エピローグ ~眠り姫の目覚める時~
まだ昇り始めの日の光が窓から差し込んで、静かに部屋を明るくしていく。
いつも先に起きているメイリアが隣りで小さな寝息を立てているということは、珍しく先に目が覚めたらしい。
「ん?」
近くで眠る時には必ず私のどこかをつかんでいる妻は、今日は袖をつかんだまま眠ったらしい。
……これでは起きれないな。
自分より先に寝ることが多いが、その分、朝が早い。
起きたら畑に行ったり掃除をしたりしているメイリアが眠っているということは、少しずつ明るくなってはいるが朝ではないのだろう。
そういうことにしておいて、まだ起きる気配のない妻を抱え直して横になる。
「ん……」
「起きたか?」
「すー……」
少しだけ身動ぎをしたら、また小さな寝息が聴こえてきた。
顔にかかった薄い茶色の髪を避け、そのまま軽く頭を撫でる。
それがすでに当たり前のことのように、妻は「毎日撫でろ」と言ってくる。
「んふふ」
「メイリア?」
名前を呼ぶ時も、こうして頭を撫でる時も。いつも小さく微笑んで、そうしてなぜかもっと近付いてくるのだから困る。
起きてはいない。つかんでいた手のひらを離しても、近付いたらまたつかみ直すのだ。
だからこそ厄介なのだと、妻が知るのはいつの日になるのか。
「すー……すー……」
「……」
毎日のようにしているから、そろそろいいかと思って。昨夜もいつものように頭を拭くために近付いたメイリアの唇に触れたら腰を抜かした。
まだ廊下だったからとそのまま抱えてベッドまで運んだら、さらに全身を真っ赤にして気を失うとはどういうことなのだろうか。
「これではいつまでも家族が増えないぞ、メイリア」
「んん……」
初対面でしたように頬をつねったら、鬱陶しそうに手を払ってさらに潜り込んでいく。
いつも先に起きるのはメイリアだから知らなかったが、自分から起きようと思わなければ何があっても起きないらしい。
「すー……すー……」
「……まあ、いい」
物心がつく前にこの家を与えられ、この春まではずっと一人だったのだ。執事のリュードは昔からいたが家族ではない。
そんな自分と結婚をして、「いつになるかはわからないけど、もっと賑やかにしましょうね」と言ってくれたただ一人の妻。
「いつまで待たせる気だ?」
「すー……すー……」
「……」
「魔法使いでも一般人でも、シュトレリウスの子供を産むのはわたしだけだ」と啖呵を切っておいて、触れるだけで固まるのはいい加減どうにかならないものなのか。
「んん……」
「起きたか?」
「ぎゅっとして」
「……」
パタパタと何かを探すように叩く手が私の背中に回ったら、そのまま全身を預けるように近付いてきて無茶を言う。
「……仕方がない」
誕生日の贈り物は結局、まだ買っていない。次の休みに街へ出掛けて、今度こそ普通の服を買いに行くか。
「すー……」
「……」
背中に腕も足も回して、私が逃げないようにと捕まえながら安心しきった顔で眠り続けるとは。
起きたら覚えていろと抱え直し、目覚めたらどんな顔をするのか楽しみにすることにしよう。
……できれば鳩尾に拳をめり込ませるのは二度と御免だと思いながら。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
【第二部:近付く夏】はこちらで終わりです。
少しでもお楽しみいただけていたら幸いです。
続きは【第三部:深まる秋】になります。




