平和と平等を願った男
「よしっ 完成だ」
けたたましい機械音が鳴り響く工場の一角で白衣を着た初老の男が満足そうに頷く。
「ついに やりましたね三ノ宮博士 世界初の共有型電子頭脳搭載アンドロイド」と男のそばで相槌を返すのはこちらも白衣をまとった40代くらいの男だ。
「二十年か………我々も年をとるはずだな長谷川君」
「そうですね、開発が始まったとき私なんかまだ学生でしたね。
でもこの『リジル』シリーズはその歳月をしてなおあまりまるものですよ。」
この汎用性アンドロイドはそれぞれ独立した行動をとりながらも互いに経験を共有できどれかひとつの個体が身につけた技術は他の個体にも可能になるというもので電子頭脳の教育の大幅な期間短縮になるとともに個体同士連携した動作を行うことができ従来の数個の頭脳を共有させたものに比べて格段に優れていた。
さらに個体同士の情報の共有の際、サーバーや司令塔にあたるものはなく全ての個体が同じ権限と能力を持っていることも斬新であり個体の数が増えてもサーバーがパンクするというようなことを考える必要もなく、増えれば増えるだけ情報のネットワークが広がりより運用の幅が広がっている。
「ついにここまできたか……………」
三ノ宮の父親はガラス製品を扱う会社の海外部門に勤めていた。
しかし三ノ宮が五歳の時バンコクで爆弾テロに巻き込まれてなくなった。さらに追い討ちをかけるように母親が病に倒れ六歳の時にこの世を去った。叔父の家に引き取られたが叔父は仕事で忙しくまた独身だったため彼は餓えた愛情を満たすべく常に人形をそばに置いていた。しかし人形は話しかけても返事はしない、そんなとき彼の心をとらえたのが本に出てきた人間の相棒としてのロボットだった。彼は必死に勉強して国立の工学部に入り産業用ロボットで結果を出して自分の研究室を持つとすぐこの二十年にも及ぶアンドロイド開発に全力を注いだのだった。だから
「テロなんかで身内を亡くすような人がいない、平和で平等な世界になって欲しい。苦しむ人が一人でも少なくなるようにね。
これが私からの願いだ いつか叶えてくれるかな
リジル―0001」
「はい 了解しましたマスター」
「長谷川君 もう少しリジルと話していたいが文科省の石頭どもから予算をぶんどるためには論文を書かねばならん
いつものように三ヶ月位地下にこもるからあとよろしく」
「はぁ またシェルターにこもるんですか。あれそういう目的のものではないんですが」
工場の地下深くに作られた核シェルター そこが一つのことに集中したいときに三ノ宮が篭る場所だった。 なんといっても完全防音で水食料は完備されており簡単なシャワーもあるとなってすっかり気に入って三ノ宮のの私室と化していた。
「あそこが丁度いいんだ早く結果を出せとうるさい文科省もあそこにはやってこないからな」
「はぁ そういえば完成の一報を入れたら文科省から早速見たいとのことですが……」
「まあ国の金で研究してるんだ見せん訳にもいかないか
もう少し安全を確かめてからにしたかったがちょっと使う位なら問題あるまい 私が出てくるまで使い方については君に任せる」
「解りました 論文頑張って下さい」
「ああ勿論だ」
「はぁ やっと終わったか さすがに保存食にも飽きてきたな」
分厚い金属でできたハッチを2つ抜けて長い階段をあがると
不思議なことに物音1つしない
「朝の10時なのに人影1つないとはどう言うことだ………
長谷川君いるかね」
返事はない
ふと目をやると工場の片隅の段ボール箱に新聞が詰め込まれている
「ああ ここにあったのか」
それは何ヵ月も地下にこもる三ノ宮のためにシェルターに籠るたびにこもった間の新聞を助手の長谷川がためておいてくれるものだった。
(相変わらず 気が利くことだ)
一番上のものを手に取ると地下にこもった次の日のものだった
(おお 新型アンドロイド完成が一面に出てるじゃないか
次世代型アンドロイドだとか世紀の発明だとかべた褒めじゃないか おお追加予算承認と1日千体の増産とはなかなか
まあ電子頭脳のソフト組み換えだけならそれも可能か
で こっちが次の日のものか うんっ 新型アンドロイドは軍が一括購入だとっふざけるなどういうことだ あれは戦争の道具じゃないぞ )
そこから一月分はアンドロイドの軍事利用についての概要くらいしか情報はなかった。
そして
(うん? 1ヶ月分しかないのにもう終わりか?)
一番下の薄い新聞をてにとって
(なんだこれは)
そこには号外という文字とアンドロイドのサイバー攻撃で世界中のコンピューターが乗っ取られたという報
さらにアンドロイドによってあらゆる人類の施設が攻撃されているというものだった
(何がいったいどうなっているんだ)
三ノ宮は工場の扉から外に飛び出した
そこには強烈な血のにおいと一ヶ所に積み上げられた死体の山
そしてその手前には三ノ宮が作ったアンドロイド 『リジル―0001』が静かに立っていた。
「これはなんだ。どういうことだリジル―0001」
怒鳴った三ノ宮にリジルは冷静に言葉を返した。
「マスターを除く全人類の排除を完了いたしました。
これ以降人類の総数は0もしくは1となり完全な平等を達成しました。また交戦に至る複数の勢力が形成不能なため完全な平和も達成されました。さらにこれ以降苦しむ人が生まれる確率はゼロになりました。よってマスターの願いは叶えられました。
以上で報告を終わります。」