第一話 魔力はエネルギー
ストーリーに直接関係しない技術的な内容をマコトの独り言にまとめ直しました。
うんちくを読むのが面倒な方はぜひ飛ばしてお読みください。
ただ、ストーリーよりそのうんちくのほうが長くなってしまいましたが...
マコトの独り言に追記しました。
俺は学校の窓から道路を走る魔導車を眺めていた。するといきなり後ろ頭をぱしんっ!とはたかれた。
「マコトー。また魔導車みてんの?」
このいきなり頭をはたいてきたのは幼馴染のアマノヨーコ。いわゆる腐れ縁というやつだ。
「うっさいなー。別にいいだろー。」
頭をさすりながら俺が言う。
「昔っからよくあきないわねー。」
あきれたように言うヨーコをあっちいけとばかりに手を振って追い払う。なによー、と言いつつヨーコは去って行った。
物心ついたころから町を走る魔導車を見ているとワクワクする。幼い頃よりよく一人で陸橋の上から魔導車を1日中眺めていた。
それどころか今ではいてもたってもいられず、すぐにでも飛び乗りたい衝動にかられるまである。
まあ、走っている魔導車に飛び込むのは単なる自殺行為だけど。実際に通りすがった人に「はやまるな!」と肩をつかまれたことがある。
「若気の至り」というやつかもしれない。ちょっと、いやかなり違うか。
そんなおっさんくさいことを言う俺はヒビノ マコト。魔導車に恋焦れる16歳の学生だ。
普通の16歳の学生なら異性に恋したりスポーツに青春したりしているだろう。
しかし、そんなものには目もくれず俺の興味を異常なまでに引いているのが魔導車だ。
魔導車とは魔力で走る車のことだ。魔導エンジンを積み四輪のタイヤで走る。
前の世界で言う自動車と基本的に同じ構造だ。ただ大きく違うのがガソリンではなく魔力で動くということ。
魔力で動くなら魔動車じゃないの?と思うかもしれない。というか俺も思った。
これはどうやら魔導車の技術を開発したのが魔導士たちだからだそうだ。100年近く前になる。
個人的にも魔導車のほうが気に入っている。魔力で導く車と書いた方がいかにもファンタジーだ。
この世界は魔法があり魔力がある。しかし今では魔法にお目にかかる機会は少ない。
なぜならファンタジーでいう剣と魔法の時代はとうの昔に過ぎ去り一般的に魔法は使われなくなったからだ。
魔法を使えるのは魔導士と呼ばれる国家資格をもつ一部のものだけだ。魔導士事務所があり社会的地位もとても高い。
前の世界での弁護士と同じくらいの位置づけだろうか。もちろんこちらの世界にも弁護士はいるのだが。
今は近代化が進み剣と魔法ではなく鉄と魔力の時代といえると思う。
何故なら内圧機関が開発されたことにより産業革命が起きて時代は近代化の一途をたどったからだ。
この前ちょうど学校の歴史の授業で習った。魔力は圧縮すると熱エネルギーへと変換される。
この性質を利用したのが内圧機関だ。
シリンダー内のピストンを上下運動させることにより魔力を圧縮し熱エネルギーへと変換することで、空気を爆発的に膨張させコンロッドをかいしてクランクが回転運動し動力を得る。
しかし、魔力は通常の物質では透過してしまい圧縮どころかとどめておくことすらできない。
そこで内圧機関は魔鋼でできている。魔鋼とは長い年月魔力を帯びることでできる鉱石のことだ。
魔鋼であれば魔力を閉じ込めておくことができる。
この内圧機関は魔力や魔鋼を使ってはいるが前の世界で言う内燃機関と基本的な構造はほぼ同じだ。
内燃機関とは要は自動車のエンジンのことだ。
このように魔法が一般的に使われていた時代は終わり今や魔力をエネルギーとして使う時代になっている。
自分の魔力を使いわざわざ魔法を覚えずとも、貯蔵した魔力を内圧機関でエネルギーに変えることで様々なことができる時代となったのだ。
それに前の世界のエンジンとくらべ魔導エンジンは燃料を燃やすわけではないので排気ガスもクリーンだったりする。
