薔薇は秘密を知る
薔薇。
その花は、私にとっての『終わり』を意味する。
「誰とも知らぬものからの贈り物など捨ててしまえ」とばっさり切り捨てたジークの言葉によって、大輪の薔薇は炎の中に消えていった。
『………気分が悪いわね』
「そうね…」
メッセンジャーも送り主の名もなく、突然送りつけられた数十本の薔薇。
それがいったい何を意味するのか。
考えるだけで気が滅入る。
『あの子の仕業かしら』
「さぁ……」
分からないと首をかしげながらも、私はほぼ確信していた。
あの単純な娘が、こんな手の込んだ真似をできるはずがない。
『オニイサマ、まさかアレを逃がした訳じゃないわよね?』
「それはないと思うわ」
義兄の手筈に不手際があることは考えられない。
逃げたとしても、あの娘に国境を超えることはできないだろう。
この国にいる限り、全ては兄の思惑ひとつ。
市井の娘一人、赤子の手を捻るより容易く処分ができる。
マリアはこれまでの記憶から、それを十分に理解していた。
『じゃあ、あの薔薇は何かのメッセージかしら』
「…………私の他に、記憶を持つ人間がいる?」
そして、わざわざ薔薇を送りつけてきたということは、その人物がマリアを快く思っていない証ではないか。
『潔くシナリオ通り死ねと言いたいわけね。冗談じゃないわ』
吐き捨てるルナに私も同意だ。
既に歴史は改編された。
今更シナリオを元に戻すことなど不可能。
出来るとすればそれは、一度この世界を終わらせ、初めからやり直すことだけ。
そう。
何不自由なく一生を終えることができた前回が終わり、再び今が始まったように。
『そういえばレオナルドは今頃どうしているかしらね?』
「義兄の手の者には情報を伝えてあるのだから、上手く保護されているはずよ」
王子を保護しているとなれば、国としてかの国に恩を売ることができる。
手荒に扱われることはないだろう。
本来ジークハルトのルートには、レオナルドは登場しない。
つまりは人知れず伯爵家以外のどこかに買われ、そのまま一生を終えるか、はたまた、どこかで獣人国の者に救われ、王位に返り咲いたのか。
ジークハルトによって命を奪われ続けたルナマリアには、それはわからない。
けれど、前回の愛し愛された記憶を持つ私には、彼をそのまま放置しておくことはできなかった。
もう彼に会うことはないだろうが、私ともヒロインとも違う真実の愛を見つけて幸せになって欲しい。
そう祈ることくらいは自由なはずだ。
「そういえば…………」
レオナルドで思い出した記憶がある。
ジークハルトルートからの途中分岐で発生する、特殊な攻略対象がいたことを。
レオナルドルートでは、彼はこの国の大使として、獣人国での私の結婚式にも参列していた。
彼と私とは、何ら接点がなかったはずだが…………。
『気になるわね………』
同じ記憶を持つルナもやはり、同じことに気づいたらしい。
彼の名をなんと言ったろう?
シナリオ通り義兄が学園に通っていた場合、兄の学友としてその隣に立つことになっていた彼の名は。
「『カイル・ターナー』」
次回チャプター3スタートします。




