックである。
言いかたを変えると本当に速く走ろうと思えばリヤタイヤも使って曲がるのだ。F1がそれを証明している。
そしてそのままステアリングまっすぐのままテールスライドだけで向きを変えターンマークを廻り立ち上がって行く。
試験官は絶句しているようだ。
免許すら持っていない16歳がゼロカウンターって。俺が試験官でも同じ反応をしただろう。しかし、まだまだ。
まだ試したいことはあるから気をしっかり持って試験官。ガンバ。 試験官を心の中で励ましながら二週目第二ターンマークに向かうためバックストレートを加速する。
二週目のホームストレートでは内よりのラインを走っていたがバックストレートでは外寄りのラインを走っている。
もちろんこれには理由があり俺は第一ターン前よりさらに深い位置からブレーキングを始める。
試験官が「おいっ!」という焦った声を上げる。これは仕方がないことだと思う。サーキットでも街乗りでも自分のタイミングよりブレーキタイミングが遅いと焦ったりするものだ。
というか、サーキットで上手い人の横に乗って自分よりコーナーの奥でブレーキ踏まれた日には冷や汗がでるよ。だって、自分だったらそのままコースアウトするかもしれないタイミングなのだから。
しかし、マジカルレース場はパイロンが二つだけのただっぴろい広場みたいなコースだからちょっとやそっとブレーキが遅くともどこにぶつかるわけでもない。
それでも試験官が想像していなかったらしく声を上げたのだろう。
俺はロックする寸前のブレーキ踏力でフルブレーキングしながらヒール&トゥでギヤを落としていく。フォウーン!フォウーン!という音をさせながら俺の試験車両は減速する。第一ターンマーク同様前荷重になる。
第一ターンマークはサイドブレーキを使ったが今度は使わない。前回同様ブレーキをリリースしながらステアリングを切り、ブレーキを残しながらフロントタイヤに荷重をかけて曲がり始める。
タイヤはゴムなので押し付ければ押し付けるほどグリップ力が増す。消しゴムを想像してほしい。
机に置いたまま動かせば滑って動かせるが上から手で押し付けた状態で動かそうとするとグリップして動かないはずだ。
これがタイヤなら転がろうとするのでタイヤは荷重によって押し付けられ通常よりグリップ力を増した状態でハンドルを切った方向へ切り込んでいくように曲がるのだ。
グリップ力の限界を使って曲がるのでタイヤが悲鳴をあげるようにスキール音を奏でる。スキール音が出るはドリフト時のタイヤの空転だけではない。
タイヤのグリップが限界付近で鳴るものなのだ。
このターンインまではグリップ走行と同じだ。そしてターンインし横Gがかかって外側のタイヤに荷重がかかったときに残していたブレーキを少し踏み足す。くっとね。
外側のタイヤに荷重がかかっていたのがさらに前に荷重がかかったためリヤタイヤが横に力を受けた状態で荷重を抜かれた状態になる。
するとリヤタイヤが滑り出すわけだ。
テールスライドを誘発したらカウンターステアとアクセルコントロールで第二ターンマークを廻りホームストレートへ立ち上がって行く。
いわゆるブレーキングドリフトだ。
本当にやろうと思えば最初のターンインでテールスライドは起こすことはできただろう。
しかしこの試験車のセッティングのせいかターンインでテールスライドしなかったのでブレーキを踏み足すことでテールスライドのきっかけとしたのだ。
前のターンマークより外側にラインを獲ったのは速度が速く旋回半径が大きくなるためだ。
そして三周目最終周に入る。じゃあ最後決めるよー!
え? もう十分やったんじゃないかって?
まだまだまだー!!
16年ぶりに思いっきり車をぶん回せるんだからやれるだけやらなきゃでしょ!?




