第十二話 マコトの実力
マコトの独り言に変更しました。
マコトの独り言に追記しました。
誤字脱字を修正しました。
第一ターンマーク前のブレーキングでフロントタイヤをロックさせたのは一瞬だった。試験官が思わず声を発した。
「ブレーキ踏みすぎっ!?」
と言われたが実はわざとロックさせたのだ。
最高速からのフルブレーキング時のロックするブレーキ踏力を確認したのだ。これによってブレーキがロックする限界が分かった。
もちろんロックさせたあとはすぐにブレーキを緩めて一瞬でロックを解除した。
試験官に言われたブレーキポイントでロックさせてもまだブレーキタイミングに余裕があったのでもっとブレーキポイントを詰められるだろう。
そして試験官の語尾が疑問形だったのは俺がヒール&トゥでギヤを落としながら減速したからだ。
ヒール&トゥはブレーキングを行う際にシフトダウンを行うためアクセルをあおるためにブレーキをつま先で踏みながらかかとでアクセルを踏むテクニックの事だ。
まあ魔導車を初めて運転する受験者がいきなりヒール&トゥしたら試験官も驚くよね。
デモ走行で実践と同様に廻ると言ったときにもちろん試験官もやっていたが説明もしなかったし、できると思って見せてないだろうしね。
クロスミッションでギヤ比が近くヒール&トゥでギヤを4→3→2速と落としていくとフォウーン、フォウーン! という音が鳴り響く。
これこれ! やっぱり減速時はこうでなくては!
そのままターンマーク際をしっかり廻ってグリップでターンしたあとそのまま全開加速で立ち上がっていく。
最初の第一ターンマークはいろいろ確認するために使った。ステアリングをどれだけ切るとどれだけノーズが入るのか、立ち上がりでどこから全開で踏んでもリヤが滑り出さず立ち上がるのかとかだ。
バックストレートではホームストレートより内側を加速していく。試験官が何か言いたげにこちらをちらっと見たが何も言わなかった。何か察したのだろう。
そしてそのまま最高速に達し第二ターンマーク前まで来てブレーキングに入る。今度は試験官の指示のあったポイントより奥からブレーキングに入る。
そう、デモ走行で試験官が実践と同じようにと言って走ったラインとブレーキポイントでだ。もちろん説明は受けていないが当然のように確認しておいた。
ヒール&トゥでギヤを2速まで落としながら減速し前にしっかり荷重を乗せる。車は加速するときは後ろに荷重がかかり減速するときは前に荷重がかかる。
車や電車に乗っているときに加減速で体にGがかかり前や後ろにつんのめりそうになるあれだ。この荷重移動で前に荷重をかけることで後ろの荷重が抜ける。
この時にクラッチを切って一気にサイドブレーキを引く!
するとリヤタイヤがロックし滑り始めるのでそれと同時にステアリングを曲がりたい方向へ入れる。こうすればテールスライドを起こし車がスピンしようとする。
この時ステアリングをスピンしようとする方向とは逆のほうに切るのだ。いわゆる逆ハンとかカウンターステアと言われるテクニックだ。
このサイドターンのテクニックにより車のテール=リヤタイヤを滑らせながら車の向きを普通に曲がるよりさらに内側に向けることができる。
しかしカウンターステアだが素人がすぐにできるものではない。カウンターステアはタイミングがあっていなかったり切る量が足りないとそのままスピンするし切る量が大きすぎるとグリップが回復した時切りすぎた方へ振り返しが起こって逆向きにスピンする。
間違っても一般道でサイドブレーキなどを引いてやろうとは思わないことだ。しかしアドレナリンどっぱどぱな俺はそのままフルカウンター、フルアクセルでターンマークを立ち上がる。タイヤが削れ煙幕のように煙を上げスキール音が響き渡る。
フルカウンター、フルアクセルでのドリフトはマジカルレースでは必要ない。リヤタイヤをずっと滑らせ続けるのははっきり言ってタイム的には遅いからだ。
滑らせずにしっかりグリップさせたほうが前に加速する。何故それでもやったかというと、ちょっとばかしテンション上がりすぎちゃった。
16年ぶりのドリフトなもんで。これもサイドブレーキをきっかけに使った立派なドリフトなのだ。口には出さないが心の中で「ひゃっほー!」と気勢を上げていた。
世紀末にバットもって暴走してそうな勢いだ。もちろん頭髪はモヒカンだ。暗殺拳の使い手に一撃でやられそうだからこのへんにしておこう。
それでもマジカルレースでこのJターン、というかサイドブレーキをを使うサイドターンが主流なのは車の向きを自由に変えられる点にある。
