闇の伯爵は最愛を手にいれる①
長くなったので二つに分けました。
鬼畜の本領発揮です。
「どう言うことなんですか、学園長!!学園を追い出されただけじゃなく、今すぐこの国から出ていけなんて!!」
「…………私はこれでも君のためを考えて言っているんだがね」
「だからどうしてですか!?納得のいかないことに従うことはできません!!」
……この愚かな娘は、あの伯爵を敵に回すと言うことの恐ろしさを知らない。
「たかだか落とした林檎がぶつかりそうになった位で何ですかあの態度!?被害者ぶっちゃって!」
この期に及んでも尚反省の色ひとつ見せない娘の姿に私はむしろ愕然とする。
「ジークが私にあんなことを言うなんてありえない……!!あの女がジークに何かしたに決まってます!!」
「………君は伯爵となにか面識でもあるのかね?」
そんな事は有り得ないと知りながら尋ねれば、「そ、それは……」と今更ながら急に口ごもる娘。
ただの市井の娘がこの国一番と名高い伯爵にお会いする機会などあるはずがない。
当然の話だが、娘はなぜか不満そうに口を尖らせ「でもジークは……!」と三度その名を口にする。
それを聞くに耐えないと片手でさえぎり、もう一度私は尋ねた。
「ではなぜ君は伯爵を愛称で呼ぶ?それを許されるのは伯爵のお認めになられたお方と妻になる女性だけだ」
これだけ言えば流石に理解するだろうと思ったが、娘は更に狂人のような台詞を堂々と吐き、恥ずかしげもなく胸を張った。
「だから、それが私なんです!!愛称だって、本当ならさっき彼の方から呼んで欲しいと言われるはずだったし…!」
「君は…………」
あの状況でよくそんなことが言えたものだと、驚くより先に呆れるしかない。
そして私は次の娘の言葉に、もう何もかもが手遅れなのだと今さらながらに思い知らされた。
「それも全部あの女のせいよっ。そもそも私がジークの妻になるのが正しいストーリーなんだから……!!」
「…………………」
ストーリー。
それはきっと、この娘の頭のなかだけに存在する分相応な妄想の事を言っているのだろうか。
「伯爵は既に義理の妹君であらせられたルナマリア様とのご婚約が成立している。君がその隣に立つことなど有り得ない」
特待生の選考時、なぜ私は気づかなかったのだろう。
先程あの方が指摘したように、この娘は完全に頭がおかしい。
市井の育ちではあっても、優秀なものは存在する。
その信念の元に始めたこの特待生制度が誤りだったことを、私は今認めざるを得なかった。
たった一人の狂人が、これから芽を出したであろう多くの人間の未来を全て台無しにしたのだと、あまりの虚しさに声もでない。
考えれば考えるほど馬鹿らしくなってきた。
私はもう一度だけ深く吐息をはくと、最早遅すぎる警告を娘に告げた。
「今すぐここから逃げるんだ」
ーーーーでなければ、命の保証はない。
教育者として、それが私にとっての最後の良心だった。
※
「ほぉ……。やはり逃がそうとしたか」
「1度は生徒として招き入れたものを、その手で処分することには躊躇いがあったのでしょうね」
「無駄なことを」
この国で、闇の伯爵と呼ばれる私の手から逃れられるものなど存在しない。
何もかも承知の上で逃がしたのだとすれば、それはただ己の手を汚したくないだけの卑怯者だ。
そのような男がトップに立つ学園など、存在する価値もない。
「潰せ」
「はっ……」
影が移動したのを確認するまでもなく、私は窓の近くに立つと、変わらぬ外の景色を眺めた。
あの日、こうやって彼女はやって来た私を見下ろしていた。
どこか不安そうに、その瞳を揺らして。
「ようこそ我が家へ」
張り付いた仮面のような笑みを浮かべる伯爵夫妻の横で、人形のようにうつむいていた彼女は、「宜しく」と手をとる私に向かい、戸惑いながらもどこか恥ずかしそうな笑みを作る。
「宜しくお願いします………お義兄様」
その小さな声に、初対面であるにも関わらず、何故かようやく彼女から受け入れられたのだと、歓喜にも似た感情を覚えた私は、そのまま驚く彼女を抱き締め、その額に軽く口づけを落とした。
彼女はうっすらと頬を赤くそめながらも、私の腕を拒むことはない。
それどころか、上目使いに私を見上げ、「あの……」と。
「どうか、私の事はマリアと呼んで下さい」
珍しく積極的な娘の姿に、両親の方が驚いているなど間抜けな話だ。
だがせっかく彼女から歩み寄ってきてくれたのだから、このチャンスをのがすつもりなどはなかった。
「宜しくマリア。私の可愛い義妹君」
やっとこの手の中に降りてきた、愛しい小鳥よ。
マリアはかなり頑張ってます(笑)
引き続き連載中の「幼女化ヒロインは逆ハーレムを望まない」の方も宜しくお願いします。
あやかし好きは是非( ´∀` )b