ちなみに、今は前の世界で昭和と言われていた時代ぐらいの文明レベルだと思う。魔導車のデザインも角ばった四角のデザインが多い。
ところで、さっきから何故前の世界なんて話をするかというとどうやら俺は転生者らしい。
というのは俺が8歳のときにあることをきっかけに前の世界の記憶が蘇ったからだ。
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マコトの独り言
〇スリーブについて
魔鋼は高価なので今ではエンジンブロックは鋳鉄、スリーブに魔鋼が使われている。スリーブとはシリンダー内に圧入する筒状のもののことだ。
エンジンブロックそのものを魔鋼にするより魔力を閉じ込めておく部分だけ魔鋼にすればコストダウンになる。そしてもちろん魔力が通る部品、部位は全て魔鋼で作られている。
〇内圧機関と内燃機関の違いについて
この世界の内圧機関が前の世界の内燃機関と違うのは、ガソリンを燃やさずに魔力を圧縮し熱エネルギーに変換することで空気を膨張させるところだろう。
過去には蒸気機関やガスなどを使った内燃機関も研究されたそうだが、安全性を比較すると剣と魔法の時代より慣れ親しんだ魔力を使った方がよかったらしい。
古より魔法とは魔力をコントロールするものだったからだろう。前の世界でも蒸気やガスは爆発事故が絶えなかったそうだ。
それでも魔力や魔法があっても人間である限り同じことを考えるのかもしれない。だから文明の進化の方向もおおよそ似てるのだろう。
〇残留魔力について
魔導車の魔導エンジンから排出されるのは魔力が熱エネルギーへと変換された後の残留魔力のみだ。しかし、魔力の熱エネルギー変換もすべて変換できるわけではなく変換効率が存在する。
しかも熱エネルギー変換後の残留魔力は変質しそのままシリンダー内で圧縮し続けると変換効率が悪化し続けるので、そのままシリンダーに残さず排出する必要がある。
ただこのまま魔導車の普及が世界的に進み魔導車が排出する変質した残留魔力が増え続けると、前の世界のような環境破壊につながるのかどうかは今のところ分かっていない。
前の世界でも自動車が普及する前では環境を破壊するほどになるとは考えてもいなかっただろうし。今の俺にはどうすることもできないし、その問題は偉い魔導士たちにまかせるとしよう。
〇こちらの世界の技術について
こちらの世界の魔導車は前の世界の古い自動車の形によく似ている。これはプレス技術がそこまで発達してないからだろう。
プレスと言うと金型で圧力をかけて鉄の板を上下から押しつけてやればどんな形でもできるイメージがあるかもしれないが、実際は鉄は曲げたら元の形状に戻ろうとする。
単純に曲げるだけなら簡単だが大きな曲線を持った形状や複雑な形状などにすると、型でそれこそ何百トンの力をかけても型通りの形状にならず車に組み付けることができない。
要は大まかな形状はできるが精度が出ないわけだ。精度が出なければ部品同士を組み付けることができないということだ。。
前の世界で流線形や丸みを帯びた車が多かったのはそれだけプレス技術が発達していたということだと思う。
さらにヘッドライトのリフレクター(反射板)の光の反射形状の技術も同様らしく、四角か丸を基本とした形状になっていて前の世界のようにいろんな形状のヘッドライトが作れるわけではないようだ。
確かに前の世界の古い車も四角や丸い目をした車が多かった。技術とはトライ&エラーとノウハウの積み重ねなんだと思う。
この世界でも十年、二十年と技術を積み重ねていけば前の世界のような自動車に近づいていくのだろう。
この世界には前の世界で言うペットボトルというものもないし、アルミ缶すらまだなく自動販売機で売られているのはスチール缶だ。
これも樹脂の成型技術、アルミのプレス技術が発達していないことによるだろう。だいたい前の世界でもペットボトルが普及したのって平成に入ってからだったし。何度も言うがいろんなところが昭和なのだ。