マジカルレースはフライングスタート方式というものを採用しており、詳しい話はまたにするがスリットを決まった時間までに通過しなければならない。
前の世界で言うローリングスタート方式と似ているところもあるがまた違ったものだ。このフライングスタート方式により各車タイミングを見ながらほぼ横一線でスリットを駆け抜けるのだ。
これによって第一ターンマークは6台並走状態で突っ込むこととなる。だからこそ6台並走状態から抜け出すためにサイドブレーキで自由に車の向きを変えることで第一ターンマークで自分の狙ったところへ車を持っていくのだ。
隣の車の内側だったり、それこそ車と車の間だったり。
構造は全く同じ車なのだから同じスピードで同じタイミングでブレーキして同じ量ステアリングを切ろうものならセッティングや技量にもよるがほぼほぼ同じターンの軌跡になってしまう。
これは他の車をかわして前に出るという自由なハンドリングは得られないということだ。これを可能にするのがサイドターンと言うわけだ。
デモ走行の時にも話したがなるべく小さく廻り速く立ち上がる、これが6台並走状態から抜け出すためにマジカルレース界の主流なのだ。
さらに言うと相手の内側を行く「差し」が主体なのだがこれも後の機会に話すとしよう。
そして二週目のホームストレートで全開で加速する。試験官が驚いた顔をしていた。
バックストレートを内側から立ち上がっていた時点で何か察していたようだったがまさかと思っていたのかもしれない。
まさかサイドターンをやるのかと。
ちなみにヨーコに後で聞いた話だがピットではちょっとした騒ぎになっていたらしい。
「まじかよ!?試験官と同じようにドリフトしてたぞ!?」
「うそだろ?試験官が運転してるんじゃないのか?」
「いや、受験生が乗り込んでたしそれが証拠にさっきフロントタイヤロックさせてたし!」
他の受験者たちが声を抑えようとして抑えきれない感じでひそひそ話していたらしい。試験中というのに私語も甚だしい話だ。元凶の俺が言うのもなんだが。
ちなみにヤな感じは目を真ん丸にして「なっ!?」と言って固まっていたらしい。まー、年季が違いますから。同じ16歳だけど。
三周してピットに戻ったらちょっとした騒ぎどころではなかったのだがもう少し後の話だ。
まだまだー! マコトはそう思いながら加速し、そのまま二週目第一ターンマークが迫ってきていた。
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マコトの独り言
〇ヒール&トゥについて
俺は前の世界では街中でもヒール&トゥをしていた。ネットではヒール&トゥはサーキットのテクニックで街中では必要ないという人もいたがそうでもない。
通常はクラッチを切ってギヤを変えたあと半クラッチで動力をつなぐがこれだとクラッチ板がすり減ってしまう。
例えば4速と3速のギヤでは大きさや歯数が違うので同じ速度でも回転数が違う。クラッチを切らないとギヤが変えられないのはこのためだ。
なのでクラッチを切ってギヤを変えるわけだが、いきなりクラッチをつなぐとその回転差のためにエンジン回転数がいきなりあがってしまう。
タイヤによってエンジンが回されてしまうわけだ。
だからギヤを変えてすぐにクラッチをつないでしまうといきなりウォーン! といってエンジンブレーキがいきなりかかった状態になり乗っている人が前につんのめり乗り心地が非常に悪い。
そのためにクラッチを半分つないだ状態で回転軸同士を滑らせながら回すことでこの回転数の差を吸収してやり乗り心地もスムーズになるのだ。
しかしこの半クラ、滑らせながら回るのでクラッチがすり減る。強化クラッチいれていたりするとなおさらだったりする。
なのでその速くなった回転数にエンジン回転数をあわせてやるのだ。それがアクセルを踏む行為でありこれをブレーキングと同時におこなうわけだ。
これを行うことでスムーズにギヤを落とすことができる。
俺の前の世界で乗っていた車は強化クラッチだったから街中でもやる必要があったのだ。逆に言うと回転さえあわせてやればクラッチを切らずにギヤを変更することも可能だ。
ギヤ同士の回転速度が違うのでクラッチでいったんエンジンとの接続を切るわけだから最初からエンジンの回転数をあわせてやればいい。
実際に前の世界でもやっていたし、レースで使われるドグミッションはまさにクラッチを使わずに回転数を合わせることでギヤを変える。
まあ、たまに失敗してガガっ!となりギヤを痛めてしまうので一応クラッチを切ってつないではしているが半クラというには短い時間でスッとクラッチをつないでいる感じだ。